海軍力を増強、西太平洋の覇権をめぐりアメリカに挑み始めたのか、このところ中国は南太平洋に浮かぶ経済的にも苦しい島嶼国家に対し「札ビラ外交」による“一本釣り”を加速。一説には2010年以降この地域に注ぎ込んだ援助額は60億ドル(約6600億円)に達するとも。今年に入り南太平洋を舞台とした「日米豪 vs 中国」の陣取り合戦が目立ち始めている。
PIFで中国を制止したナウルの背後に米豪の思惑
中国の援助は、パプアニューギニア(PNG)を筆頭に、フィジーやバヌアツ、ミクロネシア連邦、サモア、クック諸島、ニウエなどでの港湾や空港、道路といったインフラ整備に投じられている。この動きを「軍事拠点確保のための布石ではないか」と日米豪は危機感を露わに。発端のひとつが、今年4月オーストラリアの有力紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」が報じた「中国がバヌアツに太平洋で初の海軍基地を建設か」との記事。バヌアツはオーストラリア大陸の北東約2000kmに浮かぶ島嶼国で、仮にここを中国が押さえればオーストラリアにとってはまさに安全保障上“目の上のたんこぶ”だ。
9月初旬に開催された第49回太平洋諸島フォーラム (PIF。南太平洋の16カ国・2地域が加盟、日米英仏独中韓など17カ国・組織が域外国の対話メンバーとして出席)は、さしずめ両陣営のサヤ当ての場に変貌。
出席した中国代表が正式な加盟国・地域代表を差し置き演説を始めようとしたため、議長国ナウルのバロン・ワガ大統領がこれを制止。怒った中国代表は不遜な態度で会場内をウロウロした挙句、激高して退場。当然、国際会議でのこうした品位に欠く態度にワガ大統領は「クレイジーだ。(中国は)友人ではない。われわれに指図すべきではない」と吐き捨てる始末だ。
ちなみにナウルは台湾と国交を樹立した数少ない独立国のひとつ。「台湾は自国の一部」を国是とする中国とは、そもそも反りが合わない。だが、ナウルの背後には中国の軍拡を警戒し台湾擁護を強める米トランプ政権やオーストラリアの意向も見え隠れ。
11月APEC、日米豪と中国の攻防があらわに
11月に入るとオーストラリアは南太平洋地域にインフラ整備支援のため30億豪ドル(約2500億円)の基金を創設すると発表。さらに11月半ばにPNGの首都ポートモレスビーで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でも、ペンス米副大統領がインド大平洋地域のインフラ整備支援のために600億ドル(約6兆6000億円)の支援を行うと宣言しオーストラリアを援護射撃。
加えて、中国がPNGで計画する港湾建設支援に関しても、オーストラリアは牽制よろしく同計画への資金支援を提案、さらに日米豪は共同でPNGに対し送電網整備でも支援すると畳みかけた。
日本もこれらに呼応する形でPNGやフィジーの工兵部隊を日本に招待、自衛隊が災害・人道支援訓練を実施。平和憲法を掲げるだけにさすがに戦闘訓練は難しいが、世界の常識では明らかな“軍事支援”だ。
このように、南太平洋をめぐる両陣営の争いは激しさを増す一方だが、大半が貧困国である同地域の島嶼国にとっては、両者を手玉に取って援助を最大限引き出す絶好のチャンスと考えているかもしれない。まさに小国なりの処世術といったところだ。
いずれにせよ、中国が構想する制海権確保構想「第2列島線」(伊豆・小笠原―グアム―PNG)とも絡むだけに、制海権を懸けた両陣営の援助合戦は長期戦になること必至だ。