ブラックボックスであった葬儀価格を適正価格で開示し、縁起が悪いと避けられてきた生前の葬儀相談を広め、遺族・故人の思いに寄り添った「感動葬儀」を実践するなど、葬儀業界で次々と革命を成し遂げてきた葬儀会館ティア。年間の葬儀請負件数は1万4000件以上、売上高は100億円を超え、出店数に至っては100店舗となる。次なる成長ステージに入ったティアは、中長期の目標として200店舗体制を実現するため、3年で100人の採用計画を掲げて人材確保に乗り出した。その取り組みの一環で2017年にスタートした、新卒向けインターンシップの様子を紹介しよう。
ロジカルシンキングも身に付くインターンシップ
9月、都内の会議室で、関東では今年3回目となる葬儀会館ティアのワンデーインターンシップ(インターン)が行われた。参加するのは、まだ本格的な就職活動を始める前の大学3年生。そのため、プログラムは会社説明よりも、葬儀業界の基礎知識を知り、就職活動、あるいは社会人になってから活用できるスキルを学べる内容に寄っている。講師を務めるのは、ティア全体の採用活動を手掛ける鈴木亮太さん。
「平均寿命が延びた関係で、大学生の祖父母は存命しているケースが多く、葬式に参列した経験がある学生は多くありません。そもそも葬儀社の仕事内容自体を知らない場合もあります。
普段から親しみがあるわけではなく、“人の死”というマイナスイメージも伴う仕事だけに、何も知らない人は葬儀の仕事にあまりいい印象を持っていないのではないでしょうか。だから、正しい情報を伝えて、やりがいのある業界であることを知ってもらう必要があると思い、インターンシップを始めました」(株式会社ティア 鈴木亮太さん、以下「」はすべて鈴木さんの発言)
午前中から始まったプログラムの冒頭は「葬儀業界の現状」と題した講義。高齢化の進行で、死亡者数は2040年に向けてピークに達し、葬儀業界の需要は右肩上がりであることや、業界の慣例で業者同士のすみ分けが続いてきた結果、中小の葬儀社が乱立する状態で、業界再編がまだ進んでいないことなどが説明される。
今後、顧客を第一に考えた葬儀を全国に広めるには業界再編が必須で、ティアがオピニオンリーダーとしてその役割を担う必要があるという。
講義では、死者を送る「葬送」が物理的、文化的、社会的にどのような変化を遂げて現在に至っているのかといった、葬送の歴史も学ぶ。「葬列が衰退した原因は何か?」「近代的な火葬が始まった背景には何があるのか?」など、講師の質問に参加した学生たちが答える場面もあった。
「歴史的な変遷にはすべて原因と結果があります。それを知ることで、『ロジカルシンキング』を身に付けることができます。葬儀業界の基礎知識を得るだけでなく、学生にとって有益なスキルであるロジカルシンキングを習得してもらうのも、今回のインターンシップの目的にしています」
就職活動の準備を進めるこの時期の大学3年生にとって、今後の就職活動で生かせるスキルを学べるインターンは価値が高い。自社の宣伝に終始するのではなく、学生目線でどうすれば参加してもらえるかを真摯に考え、貴重な学生とのコンタクトの場に、1人でも多くの学生に参加してもらおうとするティア流の工夫が見て取れた。
葬儀は必要 or 必要でない? 自ら考える力を養う
座学の後はグループワークだ。もし、自分の大切な人が亡くなった場合、どんな葬儀を執り行うかをみんなで考える時間。まずは個々人が、自分にとって大切な人はどんな存在か自問する。自分の気持ちを見つめ直してから、大切な人の葬儀は必要か必要ではないかを示し理由を列挙。そして、どんな葬儀形態がベストかを選択するという試みだ。
葬儀は「告別式」の文字通り、昔は別れを告げるための儀式だった。しかし、現在は残された人が感謝の意を表すことで、気持ちを整理し、区切りをつけるための儀式という側面もあるとティアでは考える。グループワークでは、そんなティアの葬儀に対する考え方をベースに、学生それぞれが故人の社会的地位や家族・友人との関係などを考慮した上で、最終的な葬儀の規模や形態を決めていった。
「故人と遺族、あるいは故人と所縁のあった人たち、それぞれの立場を考慮に入れた上で、何が必要で何が必要でないか考える行為を通じて、ロジカルシンキングが身に付きます。
さらに、最終的にグループ内で一つの例に絞り、どんな方が亡くなり、なぜその形態の葬儀を選んだかみんなで発表してもらいます。そうすることで、自分で考えるだけでなく、他者の意見にも触れることができ、考え方の広がりを経験できますし、アウトプットすることで自らの理解度がわかります。発表のとき、言いよどむシーンがあれば、そこは本人の理解が深まっていない証拠なのです」
自分の大切な人が亡くなった後の葬儀について考えることは、恐らく参加した大半の学生にとって初めての経験だっただろう。
