10月から麻雀プロリーグ戦「M.LEAGUE(Mリーグ)」が開幕する。麻雀のプロ団体が割拠するなかで設立された同リーグは、どんな考えが発端だったのか。Mリーグの発起人であり、代表理事(チェアマン)を務めるサイバーエージェント藤田晋社長に、Mリーグ実現までの道のりを振り返ってもらった。
RTDリーグはMリーグ実現の布石になった
――麻雀のプロリーグを発足させるという構想は、いつ頃からどんなことをキッカケに温めてきたのでしょうか?
藤田 2014年にプロ・アマ混合の「麻雀最強戦」で最強位を獲得したのを機に、僕はプロ雀士の方々と接する機会が増えました。そして、プロとはいえども麻雀の大会だけでメシを食えている人がほとんどいないことを知りました。
巷の雀荘でゲストとしてお客さんのゲームに参加し、そこで得た報酬を生活の足しにしているのです。だから、何とかして力になりたいと思っていたのですが、もともと麻雀業界はプロ団体がいくつかに分裂していて、それぞれで価値観や方針が違ってあまり友好的な関係になく、ルールや大会の格付などもバラバラでした。
業界内の人ではとても統一は不可能な状況だったので、僕が、自分でやるしかないと思ったわけです。それで、ちょうど1年ほど前から実現に向けて動き始めました。
そんな折に、たまたま卓球リーグ(Tリーグ)の話を聞いたのです。「サッカーのように大きなクラブハウスや練習場が不要で、コストもあまりかからないのが卓球の利点だよ」と聞き、「それは麻雀でもいえるのではないか?」と思いつきました。
低コストでの統一リーグ戦の開催なら、各プロ団体ともどうにか折り合いを付けられるだろうと読んだわけです。
――サイバーエージェントはすでにAbemaTVにおいて、「藤田晋invitational RTDリーグ」という麻雀のリーグ戦も主催していますね。Mリーグとのすみ分けはどうなるのでしょうか?
藤田 あれは僕の個人的な趣味で開いている練習リーグのようなもので、番組として配信している企画の一つにすぎません。これに対し、Mリーグは一般社団法人Mリーグ機構による運営で、完全にパブリックなものです。
ただ、RTDリーグの配信を通じて、麻雀がネットテレビで高い視聴率を獲得できるコンテンツであることがよくわかりました。大相撲やプロ野球をしのぐ視聴率を記録することもあるし、そもそも麻雀人口は多いので、かなりのポテンシャルがあると確信しましたね。
それから、RTDリーグは団体をまたいでプロ雀士に出演してもらうという新しい試みを取り入れていたで、その点はMリーグ実現への布石にはなったと思います。
川淵三郎氏の最高顧問就任は“海底ツモ”
――もっとも、古くから麻雀は愛好家が非常に多い一方で、あまり好印象を抱いていない人も少なくなかったのが実情ですね。
藤田 賭博、徹夜、タバコといったように、あまりどころか、非常にイメージが悪いですね。雀荘の内装は写真を撮っても絵にならない。こうした麻雀のイメージを塗り替えようと思ったら、かなり大掛かりなことが求められてきます。
広告用語で言えば、意識や認識を変えるという意味を持つ「パーセプションチェンジ」で、まさにMリーグでやろうとしていることです。そのためには大企業にも参加してもらうことが必要でしたし、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎さんに最高顧問を引き受けていただいたことも大きな意味を持ちました。
実は、僕自身がやるしかないと腹をくくるまで、利害関係がなく、麻雀業界全体のために動いてくれる人を探していて、川淵さんこそふさしいと思っていました。川淵さんの著書『独裁力』(幻冬舎新書)を読み、そのように痛感していたからです。
でも、当時はまさか川淵さんが引き受けてくれるはずがないと思っていたので、自分でやるしかないと覚悟を決めて動き始めたら、Mリーグの立ち上げが最終局面を迎えた頃に偶然お目にかかるチャンスが舞い込んだのです。
――それは、完全に偶然だったわけですか? いったい、どのようなめぐり合わせだったのでしょうか?
藤田 ある日、「川淵さんと一緒にゴルフをするけど、1組空いているから藤田君もどう?」と知人が誘ってくれました。もしかしたら、その場で依頼するチャンスがあるかもしれないと考えたものの、まず断られるだろうなと思っていました。
それでも、ダメでもともとで話を振ってみたら、川淵さんは麻雀が大好きだとおっしゃる。そして、週に一度の“健康麻雀”を楽しみにしているというお話だったので、就任を依頼したら快諾してもらえたのです。まさに“海底(ハイテイ)ツモ”という感じでした(笑)。
Mリーグにおいて「チェアマン」という役職を設けてそれに僕が就任したのも、Jリーグを意識していたからです。その上で川淵さんが最高顧問に就いたら、ホントに最高じゃないですか。
とにかく、麻雀の対局を見ていると本当にスポーツのような戦いが繰り広げられるので、そのような感覚で観戦していただければと思います。今までのようなスーツ姿ではなく、ユニフォームを着て対戦するのも、スポーツを意識しているからです。
“ゼロギャンブル宣言”でプロ雀士を憧れられる職業に
――スポーツのように位置づけたいという背景には、やはり“賭け事”というとらえられ方を払拭したいという思いがあるのでしょうか?
