日本人の多くは8月15日を、「終戦記念日」「終戦の日」として認識しています。しかし、実際に日本がポツダム宣言を受諾したのは8月14日で、降伏文書に調印して戦争が終結したのは9月2日。ではなぜ8月15日なのか。この日は、全国に向けて玉音放送が放送された日なのです。ここに、日本人にとっての「戦争」を解くヒントがある気がします。「戦争」とは何なのか、あすぽん(岸 明日香)と編集長で改めて考えてみます。
戦争はなぜ起こる?
尊徳 戦争なんてやりたい人はいないはずなのに、実際に起こる。何でやるんだろう。
岸 何ででしょうね……。友達とケンカするときは、約束を破ったとか、言ってたことと違うとか、ホントくだらないことでしますね。
尊徳 国同士だと領土を取り合って戦争をすることが多い。今も日本と韓国は竹島(独島)の領有権を主張して取り合っているし。もしくはやると言ったことをやらなかった場合に、戦争になることもある。
やはり人と人との争いが発展して大きくなって起こるのが戦争なんだと思う。ケンカで殺し合いになることはなかなかないけど、中には殺してしまう人もいる。人間なんてそんなものなんだろう。
岸 いつの時代も無くなりませんね。
尊徳 世界のどこかでは必ず戦争している。今、シリアでは内戦が起こっているし、イラクでは「イスラム国」に対して首都モスルの奪還作戦が行われている。
漠然とした質問だけど、どうすれば戦争は無くなると思う?
岸 う~ん、不可能だと思うんですが、世界的にすべての人たちが平等になることじゃないでしょうか。食べ物だったり、教育だったりが必要なのかなと思います。
尊徳 日本は平等だと思う?
岸 基本的には平等だと思います。同じ時間働いたら同じ給料がもらえて、普通に生活できること。それができる日本は平等だと、私は思います。
尊徳 明日香くんが言う平等は、個人で作り上げているものではなくて、社会の仕組みとしてそうなってるということだよね? そういう意味では日本は政治がしっかりしていると。
岸 中には生活するのが大変な人もいるかもしれませんが、多くの人はそうではありませんよね。
尊徳 じゃあ政治がしっかりしたら平等だと感じるようになるから、世界から戦争は無くなると考えているってことか。
岸 そうですね。逆に言ったら、戦争が起こるということは不平等だったり政治がしっかりしてないということだと思います。ただ、平等になったとしても、欲をかいて利益や名誉を求めたりすることで、また戦争が起こったりするのかもしれませんけど。
戦争を起こした日本と今の日本は何が違うか
尊徳 今回、「戦争」をテーマにするにあたって、明日香くんには『日本のいちばん長い日』(製作・配給松竹、原田眞人監督)という映画を見てもらったよね。今でこそ戦争の無い日本も、かつて戦争を起こしたことがあった。その頃と何が変わっただろうか?
岸 今は平和を求めることが当たり前のことなので、戦争を起こして、人を殺したり、殺されたりという”考え”がそもそもありません。
尊徳 戦後教育が影響しているよね。ポツダム宣言受諾の前後で大きく変わったことは、大日本帝国憲法が、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が国内に入ってきたことで、新しい日本国憲法に変わったこと。
それまでは天皇陛下がすべての統帥権を持っていたけど、日本国憲法になってからは政治に一切口を出せない”象徴”になった。それと、戦争は絶対にしません、軍隊は持ちませんという内容の憲法9条ができた。
そういう状況があって、自民党は自主憲法を作ろうとしているわけだけど。
岸 [憲法改正を考える] の回で勉強しました。誰もが平和を望むなかで、危ない目に遭うリスクを負ってまで憲法を変える必要はないんじゃないでしょうか。
尊徳 映画の中で出てきた将校たちの行動や、御前会議と呼ばれる天皇陛下を前に議論を交わす人たちをどう思った?
岸 今の世の中とは全然違いますし、戦争を続けることを主張していたことにびっくりで……。共感できなことだらけです。何であんなに必死になれるんでしょう。
尊徳 現代社会からすると”異常”ではあるわな。
岸 天皇陛下への忠誠心もすごく伝わりました。だけど、今の若い人たちにはその気持ちがわからない人も多いと思います。だから違和感なんでしょうね。
尊徳 同じ国でも今と昔で理解できないこともあるのだから、それが世界ともなると、文化も言葉も宗教も好みも考え方も違うし、同じ価値観を持つのは難しいよな。
戦争は考えの違いで起こる。でもその前に格差によって歪みが生まれる。そういう意味では、戦争をしないために世の中を平等にすることは、まず第一にできることかもしれないね。
戦争を起こしているのは誰?
