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崇高な理念を推進するだけの法律でヘイトスピーチは抑制できない

2017.01.10

社会

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“正しくあろう”とする昨今の世界は、ヘイトに対する規制も積極的だ。EUの政策執行機関である欧州委員会は、Facebook、Twitter、YouTube(Google)、Microsoftに向けて、ヘイトコンテンツへの迅速な対応を要求。法的措置も辞さないという。また、日本政府は、国連人種差別撤廃委員会からのヘイトスピーチ禁止を促す勧告を受け、2016年5月に「ヘイトスピーチ対策法」を可決、翌月施行。しかし、それで不快な差別発言は無くなっただろうか。この一見、排除されて当然の行為を無くすことの難しさを、言葉で綴られる法律の矛盾点から考える。

ヘイトスピーチとは何か

「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)とは、ごく大まかに言えば、民族・人種、宗教、心身的障害など、自分達と異なる部分に嫌悪感を抱き、その個人や組織・集団を悪辣な言葉で攻撃すること。その多くは人種差別や排外主義に根差している。

ちなみに不正や暴挙をただすため、外国政府や企業・組織・団体、政治家などに対して、合法的かつ理性的・品位ある(口汚く罵倒したりしない)手法・表現での指弾・非難はヘイトスピーチとは言わない。それらはむしろ民主主義、言論・表現の自由の神髄ととらえるべきだろう。

ヘイトスピーチは、その時代における保守主義・ナショナリズム(民族主義・国粋主義)の高まりとも密接に関係。グローバリズムや格差社会の進展などに対する反動ととらえることもできる。

ある国で多数派を占める民族などが、社会矛盾への鬱憤のはけ口として、マイノリティーに矛先を向けるという光景は、残念ながら古今東西よくあることで、ヘイトスピーチはこうした”弱者による、さらなる弱者への攻撃”の序盤戦、との指摘もある。

だが、異なる民族・集団に敵意をみなぎらせれば、当然のことながら相手側の敵意も助長させ、憎悪の連鎖を引き起こすことが常だ。最悪の場合、戦争・内戦や大量虐殺につながることは歴史が証明している。

例えば、第2次大戦中のナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)によるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)はその典型だ。また、1994年のルワンダ内戦では、多数派のフツ族によるツチ族のジェノサイド(大量殺りく)が発生、最大100万人が殺害されたという。この際、ラジオを使ったツチ族に対するヘイトスピーチが展開されている。

ヘイトスピーチの象徴「在特会」のモチベーションとは

ここ最近、「在日韓国・朝鮮人は日本から出て行け!」などと叫びながら過激なデモ行進を繰り返し、その模様を積極的にネットで公開する集団が、「在特会」(在日特権を許さない市民の会)と名乗る右派系の急進的グループである。在日コリアン関連の施設や彼らが多く住む地域に自ら出向き、民族差別的な罵声で相手を挑発する。このことから、大半のメディアは彼らのこうした行為をヘイトスピーチとみなしている。

彼らの主張は、とりわけ在日コリアンに与えられたさまざまな特別待遇を全廃せよということ。中でも在日コリアンの主軸である「特別永住者」(第2次大戦終戦後の混乱のなか、日本国籍、母国の国籍いずれも否認された日本在住の韓国、朝鮮、台湾人など)だけが、公租公課上の優遇措置や”通名”の特例(日本的名前による公的文書への署名がOK)などといった特権を持ち、他の一般的な在日外国人と比べても不公平だ、と抗議。加えて、こうした優遇措置を特別永住者の一部は悪用し、脱税や犯罪に手を染めている、と訴える。

在特会が在日コリアンをやり玉に挙げる背景には、拉致問題や核兵器開発など、日本をあからさまに敵視する、独裁国家・北朝鮮の不気味な存在や、従軍慰安婦問題や竹島など、時の政権が人気取りのために”反日カード”をしばしば切る韓国側の態度などがあるようだ。

言論の自由は100%何を言っても許されるのか

一方から見れば醜悪に映るヘイトスピーチは罰すべき、という声も少なくない。だが、日本国憲法では第21条で「集会、結社及び言論の自由」が保障されている。しかも他の条文で時折顔をのぞかせる「公共の福祉に反しない限り」というただし書きすらない。基本的には何を言っても自由で、時の権力者であっても罰することはできないことになっている。

そのため、一定の事実を根拠に特定の民族や国家、組織に罵詈雑言を浴びせること=ヘイトスピーチに対し、その行為自体を取り締まることは、憲法第21条の兼ね合い上、無理だ。

