専門職大学・リカレント教育でニーズが高まる「実務家教員」 先端教育機構で養成課程を開設

2018.09.12

社会

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“人生100年時代”といわれるなか、生涯学習や学び直しの機会を設けるリカレント教育へのニーズが高まっている。そんななか、2019年4月1日より新学校教育法が施行され、専門職大学が全国で開学。実務家、いわゆるプロとしての経験・知見と教員としての指導力を兼ね備えた、実務家教員の活躍がより一層期待されている。事業構想大学院大学と社会情報大学院大学の2つの専門職大学院を運営する学校法人先端教育機構(東京・港区、理事長:東英弥)では、この10月より「実務家教員養成課程」を開設し、全国に実務家教員を送り出す。

 社会情報大学院大学 学監/事業構想大学院大学 准教授

川山竜二 かわやま りゅうじ

専門は「知と社会」、高等教育論、社会システム論。筑波大学第一学群社会学類を史上初の早期卒業(3年次卒業)、同大学院人文社会科学研究科にて社会学を専攻。筑波大学社会・国際学群ティーチング・アシスタント、ティーチング・フェロー、リサーチ・アシスタントを経て現職。専門学校から予備校までさまざまな現場にて教鞭を執ってきた実績をもつ。
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日本の大学教育と仕事の現場が抱えるそれぞれの課題

日本の大学教育が今、大きく変わろうとしている。これまでの大学教育は“研究のための知”にウエイトが置かれていたが、これからは“現場で役立つ知”もより重視される。

社会学が専門で、“社会と知の在り方”や“大学制度が社会に与えるインパクト”などを研究してきた、先端教育機構の川山氏は言う。

「こうした動きが出てきた背景には、社会が複雑化・高度化したことがあります。多様な知やスキルが求められる時代になりましたが、従来型の大学教育では仕事の現場で使える知やスキルのすべてには対応できません。つまり、理論と実践に隔たりがあるのです」(以下「」は川山氏の発言)

一般に、大学教授は研究者であって、実務経験がないことが多い。そのため、指導が“研究のための知”に偏りがちで、実際の社会で役立つ知やスキルを育てる指導になりにくい。結果として、社会が求めている知(実践知)と学術的な知(形式知)との乖離が生じている。

一方で、実務の現場にも課題がある。

「実務家それぞれに固有の流儀があり、それが体系化されていません。各人の知やスキルがバラバラに存在し、言語化もされていないため、体系的に技を伝えたり、知を共有したりするのが難しいのです。若手や後継者が育たない問題の一因もそこにあるといえるでしょう」

実務家とは、現場で働く仕事人のことだ。経営者や企業における営業や企画、マーケティング、経理、財務、人事、法務、総務等を担う人に加え、システムエンジニア、デザイナー、町工場の職人、小売業、農家、漫画家、編集者、映画監督、美容師、大工、起業家などあらゆる人たちが当てはまる。

例えば、ものづくりの職人は、師匠の技を「見て覚えろ」「やって覚えろ」と言われてきた。弟子は師匠から言葉でわかりやすく教えてもらうことはなく、見よう見まねで悪戦苦闘し、その中から正解を見つけるしかなかった。しかし、これは非常に非効率的と言わざるを得ない。師匠の技が伝授されるかどうかは、弟子の理解力やセンスによるところが大きいからだ。

職人に限らず、仕事の現場では、このように個々の経験・知見(経験知)とみんなが使える知(実践知)との乖離があることが少なくない。形式知・経験知・実践知という“3つの知”が連携していないところに、日本の産業弱体化の要因のひとつがあるといえる。

かつて日本は、“品質の良いものを、安く効率的に生産する”システムを武器に、ものづくり産業で世界をリードしてきた。しかし、コモディティ化が進んだ現在ではその勝ちパターンもうまく機能しなくなり、近年は日本企業の国際競争力低下や産業の空洞化への危機感が募っている。

実務の経験知を教授する“実務家教員”の必要性

“3つの知”の連携を図るには、大学で研究された知やスキルを大学制度の枠組みの中で完結させるのではなく、社会に還元する仕組みが必要だ。そこで近年、大学では、大学の知と社会で必要とされている知を融合させる目的で、独自に実務家教員を採用するようになってきていた。

しかしながら、実務家教員の絶対数が少なく、すべての大学・学部をカバーすることはできない。そもそも実務家教員を配置する・しないは各大学の裁量によるため、足並みもバラバラ。

そうした課題をクリアするのが、来春誕生する「専門職大学」だ。専門職大学は、“理論を得意とする大学”と“実践を得意とする専門学校”の良さを融合した大学教育機関。実践と理論を結びつけた教育を行うことで、産業界でリーダーになれる人材の育成を目指す。

専門職大学で身につけるのは、[1]実務家としてのスキル(実務能力)、[2]人を指導するスキル(指導能力)、[3]自らの経験・知見を理論化し、体系化するスキル(研究能力)の3つ。

「専門職大学には、社会経験のない学生も進学してきますが、社会経験のある人たちの学びの場にもなるでしょう。リカレント教育の広がりを受けて、大学で学び直したいという人や、自分の専門以外の知見も広げたいという人が受講してきます」

