日本初の「ピースデーフェス」に参加して現実的な“平和への道のり”を考えた

2018.09.20

社会

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写真/芹澤裕介

9月21日は国連が定めた国際平和デー、通称“ピースデー”。一人のイギリス人俳優の尽力によって、2001年に非暴力・休戦を推進する日としてピースデーが正式に制定されてから17年の歳月がたった今も、世界では紛争が絶え間なく起きている。そんななか、9月2日に日本で初めての「ピースデーフェス」が開催された。憲法9条が存在感を示す一方、“平和ボケ”と揶揄される日本で、「平和」の叫びはどんな役割を担えるだろうか? 主催者の一人である谷崎テトラ氏のコメントとともにお送りする。

 構成作家/プロデューサー/京都造形芸術大学教授/ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事/ピースデー・ジャパン共同代表

谷崎 テトラ たにざき てとら

1964年、静岡生まれ。環境・平和・アートをテーマにしたメディアの企画構成・プロデュースを行う。価値観の転換(パラダイムシフト)や、持続可能社会の実現(ワールドシフト)の発信者&アーティストとして活動している。主な企画構成は「素敵な宇宙船地球号」(テレビ朝日)、「アースラジオ」(INTER FM)、「里山資本主義CAFE」(NHK World)、環境省「森里川海」映像など多数。アースデイ東京などの環境保護アクションの立ち上げや、地球サミット「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」 やSDGsなどへの社会提言・メディア発信を行う。ピースデー・ジャパンの発起人のひとりでもある。

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ピースデー(国際平和デー)

ピースデーは初め、1981年の国連決議で制定され、毎年、9月第3火曜日に行われる国連総会開会式では、これを記念した各国代表による黙祷が慣例となっていた。その後、一般的な認知はなかなか進まなかったが、2001年9月7日の国連決議で、9月21日が非暴力と休戦を呼びかけるピースデーとして定められる。ピースデー制定を祝う式典は9月11日に予定されていたが、式典の最中に9.11アメリカ同時多発テロが発生し、式典は中止。2002年より毎年祝われるようになった。ピースデーが9月21日に制定された背景には、イギリスの俳優でNPOピース・ワン・デーの創設者、ジェレミー・ギリーの活動が大きく影響している。

SUGIZO、GAKU-MC、the LOW-ATUS…豪華アーティストが参加

2018年9月2日、日本初の「ピースデーフェス」が開催された。当日は朝から小雨がパラつくあいにくの空模様。しかし、開始時刻には雨も上がり、メインステージでのオープニングトークを皮切りにフェスはスタートした。

ピースデーフェス

日本において、国連が定めたピースデー(国際平和デー)を広めるため、ピースデーの理念に賛同したアーティストによるライブを中心に、トークライブ、パフォーマンス、アクティビティ、ブースなどさまざまなコンテンツを用意したイベント。ピースデー・ジャパンが中心となって企画され、2018年9月2月に、13年目を迎えた「旅祭」と連動した「PEACE DAY 2018 ×旅祭」として、千葉県千葉市美浜区の幕張海浜公園で初開催。「旅祭」が醸し出すワールドワイドな雰囲気のなか、参加者が平和について考える機会を提供する場となった。

メインステージのオープニングを飾ったのは、LUNA SEA、X JAPANのギタリスト・ヴァイオリニストとして活躍するSUGIZOと、ピースデーフェスの主催者の一人でありピースデー・ジャパンの発起人でもある谷崎テトラ氏のユニット「S.T.K(Sensual Technology Kooks)」。続いて、ヒップホップMCのGAKU-MC、ELLEGARDENやthe HIATUSのボーカル細美武士とBRAHMANのボーカルTOSHI-LOWの弾き語りユニットthe LOW-ATUSなどが熱いステージを披露。一見、普通のフェスと変わらないラインアップに思えるが、皆、ピースデー運動に共感するアーティストだ。