尊徳 この前の都議選で小池都知事が大勝したときも、2012年に民主党政権が誕生したときも、自民党に不満を持つ人たちの1票によって大きな変化が起きた。自民党に「俺たちダメだったんだ」と思わせるには十分だと思う。
それと同じで、民主主義にあっては、国民の審判が機能していれば、戦争もそうそう起きないはずなんだけど。
岸 国民はちゃんと判断できるんでしょうか?
尊徳 それがそうとも言えない。オリンピックやワールドカップでは、日本人はみんな日本代表を応援するじゃない? 普段は競技に興味が無くても。あれって国威発揚といって、みんなが同じ方向を向く。
戦争も似たようなところがあって、他国の領土を奪いに行くと、それを決めた国家元首の支持率が上がるんだ。逆に自国の領土が攻められたり、自国民が死んだりすると支持率は下がる。だから為政者たちが支持率を上げるために戦争を仕掛けることもあり得なくはない。
岸 「戦争」という言葉を辞書で調べると「国と国が政治的な目的を達成するために武力で争うこと」というような意味になっています。ということは、戦争を起こしているのは政治家ということになりませんか。
尊徳 直接的にはそうだね。でも戦争が起きるような状況は”民主主義の暴走”と言えると思う。ドイツのヒトラーは選挙で選ばれた政治家だしね。選ぶのは国民だし、間接的には国民がそういう状況を作っていると言える。
岸 でも国民は戦争する気なんてないと思います。
尊徳 国民は軍人と文民に分けられていて、戦争は基本的に軍人同士でやることになっている。文民である国民の多くは、本土決戦でない限りは「どこかで軍人が戦っている」というような認識になるだろうな。そういう意味では太平洋戦争を知らないアメリカ人もたくさんいると思う。
だから、第2次世界大戦でアメリカが行った東京大空襲や広島・長崎に落とした原爆は、多くの文民を巻き込んだ戦争犯罪で、国際法上は許されないことだった。
岸 日本はなぜあんなに意固地になって戦争を続けようとしたんでしょうか?
尊徳 ドイツのヒトラーとイタリアのムッソリーニは国民が選んだ政治家で、言ってみれば”代わりの利く存在”。でも、万世一系、”現人神”といわれた天皇陛下の存在は世界でも唯一無二。天皇陛下を残すために、例え国民全員が死んだとしても戦争するような国だった。
だから戦後処理をしていたGHQも、天皇陛下を粛清したらこの国はどうなるかわからないと、象徴として残したんだ。
岸 原爆投下はポツダム宣言受諾の前に起こったこと。もしその前に受諾していたらたぶん原爆は落ちなかったですよね……。
尊徳 そうだね……。でも”神風特攻隊”をやるような国だから、原爆くらい落とさないと終わらないと思っていたかもしれない。
なぜ国は奪い合うのか
岸 もし日本が憲法9条を改正したら、他国から領土を狙われることもあり得ますか……?
尊徳 今は軍事力があまりにも強大になりすぎて、やったら国がなくなるくらいの武器を持っているから、逆に「やったらマズイ」と考えるようになっている。
あと、おかしなことなんだけど、戦争にも国際ルールがあって、生物兵器など非人道的な武器の使用は許されていない。殺傷能力があるならどれもダメだと思うんだけど。
岸 ルールを破ったら全世界から責められるから、なるべくケンカをしないようにしているんですね。
尊徳 でも今、中国とベトナムは南沙諸島の取り合いをしているし、日本も中国と尖閣諸島の領有権を主張し合っている。小競り合いはずっとあるよな。
岸 日本と中国が尖閣諸島を取り合っているこの状況は、「戦争」とは言わないんですか? だって領土を奪い合っているわけじゃないですか。
尊徳 それを戦争と言ったらどの国でも戦争が起きていることになるよ。「ここの境界線がどう」とかいっぱいある。海の中にポツンとある島の周りを工事して沈まないようにしたり、歴史的な解釈を持ち出してきたり、どの国も領土を守るのに必死だ。
岸 それは国民の人たちを豊かにするためにやってることなのですよね?
尊徳 どうだろう。為政者は自分たちの権力基盤を強くするためにやっているのかもしれない。「戦争やります」といった政治家を選ぶ国民はいないけど、選ばれた政治家がやむにやまれずにやるのが戦争なのだと思う。
戦前の治安維持法や、先日施行されたテロ等準備罪もそうだけど、国家権力は強くなってしまうこともある。そうさせないためには、国民がきちんと見て投票行動に表さないと、いつか権力は暴走するかもしれない。
岸 戦後70年以上たった今は戦前の日本とは違いますし、言論が押さえつけられることもありません。それに、集団的自衛権の行使容認や憲法改正の議論で、私たち若い世代も「戦争」というキーワードには敏感になっています。
私たちにとって100%あり得ないことではないということの一方、昔より戦争は起こりづらくなっていることもわかりました。その理由に、敗戦したことでできた憲法9条が影響しているということは、やはりあると思います。そういう意味で、先の大戦の意味をもう少し考えたいと思います。