少し前に自民党国会議員による「LGBTは生産性がない」という内容の主張が批判を受けたが、生産性の低さを象徴するのが国会だ。その国会の生産性を上げるべく、今年2つの「国会改革案」が注目を集めた。仕掛けたのは将来の首相候補と目される小泉進次郎氏だ。
“平成のうちに”どこまで改革できるか
「平成のうちに、どんな小さいことでも、1つでもいいから、衆議院改革を実現する」
小泉氏らが立ち上げた超党派の勉強会「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」(実現会議)が7月にまとめた提言案はこんな一文から始まる。
“平成のうちに”とは元号が変わる来年5月1日までを意味する。具体的には[1]党首討論の定例化・夜間開催の実現、[2]衆議院のIT化、[3]女性議員の妊娠・出産時等への対応――の3つを掲げた。
「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」提言
- 党首討論の定例化・夜間開催の実現
平成26年「国会審議の充実に関する申し合わせ」でも党首討論を1力月に1回開催することとされていたが、国民への説明責任を強化するため、例えば、今後は2週間に1回、討論のテーマを決めて党首討論を開催、また、党首討論は夜に開催し、より多くの国民が視聴できるようにするなど、充実した討議が行われる環境を整備すべきである。
- 衆議院のIT化
国会のIT化を推進し、国会審議の効率化・意思決定プロセスの透明性向上を図るべきである。例えばーつの手段として、衆議院におけるタブレット端末を導入・活用すべきである。
- 女性議員の妊娠・出産時等への対応
女性議員が妊娠・出産時等により表決に加わることができない場合、現状では同議員による意思の表明が困難である。今後は、こうした場合に代理投票を認めるなど、必要な対応を速やかに実施すべきである。
平成26年「国会審議の充実に関する申し合わせ」でも党首討論を1力月に1回開催することとされていたが、国民への説明責任を強化するため、例えば、今後は2週間に1回、討論のテーマを決めて党首討論を開催、また、党首討論は夜に開催し、より多くの国民が視聴できるようにするなど、充実した討議が行われる環境を整備すべきである。
国会のIT化を推進し、国会審議の効率化・意思決定プロセスの透明性向上を図るべきである。例えばーつの手段として、衆議院におけるタブレット端末を導入・活用すべきである。
女性議員が妊娠・出産時等により表決に加わることができない場合、現状では同議員による意思の表明が困難である。今後は、こうした場合に代理投票を認めるなど、必要な対応を速やかに実施すべきである。
その他の課題については、平成のうちに必ず国会改革の風穴を開ける覚悟で、引き続き実現会議で、継続的・主体的に議論を深めていく。また、臨時国会における議院運営委員会・国会改革小委員会での、議論のキックオフを後押しする意味でも、臨時国会開会直後に、実現会議を再開し、改革の機運を更に高めていきたい。各党・各会派においても、国会改革についての議論がなお一層深まることを期待したい。
党首討論とは首相と野党党首が国会内で向かい合い、討論する制度のこと。イギリス議会の「クエスチョンタイム」がモデルで、1999年に導入された。
当初は国会開会中の毎週水曜日に原則、開催するとしていたが、与党側が拒否するなどして次第にペースダウン。今では会期中に一度、開かれるかどうかという程度となっている。今年の通常国会でも182日間の会期中にたった1回しか開催されなかった。
実現会議ではこの党首討論を2週間に1回程度で開催するよう提案。時間も現在の15時では多くの国民が見られないとして、夜間に開催するよう求めている。
国会の議案類印刷費は衆参合わせて計11億円超
2つ目のIT化だが、国会は驚くほどアナログである。すべての会議ではなくなったが、いまだに本会議などでは専門の訓練を受けた速記者が手書きで議事録を書き留めているし、衆院では採決の際に壇上まで賛成・反対札を投じにいくため、1回あたり20分の時間を要する。
極めつけは紙資料だ。本会議などではすべての議案が紙資料で配られるため、各議員の席には資料が山積みとなる。すべての議案は本会議までの間に結論が決まっているので、そもそもその議案を見る議員はほとんどいない。終わればすぐにゴミ箱行き。
平成30年度予算の中身を見ると、議案類印刷費は衆議院が6億9554万円、4億4049万円で計11億円超。仮に、タブレットで必要な議案を見られるようにすればこのうちの相当額を削ることができる。民間企業では今や当たり前である。
3つ目の女性議員の妊娠・出産時の対応だが、そもそも日本の国会議員には妊娠・出産する際の休業規定がない。休みたければ休むというだけで、休んだ場合でも歳費(給料)は満額支給される。ただ、各会議における投票権は無駄にすることになる。海外では代理投票や代理議員を認めている国もあり、早急な制度の整備が求められる。
委員会でのスキャンダル追及は排除可能?
これまで多くの国会改革案がさけばれてきたなかで、今回の案は非常に小粒。というのも小泉氏が「超党派」にこだわったため、野党でも乗れる案に絞ったからだ。その元になった自民党の若手議員による「2020年以降の経済社会構想会議」が6月にまとめた国会改革案にはもっと多くの案が盛り込まれている。
その一つが「スキャンダル追及」の排除だ。今年も予算について話し合う予算委員会などで、野党がたびたびモリカケ問題を含む政府・与党のスキャンダルを追求した。予算委員会はテレビ中継されることが多く、野党が存在感を発揮するチャンスだからだが、その内容のほとんどは予算とは無関係。そのたびに予算案や法案の審議が遮られてきた。
改革案では特別調査会の設置を容易にし、予算や法案の審議を行う委員会ではスキャンダル追及ではなく、法案審議を優先的に行うことを提言。党首討論を定例化すると共に、大臣討論を設けるなどして、その代わりに首相や大臣の国会出席を合理化する(減らす)よう求めている。
スキャンダル追及や首相、大臣の国会への縛り付けについてはこれまで何度も与野党で話し合われてきたことで、実際に合意したケースもあるが、毎回のようにうやむやにされてきた。野党としてはスキャンダルが発覚すれば国会で追及したくなるし、首相や大臣の出席を求めてしまう。これは自民党が野党だったときも同じだ。
もし、本気で実現したいのであればもう一度、自民党が下野し、野党の立場でこのことを提案するしかない。そうすればどの党が政権の座にあろうと、食いついてくるだろう。安倍政権の安定ぶり、そして野党の低迷ぶりを見るとそんなチャンスはなかなかめぐってきそうにないが。
「国会改革」を推進する小泉進次郎議員の狙い
そもそも、なぜこのタイミングで国会改革なのか。「安倍一強」で与党の出番が少ないなか、若手議員のアピールの場にしたいというのがひとつの読み。政界再編の布石じゃないかというのがもうひとつの読みだ。
今は順風満帆な自民党政権だが、2020年以降に安倍首相が退陣すれば2007年のように再び自民党が弱体化する可能性もある。時期的にも東京オリンピックが終わり、景気が低迷期に入るとの見方は多い。自公政権の基盤が崩れれば政界再編の好機。小泉氏の視線がその時期に注がれているのかどうかは本人にしかわからない。