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「建前」がマイノリティーを受け入れる糸口に?LGBT当事者が語る性とPC(ポリティカル・コレクトネス)

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いつからか、メディアでは性的マイノリティーがご意見番のポジションを確立し、日本でも「LGBT」という言葉が随分と認知されるようになった。とはいえ、周囲の無自覚、自覚を問わず、LGBT当事者が差別的な扱いを受けがちであることは否めない。性的な問題に極端に弱い国民性からか、ときには半ばアレルギー的に避けられ、あるいは過剰なまでに気を遣われる。そんな状況に当事者たちは何を感じているのか。自身もLGBT当事者であり、全国各地で講演活動を行うNPO法人Japan GID Friends理事長・清水氏に聞いた。

清水展人 しみずひろと

1985年、兵庫県生まれ。吉野川市人権講師団講師、徳島県教育委員会 人権教育・啓発指導員。幼い頃から女性であることに違和感を抱き、女子短期大学に在学中、性同一性障害(GID/現GD・性別違和)と診断。21歳のときに海外で手術を受け、帰国後、特例法に従って戸籍の性別を変更。医療専門学校に社会人入学し、2012年、作業療法士の資格取得。同年、専門学生時代から付き合っていた女性と結婚。2013年、性的マイノリティーを支援するNPO法人Japan GID Friendsを設立し、人権課題についての活動を開始。2015年、合同会社インスパイアを起業し「他人を救えるリーダーの育成」にも努める。著書に「自分らしく生きる/性別違和を乗り越えて」(星雲社)がある。

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学級ならばクラスの2~3人がLGBT当事者

同性愛や性別に違和感を覚える人々を総称して性的マイノリティーやLGBTというが、この表現もまたポリティカル・コレクトネス(PC)に由来する言葉の一つのだろう。世界では同性婚を認める国は25カ国以上あるものの、日本ではまだ同性カップルに対して異性カップルと同等の権利が認められておらず、LGBTへの理解を示すことはあっても、差別意識自体が払拭されることがないのが現状だ。

LGBTとは

女性を恋愛や性愛の対象とする女性「レズビアン」、男性を恋愛や性愛の対象とする男性「ゲイ」、男女どちらにも恋愛や性愛の対象が向く「バイセクシャル」の3つの性的指向と、生まれたときに法律的・社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ「トランスジェンダー」(性同一性障害を含む)の、それぞれの頭文字をとって並べた性的マイノリティーの総称。性の多様性を表す言葉として用いられる。

「LGBTは、『体』『心』『性指向』の3つの軸があり、それぞれが男か女かのどちらかに振り切れるのではなく、どちらかに寄ったグラデーションになっています。例えば、私は見かけが男寄り、女性の気持ちもわかる点で心は中性的、恋愛対象は女性。そんな風に千差万別です。

現在、日本では人口の約8%がLGBTと言われています。つまり13人に一人は性的少数者で、数字で見れば身近な存在。それでも社会的な偏見や差別は依然としてあり、誰にも相談できずに自殺を考える10代の若者が多いのも事実です」

そう語るのは、2013年にNPO法人を立ち上げ、仲間と共にLGBTの支援活動を行う清水氏だ。自身も10代の頃、女性でありながら女性に好意を抱き、男性になりたいと願う自分に「社会で受け入れられない人間なんだ」と一人で悩み苦しんだ。

書類上は男になっても、つきまとう差別意識

「当時はジェンダー教育もなく、親にも言えず体に合わせた心に変えようと努力していました。そんなとき、テレビドラマを観て自分は性同一性障害なんだと気づきました。そして、18歳でホルモン治療を開始して両親にカミングアウト。

父は高校教諭、母は保育士だったので発達障害や人権については勉強していましたが、ともにトランスジェンダーの知識はありません。当然ながら『社会は甘くない!』と猛反発に合いました」

子の将来を思う親心なのだろうが、両親が自らの社会的立場を考えた言動にも感じられた。中性的な風貌から街を歩くだけで周囲からジロジロ見られ、トイレなどの公共スペースを利用するだけでも混乱、清水氏の孤立感は増していったという。

「一部の友人は理解してくれましたが、外に出れば誹謗されているような意識にとらわれ、親に認めてもらえないつらさも手伝って、精神的に追い込まれていきます。死ぬことまで考えた末、21歳のときに台湾で手術を受けました」