「所属事務所の関係で、政治的な発言や運動を禁止されているアーティストも少なくないなか、平和への思いを表現したいと願ってステージに立ってくれたのがとてもうれしいです。出演アーティストそれぞれに平和へのストーリーがあります。

私と一緒に音楽活動をしてくれているSUGIZOも、社会運動家の側面を持つ人物。彼はビジュアル系のイメージが強いかもしれませんが、脱原発を訴えたり、毛皮反対を公言したり、東日本大震災のボランティアにも参加したりと、社会活動にとても熱心で、この夏も西日本豪雨の被災地で復旧作業を手伝うため、8月のスケジュールをすべてキャンセルしたほどです」(谷崎テトラ氏)

パレスチナやシリア難民の現状 メディアでは知ることができない世界の真実

メインステージでのライブの傍ら、別ステージではトークショーも開催された。トークショーの一発目は「ROAD TO WORLD PEACE」。不動産情報サービス事業を手掛ける株式会社LIFULL代表取締役社長で、ピースデー・ジャパンの共同代表を務める井上高志氏と、自称“自由人”の作家・高橋歩氏、谷崎テトラ氏とともにピースデー・ジャパンを立ち上げた映画配給会社ユナイテッドピープル株式会社代表取締役・関根健次氏によるトークセッションだ。

それぞれが平和を実現するためにどんな活動をしてきたか、そしてピースデー・ジャパンにどんな思いを持って参加しているかを語り合う。関根氏は「人類が戦争から卒業する日がここから始まる」とピースデーフェス開催の意義を述べ、高橋氏は「旅を通して世界中に友達を持てば、問題は解決する。誰も友達が住む国に爆弾を落としたいとは思わないよね」と、旅と平和の親和性を語った。

続いてトークのステージに登場したのは、ライブを終えたばかりのSUGIZOと谷崎氏。パレスチナの実情に詳しいジャーナリスト志葉玲(しば れい)氏を交えて「紛争地・イスラエル・パレスチナの現実」と題し、今も日常的に銃弾が飛び交い、8割の住民が国連の支援下で暮らしているというパレスチナの現実を、基礎知識を交えながら説明。

SUGIZOは、ヨルダンのシリア難民キャンプを訪れた際のエピソードを写真とともに披露し、「難民キャンプで暮らす人は、アートや温もりに飢えています。みんな大変な生活を強いられていますが、本心では盛り上がりたいし踊りたいんだと感じました。いつかパレスチナ難民キャンプでトランスパーティをしたい。イスラエルは知る人ぞ知るトランスの聖地だから」と語った。

そのほか、映像作家・アートディレクターの丹下紘希氏、日本で女優として活動するイラン出身のサヘル・ローズ氏、ジャーナリスト・キャスターの堀潤氏によるトークライブ「平和構築のためのメディアの役割を考える」では、メディアの流す情報が偏っている可能性を指摘し、フェイクニュースを含めて何が真実であるか立ち止まって考えることの重要性を訴えた。

どのトークライブも普段の生活では触れない世界の真実を伝えていた。ピースデーフェスをきかっけに、今まで信じていた現実が必ずしも真実ではないと知ったことは、フェスの一般参加者に有意義な時間であっただけでなく、真実を伝えたいと望む発信者にとっても、大切な出合いの場を提供したと思う。

ジェレミー・ギリー本人も登場 ドキュメンタリー映画『ザ・デー・アフター・ピース』

昼過ぎには、NPOピース・ワン・デーの創設者ジェレミー・ギリーが制作したドキュメンタリー映画『ザ・デー・アフター・ピース』の上映会が開かれた。2001年にギリー氏がピースデー制定のために奔走し、「9.11」のテロ後に、“対テロ戦争”に向かう世界中を相手にピースデーを広めようと奮闘する姿が描かれている。