藤田 Mリーグが盛り上がっていくことで、作品自体は当然、素晴らしいものなのですが、「麻雀放浪記」(昭和の雀士・阿佐田哲也の小説およびそれを原作とするマンガ・映画)のようなバクチのイメージを忘れ去ってくれたらいいなと思っています。麻雀をやる人たちの中で、昔のように、賭け麻雀で儲けようという発想はほぼ全滅しています。賭け麻雀で食っていけるなんて、プロも誰一人として思っていないはずです。
だから、僕はプロ雀士を堂々と公言できる職業、そして子どもたちに憧れられる職業にしたい。Mリーグに参戦する選手も今までの麻雀のイメージを変えたいと思っているし、今まで仲があまり良くなかった各団体がMリーグに総じて協力的な姿勢を示しているのは、彼らとしても「もう後がない」と思っているからでしょう。
興業的にも、野球やサッカーはスポンサー収入が中心ではあるものの、チケット収入も大きい。その点、麻雀のチケットはすぐには同じような規模では売れないでしょうし、グッズもほぼないから、まずはスポンサー収入しかありません。違法なものにスポンサーがつくわけがないので、賭け麻雀とは完全に決別しなければなりません。
何らかの不祥事が一つでも発生すると、所属チームだけではなく、Mリーグ自体が終わってしまいかねないので、“ゼロギャンブル宣言”を掲げないことには一歩も前に進めないわけです。このことは参加選手にも強く言っています。
その意味でも、8月に開いたドラフトで女流雀士が何人か指名されたことでクリーンなイメージが高まったのは喜ばしいし、俳優の萩原聖人さんも指名されて話題を集めたのも好結果につながっているといえるでしょう。こうしたことで視聴者層も広がりそうです。
もちろん、人気が定着していくには5年、10年といった時間が必要となるでしょうが、Jリーグのケースのように“初速”が大切なので、1年目から大いに盛り上げていきたいと思っています。
麻雀はルールが複雑なほど実力が勝負を左右する
――Mリーグの公式ルールが、東南戦の一発裏あり、赤入りで、特にスピード化のための自動配牌には賛否両論があるようですが、どういった考えのもとでこうした内容になったのでしょうか?
藤田 これまで団体ごとにルールがかなり違って、誰も仕切ることが叶わなかったのが現実です。将来的にグローバルな統一ルールができるとしたら、より普及しているものへと収斂していく可能性も考えられるので、Mリーグでは最大公約数としてすべてを取り入れようと考えました。
自動配牌は最後まで悩んだのですが、スポーツとしてテンポを速める上で重要なため採用としました。仮に配牌が偏ったところで、そもそも狙って取りにいけるものではありませんから。
麻雀はルールが複雑になるほど可変要素が多くなるので、考えるべきことが増えて頭の中が忙しくなり、より実力が勝負を左右するようになります。その方が見る側も面白いと思いますよ。
――リーグ戦の模様はAbemaTVで放映されるわけですが、実況中継する上で演出上の工夫などは何か考えられていますか?
藤田 浜松町に専用の収録スタジオを借りているのですが、その向かいのイベント会場では、対戦チームのサポーターを招いて実況解説を行うつもりです。
麻雀を観戦している人たちって、応援している雀士が振り込みそうになったら一斉に悲痛な顔つきになるし、デカイ手であがると揃って歓喜を上げがちです。そういった状況をワイプ画面で見せたりすると、臨場感が高まって面白いのではないかと思っています。
「Mリーグ」パブリックビューイング
会場:TABLOID
開催時間:開場18時 試合開始19時(23時ごろ終了予定)
収容人数:150人程度
チケット金額:4000円(1ドリンク付)
チケット購入方法:「チケットぴあ」 にて販売
※10月11日以降の試合が対象。
1年目の試合数は各チーム80戦ですが、2年目以降はさらに増やし、プロ野球のように週に5~6回のペースで夜19時から楽しめる娯楽にしたいですね。
10月からリーグ戦がスタートしますが、その後、各チームでサポーターズクラブのような組織を結成してもらうつもりです。サポーターから集めた会費がチームの経営基盤となるわけで、成績が良くても人気がなければ次のための強化費も集められません。逆に人気のあるチームは資金を上手く回せるので、どんどん強化を図っていけます。
――ちなみに、藤田社長自らも選手としてMリーグに出場する可能性はありますか?
藤田 いえ(笑)、僕自身は出場しません。Mリーグのチェアマンですし、参加チームのひとつである「渋谷ABEMAS(アベマズ)」の監督ですから。経営者を辞めたら、Mリーガーになっているかもしれませんけど(笑)。
当然、選手として出たいという気持ちはありますが、それは絶対にないと言い切れます。ともかく、川淵さんに力を貸してもらえたことといい、ここまで奇跡の連続でMリーグがようやく形づいてきたので、ぜひとも成功させたいですね。
田舎勇者
川淵さんの記事にも期待したい。
2018.9.18 12:14