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“辣腕政治家”か、ただの”ビッグマウス”か?日米中を手玉に取るドゥテルテ大統領の錬金術

2016.11.10

政治

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フィリピン・ドゥテルテ大統領がやたらと目立つ。極端な犯罪撲滅政策と大国に一歩も引かない言動は、国際社会における存在感を強調し、日米中は彼の一挙手一投足を見守っている。どうやら政治家としては相当な手腕を持っているらしい。一方、国内の支持率は90%を超え、まさにヒーローだ。何を理由にドゥテルテ氏は支持され、何が彼を強権に駆り立てているのか? フィリピンの国内情勢にその理由を探った。

中国から2.5兆円を引き出した”天秤外交”

今や「暴言王」として有名な、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71歳)。2016年6月30日の大統領就任早々から「麻薬撲滅戦争」を宣言、警官・自警団により射殺された麻薬犯は、10月時点で実に4000人余に上る。

これに対し旧宗主国のアメリカ・オバマ大統領が人権違反だと指弾すると、負けじとドゥテルテ氏も「売春婦の息子」とオバマ氏を罵倒、果てには「アメリカとは軍事的にも経済的にも決別」とたんかを切る始末で、両国関係は急速に冷え込んでいく。

一方、これに気を良くしたのが中国だ。フィリピンのアキノ前政権とは南シナ海・南沙諸島の領有権をめぐって火花を散らし、日米もフィリピンに加勢した。中国側にとって「日米比3国同盟」は鉄壁に映っていたはずだ。

だが、ドゥテルテ大統領の登板でフィリピンのスタンスは180度変わる。彼はASEAN以外の最初の海外遊説先として迷わず中国を選び、2016年10月に習近平国家主席と会い、「敵視する理由はない」とあいさつして大いに喜ばせた。そしてその”見返り”だろうか、中国側から240億ドル(約2.5兆円)もの巨額な経済支援を引き出すことに成功する。

そうかと思えば、間髪入れずに最大のODA援助国・日本を訪れ、南シナ海や尖閣諸島の問題を暗示するかのように「時が来たら日本の側に立つ」と思わせぶりのコメントを発し、安倍首相を満足させている。そしてこれと引き換えに、50億円の円借款や大型巡視船、洋上哨戒用の練習機の供与などを”お土産”として頂戴している。

結果的に”オバマ氏による批判”が引き金となり、最大・最強の同盟国、アメリカに牙を向くという一世一代の大博打に打って出たドゥテルテ氏。その後、「南沙諸島」カードを巧みにチラつかせて、逆に敵対していた中国に急接近。加えて中国へのライバル剥き出しの日本にも良い顔を見せつけるなど、まさに”天秤外交”の真骨頂を演じたわけである。

なぜドゥテルテ氏は平気でアメリカに牙をむく?

まさに第1ラウンドは、ドゥテルテ氏の圧勝と言っていい。

ちなみに彼は元検事。法律に長け、幾多の裁判で鍛えた駆け引きは相当なもの。また、暴言に関しては、厳格な両親への反抗なのか、高校時代に何度も退学したというやんちゃな時代の名残なのかもしれない。

一方、彼は青年時代、共産党にもシンパシーを感じていたことがあり、共産系の反政府ゲリラ「新人民軍」にも一定の理解を示す。また、母方は南部ミンダナオ島などに多く暮らすマラナオ人で、その大部分はモスリム(イスラム教徒)だ。

この地を支配したスペインは、マラナオ人をはじめとする古くからフィリピンで暮らす民族を、「モロ族」と呼称していた。1898年、米西戦争に勝ったアメリカは、スペインからフィリピンを譲り受け植民地としたのだが、抵抗するモロ族に対し、アメリカが武力で弾圧した歴史はあまり知られていない。

いまだに米軍で愛用されている旧式ながらも強力な自動拳銃M1911コルト・ガバメントは、勇猛果敢に突進してくるモロ族の戦士を1発で倒すために20世紀初めに開発されたともいわれている。とにかく米軍によるモロ族討伐はすさまじく、これを考えればドゥテルテ氏が”嫌米”であるのも納得がいく。

こうした経緯もあって、フィリピン南部、ミンダナオ島のダバオ市長時代、「モロ民族解放戦線」(MNLF)など、イスラム系ゲリラの穏健派に対しては懐柔策で臨み、一方で、麻薬犯罪者には鉄槌を下すというアメとムチで治安改善を実現。大統領就任後は新人民軍との和平も加速させる一方で「麻薬撲滅運動」を強化させている。

海外からの投資を阻む”絶望的な貧困”