そんななか、日本では2004年に「性同一性障害の性別の取り扱いの特例に関する法律(以下、特例法)」が施行。清水氏も戸籍変更した。

「それをきっかけに、男性として一から仕事を探し始めたのですが、履歴書に女子短大卒と明記すると面接で必ず事情を聞かれ、最後は『前例がないから』と体のいい断り文句。結局、特例法で書類上は長男になり、名前もヒロコからヒロトに変わっても、社会の受け皿は全然整っていないんだと身をもって感じました」

マジョリティーの建前と本音のはざまで

「就職先が見つからない焦りで、性同一性障害と診断されて以来、通っていた大学病院の担当医を訪ねたんです。すると先生は『みんな頑張っているから君も頑張って』と。わらをもすがる思いで駆け込んだのに、たったひと言でおしまい。怒りがこみ上げてきましたが、それが社会の縮図だったんです」

建前では共感してくれるようでいても、本音の部分では拒絶するか無関心。日本特有の建前文化は、PCに親和性が高いともいえるが、一方で影の部分を色濃く浮き立たせるものにもなった。それでも、清水氏はあきらめない。

「男になって初めて就職した畳屋で、心を開いて話せる兄貴分と出会い、それまでの自分は、社会に当てはめられた”男”を演じていたんだと気づきまして。それからは性別にとらわれず、自分らしくいられるようになりましたし、周囲とも良い人間関係が構築できるようになりました。

大半の方々がLGBT当事者にどう接していいのか、わからないんだと思うんです。だから、私たちから話していく必要がある」

日本でもより実践的な法整備が進む

昨今は、社会的に性の多様性を受け入れるべく、日本でも省庁による法整備が検討され、職場や教育現場においても対応が進んでいる。

2016年、厚生労働省は職場におけるLGBTへの差別的言動がセクハラとなることを、男女雇用機会均等法の「セクハラ指針」に明記。また、文部科学省は「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」(2010年)や「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」(2015年)などを通知し、多様な性の在り方についてのナレッジが教育の現場でも浸透するようになった。

「2015年にLGBT法連合会が設立され、自治体単位で受け入れていこうという動きが進んでいます。とはいえ、情報に過敏な人たちが集まる都市部はまだしも、まだまだ地域格差は大きい。

私のような活動家のいる徳島県は、地方にもかかわらず性的マイノリティーへの理解が浸透し、吉野川市の電話相談には全国から電話が寄せられますが、そうではない地方はなかなか……。行政や自治体からできることに取り組むことが課題です」

属性にとらわれず”個人”としてコミュニケーションを

「LGBT当事者である私自身も、ほかのLGBTの方と初めて話すときは探り探りです。相手から話してもらわないといけないことが大半ですから。大事なのは、LGBTを属性として評価するのではなく、個人として接することだと思います」

LGBTやダイバーシティーという言葉が一般的になった今、グルーピングする意識を改める必要があるということか。だが、自覚、無自覚を問わず、画一的になることを望む傾向にある日本人には簡単ではない。

「条例化や学校への通知文によって、学級内でのマイノリティーに対する理解が進む期待感があります。私も人権教育・啓発指導員として、LGBT当事者が生きやすい世の中を今後も支援していく所存です。

そのためには、相談できる環境が不可欠。100%理解できないにしても、知識は持っているから「悩んでいることがあるなら聞かせてほしい」という雰囲気づくりが大切です。

身近にいる性的マイノリティーを簡単に『LGBT』という言葉で片づけず、一般の人と同様に、その人がどんな人なのかを知ってほしいですね」と、清水氏。

性指向を含めて他人とコミュニケーションをとるのは容易ではないが、例え偽善的な気持ちや社会的立場から来るポーズであっても、マイノリティーを許容していくためには、その意思を示すことが第一歩になる――。清水氏の言葉からも、そんな逆説的な方法が日本人に向いているのだろうと感じる。そのためにも、まずは自分の性指向と改めて向き合うのもいいかもしれない。

“自分とは違う趣味を持っている人”程度の違い

そもそも「LGBT」という言葉で、性的少数者をくくるのかが問題だと思う。人間はそれぞれ味覚も違うし、趣味趣向が異なっている。たまたま、性的な考え方が多少人と違うだけの人がいる、ということではないか。LGBTと言われる人たちも、健常者(と言われる人たち)となんら変わりはない。

タレントのマツコ・デラックスをはじめ、芸能界などでその才能を開花させ、社会的地位を築く人たちもたくさんいる。各自が得意分野で存在感を示していけば、その偏見も無くなると思う。周りも、腫物に触るような感覚を持たず、”自分とは違う趣味を持っている人”程度に接していくことが大事だと思う。区別する必要はないのだ。