「インターンシップには、若い世代の葬儀に対する意識調査の側面もあります。学生の世代からは『葬式なんて必要ない』というドライな意見も出るかと思っていましたが、これまでに参加した学生はみんな『葬儀は必要』で意見が一致していました。理由についても『感謝の気持ちを表したい』『両親の世間体』などしっかりした意見が飛び出し毎回びっくりさせられます」
「感動葬儀」のプロデュースを通してティアの仕事を知る
昼食に登場したのは葬式で実際に出される法要料理のお弁当。学生も講師やスタッフと一緒に、精進落としの意味などの説明を受けながら食事をする。堅苦しくなりそうだが、普通は聞けない業界の裏話をしたり、社会人の先輩として就職活動の相談を受けたり、ティアのスタッフはいろいろな会話で学生たちをリラックスさせるべく心掛けていた。採用担当者の本音を聞けるなど、学生にとっても有意義な時間となっただろう。
午後の座学では、実際の葬儀の進め方が説明され、それに続いて、ティアが提唱する「感動葬儀」を、実例を交えながらレクチャー。
遺族から「ありがとう」と言ってもらえるように、趣味や考え方、日常生活で大切にしていたことなど、故人の人となりを感じられる葬儀をプロデュースするのがティアのモットー。葬儀の参列者の心に一生残るとともに、遺族は気持ちの整理をつけて、前向きに生きてほしいというティアの思いが、「感動葬儀」の根底に流れている。
2回目のグループワークでは、その「感動葬儀」を自分たちなりにプロデュース。1回目と同様にグループのメンバーで故人のペルソナを考え、その故人の「感動葬儀」を考える。メンバーは当日知り合ったばかりだが、午前中のグループワークや昼食での会話でいつしか打ち解けた様子。積極的に意見を述べ、議論を戦わせながら懸命に自分たちが考える感動葬儀を作り上げた。
「感謝に包まれた、思い出を共有できる葬儀をプロデュースしてくれました。参列者の心をリラックスさせるために受付でフレグランスを香らせるというアイデアは、これまでにない秀逸なものでした。参列者の精神状態にまで配慮したとてもいい葬儀だったと思います」
最後にその日のまとめをして、インターンは終了。最初は緊張した面持ちだった学生も、終わった後は講師やスタッフと和やかな表情で話していたのが印象的だった。葬儀業界の歴史を知り、ロジカルシンキングを学んだインターンについて、参加した女子学生に感想を聞いた。
「サービス業に就きたくて、葬儀業界のことを知ろうと思い、今回のインターンシップに参加させていただきました。観光や外食などほかの接客業とは、『ありがとう』の重みが違うというのが一番の感想。この業界のことは何も知りませんでしたが、知れば知るほどお客様から感謝されるやりがいのある仕事だと思うようになりました。
グループワークでは、ロジカルシンキングで『理由の理由』を考える方法と重要性を学びました。物事の本質を見るための方法がわかり、今後の人生に役立てられそうです」(都内私立大学3年)
内定者を取りこぼさない!近年は“オヤカク”を意識
2020年度新卒向けに、今年ティアが開催するワンデーインターンは、名古屋で13回、東京で12回を予定。8月~2月にファーストセッションを開催し、参加した学生限定で、9月~3月に開催するセカンドセッションを案内する。さらに、セカンドセッションに参加した学生を対象に、株式会社ティア代表取締役社長・冨安徳久氏の講演も予定しているという。
大幅な採用増を目指すティアでは、インターンの開催だけでなく、大学4年生向けの会社説明会を増やすなど、さまざまな施策を打っている。中でも、内定者を確実に入社へ導くため、昨年は内定者とティアの社員が参加して、ドラムサークル、坐禅体験、役員を交えた立食パーティを開催した。今後も内定者と先輩社員との交流、内定者同士のコミュニケーションを促進するためのイベントに力を入れていく。
また、毎年、冨安社長による「命の授業」の模様を収めたDVDに、社長の手紙を添えて内定者の保護者宛に送付し、葬儀業界で働くやりがいや社会的な意義を説明。入社へ向けて理解を求めている。
「近年、“オヤカク(親確)”というワードで語られているように、学生の就職活動に親や親類縁者が大きな影響力を持っています。イメージがよくない葬儀業界では、昔から両親や祖父母に就職を止められるケースが多々ありました。採用人数を増やすには、学生だけでなく両親や祖父母にも葬儀業界の現状を知ってもらう必要があります。
ティアは20年以上の月日を費やして、葬儀業界の改革に努めてきました。その思いを知ってもらいたい。インターンシップの開催にも、社長自らのオヤカクにも、ティアの活動を知ることで葬儀業界に対する悪いイメージを払拭してもらいたいという狙いがあります。
そして、親御さんにも葬儀業界への就職を応援してもらえるような世の中にしたいです。今日参加してくれた学生が当社に入社しなくても、その子どもが『ティアに入社したい』と言ったとき、応援してくれるとうれしいですね」
葬儀業界で次々と改革を断行してきたティア。その採用戦略にも、業界全体のイメージアップを担い、次世代も見据えた大きな視野で学生と向き合う姿勢が見て取れた。