ただし、実際に何を言ってもOKか、といえばそうではない。特定個人の人格を否定するような言動や、根も葉もない事柄で個人や組織・団体を中傷すれば、名誉毀損や営業妨害の罪に問われるし、特定の個人に対し「殺すぞ」とすごめば脅迫・恐喝罪、また卑猥な言動を繰り返せば迷惑防止条例、さらには大きな声でがなり立てれば公害防止条例に抵触する。

さらに、憲法の各条文を統括する憲法の前文には、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する……」「われらは(中略)圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ(原文ママ)」といった文言が並ぶ。

これを前向きにとらえるならば、やはりヘイトスピーチは憲法の理念から外れるものであり、罰則はないものの厳に慎むべきだろう。

国連の要請を受けて成立したヘイトスピーチ対策法

いわゆる「ヘイトスピーチ対策法(解消法)」が2016年6月3日に施行された。近年激しさを増す日本国内でのヘイトスピーチが目に余るものだったのか、これを規制するよう国連人種差別撤廃委員会が2014年8月、日本政府に勧告を出したことを受けたもので、衆院本会議において自民、民進両党などの賛成多数で2016年5月24日に可決された。

正式名称は、「本邦外出身者に対する不当な差別的発言の解消に向けた取り組みの推進に関する法律」といい、要するに日本以外の国・地域の出身、またはその子孫で、適法に居住する者、つまりは在日コリアンなどに対し、彼らの排除をもくろんで不当な差別的言動を行なうことを”解消”するために努める、という内容。

この法律をよく読めばわかるが、不当な差別的言動=ヘイトスピーチを”悪”だと糾弾するものの、あくまでも「あってはならない」「許されない」という言葉を使用し、また、その解消に向けて国民や国、地方公共団体は「努めなければならない」という表現にとどまっている。「禁止」「罰する」という言葉は一切なく、当然のことながら罰金や懲役など具体的な懲罰も盛り込まれていない。

何とも歯切れの悪い、あいまいな中身だ。「理念法」(努力目標)と揶揄されるゆえんだが、仮に「禁止する」と表現すると、憲法21条に抵触するという問題が出てくる。というのも「禁止」する主体は日本政府となり、「言論の自由」という国民の「基本的人権」を国家権力が制限する立て付けになってしまうのである。

言葉と人間性に翻弄されるもろ刃の剣

法律とは拡大解釈されるのが古今東西、世の常だ。憲法第9条はその典型で、自衛隊の存在の是非は別にして、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」と明言されているにもかかわらず、実際には世界有数の”武力集団”自衛隊が存在している。

もし、ヘイトスピーチ対策法に「禁止」の文言が加えられ、具体的な罰則が盛り込まれた場合、時の政権がこれを御旗に思い切り拡大解釈して、自分たちに都合の悪い事実を暴こうとするマスメディアや言論人を片っ端から逮捕、投獄する危険性も否定できない。

また、仮に二重国籍の疑いがある政党のトップが総理大臣に就任したとして、その疑義に新聞・雑誌がかみついたとしても、「ヘイトスピーチ対策法違反だ」として逮捕することも可能となってしまう。

さらに、政権側の意向を汲んだ警察側が、かつての学生運動の鎮圧で多用したといわれる「転び公妨」「当たり公妨」(警官がわざと転び公務執行妨害で逮捕する手口)などで、政権批判のデモを積極的に弾圧するという可能性だってゼロではない。

要するに人権を守る「ヘイトスピーチ対策法」は、一方で実に崇高な理念を推進する法律ながら、他方で基本的人権を制限する「伝家の宝刀」を与えかねない、文字通りのもろ刃の剣なのである。

現象そのものではなく、問題が起こる背景を問題視すべき

どこまでがヘイトスピーチで、どこからがヘイトスピーチではないのかが、明確に定義されていないと、この問題は難しい。何が差別的で何が差別的でないかもなかなか明確化はされない。

言葉狩りも同じだが、「汚い」「威圧的」と感じればそれがヘイトになるのだろうが、法律で縛ろうとすると、本文にもある通り拡大解釈で、まっとうな批判もヘイトにされてしまう恐れもある。

確かに侮蔑的で、誰もが不快に思うようなヘイトスピーチは問題だと思うが、最近つとに、言葉一つひとつに過剰反応をし、委縮させるような議論が多い気がする。そのような社会問題が起こる背景を問題視して、その本質的な議論の方が大切な気がするのだが。

 

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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