専門職大学で教壇に立つ教員、実務家教員は、上記の3つのスキルを受講者に教授していかなくてはならない。つまり、教員自らが3つのスキルを備えていなくてはならないということだ。

実務能力と指導能力に加えて研究能力が必要なのは、経験知を実践知として仕事の現場に還元していくためだ。

「知は言語化することで、はじめて理論や他者の経験知と照合することができます。理論や他者の経験知と照合することで、共通点や相違点が見えてきます。多くの経験知を集め、そこに共通項を見出していけば、知の体系化が図れます。

体系化された経験知とは、実務をする上で最も大事な“本質”、すなわち実践知です。これを現場に還元していくと、経験知が多くの人たちに共有されます」

先程の職人の例で説明すると、このような流れになる。

まず、師匠が独自に培った技や経験を言語化する。すると、他の職人や先代から脈々と伝えられて来たそれらと比較対照することができる。同じ作品を作るのでも、何通りものアプローチがあることがわかってくる。

その中で、最も効率の良いアプローチはどれかを見極めたり、Aのアプローチの良い点とBのアプローチの良い点を合体させて、新たなCというアプローチを生み出したりもできる。ベストなアプローチを弟子に伝えれば、師匠の経験知がスムーズに弟子へと移植される。弟子が複数いても、同時に技を伝えられるわけだ。

固有の経験知を多数で共有したほうがいいという考えは、すべての仕事の現場に共通していることだろう。

「私共のもとには、各業界から『実務家教員を養成したい』という問い合わせが来ます。専門職大学だけでなく、専門職大学院はもちろん今後は専門学校や一般の大学でも実務家教員は求められていくでしょう。ゆくゆくは全国で年間2000人の実務家教員が必要になると予想されます」

10月からスタートする「実務家教員養成課程」で何を学ぶか

さて、実務家教員の候補として最も近いのは、今、現場で働いている実務家たちだろう。彼らにはすでに実務能力がある。ただし、指導能力と研究能力が弱点だ。そこで、先端教育機構では「実務家教員養成課程」を新設し、実務家教員の養成を行う。

具体的にどんなことを学ぶのか。

「実務家としての経験知をいかに言語化し、アウトプットしていくかが課題です。まず自分がやってきた実務の“棚卸し”をし、キャリアから何ができるかを考察します」

次に学ぶのは、教授法だ。講義形式の授業だけでなく、今はディベートやグループ・ワーク、体験学習といったアクティブラーニングの指導が求められる。そうした時代に合わせた先端的な教育指導法を学ぶのだ。また、カリキュラムの立て方や授業計画(シラバス)の作成法などを習得し、実際に模擬授業を行う。

さらに、研究のための基礎的なスキルも身につける。

「大学教員の本分は、学生の指導と自身の研究です。研究によって“新しい知”を生み出すことが使命だと、私は思っています」

そのために、自身の知を省察し、体系化する力や、知のアウトプットに不可欠な論文の書き方などを学んでいく。

理論と実践を一体化した社会人教育で培ったカリキュラム

実務家養成課程の講師陣は、川山氏を筆頭に、その道の専門家を揃えている。

先端教育機構では、事業構想大学院大学と社会情報大学院大学を運営。事業構想大学院大学では、経営やマネジメントの研究と実践を通して、新事業を生み出す人材を育成し、社会情報大学院大学では、情報化社会における広報・情報のスペシャリストを輩出している。

「先端教育機構では、これまで理論と実践を一体化させた社会人教育を行ってきました。その中で、実務家教員養成のためのノウハウやカリキュラムが蓄積されました」

内部講師以外に、外部からも講師を招聘し、密度の濃い授業を提供する。

第1期の詳細は以下の通り。

日程:2018年10月~2019年1月
講義時間:昼課程13時30分~16時30分、夜課程19時~22時
講義数:週1日2コマ×15週(全30講) ※1コマ90分
キャンパス:東京、大阪、福岡・名古屋
※第2期以降も順次開講予定。最新情報はホームページ を参照のこと。

誰もが実務家教員になれる可能性がある

実務家教員養成課程の卒業生は、専門職大学をはじめ、専門学校や大学などで活躍できる。また、仕事の現場でリーダーとして、新人や後輩の育成をすることもできる。研究を極めたいなら、大学研究室に入って学術的な知見を伸ばす道もある。ほかにもさまざまなキャリアパスが想定されるだろう。

今後、実務家教員はあらゆる分野で必要になってくる。つまり、すべての実務家が教員になれる可能性があるということだ。

「むしろ、すべての実務家が教員のスキルを持つべきと考えます。なぜなら、自身の仕事に生かせるからです」

自分の仕事のやり方を振り返り、分析し、体系化していくことで、仕事の本質が見えてくる。そうすれば、今より効率的で質の高いパフォーマンスを発揮できるだろう。社会との関係性を理解した上で実践する仕事は、やり甲斐や自信につながるはずだ。

実務家教員養成課程は、実務家教員になる目的ではなく、自身の仕事を見つめ直し、高めたいという動機で受講希望する人もいます」

他分野の実務家の知に触れることで世界が広がり、新たな視界が開けることもあるかもしれない。気づきや発見を実務の現場に持ち帰れば、今までとは違ったアプローチで仕事ができるに違いない。それは、学びと就労を繰り返すリカレント教育の実践でもある。