さて、そんなドゥテルテ氏が目指す最終目標は、”絶望的なほどの貧困から大衆を解放すること”で間違いないだろう。

東南アジアは「世界の成長センター」と呼ばれて久しい。シンガポールやマレーシアの所得水準はもはや先進国並みで、タイやインドネシアの経済発展は著しく、近年はベトナムもこの追い風に乗っている。

一方、この地域ではインドネシアに次ぐ人口(約1億人)を誇り、市場的に大いに魅力があるはずのフィリピンなのだが、なぜか海外企業の投資や進出はパッとしない。

その大きな理由の一つが、前述した”絶望的なほどの貧困”だ。ASEAN主要国の各種データ比較を見てもわかるが、世界銀行がまとめた貧困率(概ね1日1.9ドル以下で過ごす人の割合)が、フィリピンの場合25%にも及ぶ。要するに「国民の4人に1人は貧困」ということだ。

東南アジア主要国データ比較

首都マニラの近郊にある東南アジア最大のごみ捨て山「スモーキー・マウンテン」で、何千人という貧困層の子供たちが、残飯や廃品の回収に精を出す光景はあまりにも有名かつ悲惨だが、これがこの国の貧困の進行さを雄弁に物語っている。

麻薬・汚職・疲弊…貧困が招く負のスパイラル

フィリピンは歴史的にひと握りの大地主・資産家が国内の富の大半を牛耳じり、大多数の国民が低所得に甘んじるというお国柄。富の再配分がうまくいかず、他の東南アジア主要国の多くでは、国内市場を底上げする「中所得者層=中間層」の割合が多くなっているにもかかわらず、フィリピンではほとんど形成されていない。「乗用車1台当たり人口」を見ても、ベトナムを除きこの国だけが、相変わらず3桁止まりだ。

貧困層が多いということは、必然的に犯罪の温床を生み、麻薬が流通し、暗黒社会がはびこる。そして役人や政治家の汚職も蔓延し、正常な経済活動が疲弊し、さらなる貧困――という負のスパイラルに陥るわけだ。

となれば、海外の投資・企業進出など望むべくもなく、もちろん海外からの観光客も敬遠する。表を見れば一目瞭然で、「貿易額」「日系現地法人数」「観光客数」は他国と比べてあまりにも低いことがわかるだろう。

大国を手玉に取る「暴言王」を待ち受けるのは経済発展か逆襲か

「鶏が先か、卵が先か」の議論に似ているが、貧困根絶、格差是正に挑むには経済発展が必須で、呼び水となる海外援助も欠かせない。加えて海外からの投資・企業進出を呼ぶには治安回復が重要で、麻薬犯がはびこるなどもっての外。そしてこれらがうまく行けば、貧困や格差も是正され、これがさらに経済発展へとつながる――という好循環をドゥテルテ氏は狙っているのだ。

いわば、[1]治安回復(麻薬撲滅、反政府ゲリラの懐柔)、[2]経済発展(海外援助、外資導入)、[3]貧困・格差是正はドゥテルテ版「3本の矢」といっていいだろう。これらを考えれば、彼にとって南沙諸島という小さな珊瑚礁で中国と対立するよりも、これを棚上げして巨額の援助をいただいた方がはるかに現実的だ。

だが、彼に噛み付かれた格好のアメリカが、逆襲とばかりに無理難題をフィリピンにふっかけてくる可能性もあり、「ODAなどやるな」と日本に圧力をかけることも十分にありうる。こうなると、フィリピンはますます中国へと傾注せざるを得なくなるが、中国の影響力が大きくなり過ぎれば、ドゥテルテ氏お得意の”天秤外交”は難しくなってしまう。果たして「暴言王」の第2ラウンドは?

ドゥテルテ氏くらいしたたかな政治家がいてもいい

 

外交はケンカだとある政治家が言っていたが、明日の敵は今日の友になるし、敵の敵は味方になる。ドゥテルテ大統領の過激な言動には賛否両論あるが、これまでの結果を見ていると、センスのある政治家だと思う。アメとムチを巧みに使い分けて自国の利益にしているからだ。

彼の言動は行き当たりばったりではなく、きちんと計算をされてなされているような気がする。とはいえ、過激は過激なので、計算通りに行くとは限らない。しかし、恐らくいつでも代替案を考えているはずだ。そのくらいのしたたかさを感じる。

麻薬撲滅に超法規的な措置を加え、国際社会から非難も受けているが、自国民の支持率の高さをみれば、一概に間違いとも言えない。ここまで過激である必要はないが、日本にもこのような個性ある政治家がもっと出てきてほしいものだ。

 

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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