活動資金を得るためコカ・コーラ社に援助を求め、アンジェリーナ・ジョリーやジョニー・リー・ミラーらセレブの支持を取り付けるギリー氏。ピースデーの実績を作るために、ピース・ワン・デーのアンバサダーである俳優ジュード・ロウ氏とともに、タリバンと国連軍の間で戦闘が続くアフガニスタンを訪れたギリー氏は、ユニセフによる子どもたちへの予防接種を行うために、2008年9月21日をピースデー停戦としてほしいと、タリバンの上層部へ手紙で依頼。不可能に思える挑戦だったが、子どもを救うためなら協力するという返事を勝ち取り、ピースデーは実際に戦闘をストップさせることに成功するのだった。

映画を観終えた観客の前に登場したギリー氏は、「ピースデーを、例えば『母の日』のように、世界中の誰もが知る日にしたい。9月21日のピースデーには、家庭や学校、職場、近所でのちょっとした争いを考え直してほしい」と熱く訴えた。また、学校でのいじめを防止するきっかけにピースデーを活用してほしいとも語った。

「ピースデーは“反戦運動”とは異なります。難民救済や地雷撤去、核廃絶など具体的な行動を目指すNGOはたくさんありますが、ピースデー運動は平和への気づきを与える、平和を問いかける活動です。ジェレミーの言うように、毎年のピースデーは、自分に何ができるか考える日にしてもらいたい。

ピースデーには『世界中の紛争地では停戦を、停戦中の地では休戦を、休戦している地では完全な平和を!』という平和へのプロセスを少しずつ前進させようという思いが込められています。そのプロセスを踏み出す日、それがピースデーなんです」(谷崎テトラ氏)

“自分の平和”のきっかけに! 今年から始まる「ピースデー元年」

今年は日本でも、9月21日のピースデーに向けて各地でイベントが開催される。ピースデー当日には、ピースデー・ジャパンの井上高志氏、谷崎氏と関根健次氏らが「ピースデー宣言」を行うほか、翌日9月22日(土)には関根氏が中心となって毎年開いている国際平和映像祭が横浜で開催される。

現在、ピースデーを認識する人は世界に約10億人(ピース・ワン・デー)いるといわれている。今年を境に、日本でもピースデー運動は盛り上がりを見せていくことだろう。来年のピースデーフェスについては未定だというが、毎年開催する意向であると谷崎氏は語る。

「地球上では、74億人が資源を奪い合い、大量消費、大量破壊、人権・自然の蹂躙が今も横行しています。みんなで分け合えば共存できるのは簡単にわかるのに、それができない。民主主義もポピュリズムに成り果ててしまいました。

そういう意味では、まだ人類の文明は始まっていないのではないかと思います。しかし、人類は限られた資源を分かち合い、共存共栄できるポテンシャルは持っている。せめて一日でも、人間同士が殺し合わないことを実現して初めて、文明を持ったといえるのではないでしょうか。

ピースデーが広まって“一日の平和”が実現するまでは“プレ文明”段階です。ピースデーフェスが成功した今日この日を迎え、2018年は日本にとって“ピースデー元年”になったかもしれません。けれども、まだ知らない人たちはいます。ピースデーを知った日が、その人にとってのピースデー元年。だから毎年、ピースデー元年を訴えていこうと思います」(谷崎テトラ氏)

1年の365分の1に過ぎないたった1日の平和も実現できなくて、世界平和が訪れるはずがない。一瞬を1日に、1日を2日に、1週間に、1カ月に――。そうやって少しずつ平和な時間を増やしていくことでしか人類は平和を獲得できないのだ。

「反戦」と書いたプラカードを掲げても、憲法9条擁護を声高に叫んでも、平和に手は届かない。むしろ新たな争いを生み出すだけだ。それが果たして平和へのプロセスだろうか? それよりも自分の身の回りの争いごとをなくす努力を積み重ね、その輪を広げることのほうが可能性は高い! ピースデーフェスは、そんな平和までの道を想像させてくれた。