ゴーンなき後、会社の将来を左右する日産・ルノーの主導権争い

写真/Bloomberg

経済

ゴーンなき後、会社の将来を左右する日産・ルノーの主導権争い

0コメント

日産の会長だったカルロス・ゴーン氏が、金融商品取引法違反容疑で逮捕された“ゴーン・ショック”が連日メディアを騒がせている。報道によると容疑を否認しているというが、次々と明らかになる不正が事実だとするならば、相当あくどいと言わざるを得ない。11月22日の日産の臨時取締役会で会長職の解任が決まっているが、ゴーン氏なき後、日産とルノーの関係はどうなるのか。

次々に明らかになるゴーン氏の不正

「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」――。これは英国の歴史家、アクトン男爵の言葉だが、日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン氏はその典型と言っていいだろう。

11月19日、ゴーン氏は金融証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。容疑内容は、有価証券報告書に虚偽の報酬額を記載していたこと。2015年3月期までの計5年間の役員報酬額が、実際には99億8000万円だったのに、計49億8700万円と記載していたのだ。

逮捕された後の緊急記者会見で、西川廣人社長は「残念というのを越えて強い憤り、そして落胆を覚えている」と強い口調で語り、事態の概要について次のように話した。

「大きく3つの不正があると思っている。カルロス・ゴーン本人主導による重大な不正行為で、実際の報酬をより小さく見せていたこと。それと私的な目的で当社の投資資金を使っていたこと、そして不正目的で経費を使用していたことだ」

これらのことは、社内の内部通報を受けて数カ月間にわたって調査した結果わかったそうだ。その後、ゴーン氏の不正が次々に明るみに出てきた。

例えば、ベンチャー投資目的で設立された日産子会社ジーアの資金を使ってブラジルやレバノンに自宅用の高級住宅を取得したこと。また、日産に、家族旅行や、フランスのベルサイユ宮殿を借り切って結婚式を行った際の費用も負担させていたといった話も出ている。

これではゴーン氏が会長職を解任されても当然だ。ゴーン氏については、かねてから金銭にまつわる話や、公私混同ぶりは日産の役員や幹部の間では知られていて、「金に汚くて強欲」と一部の社員から言われていた。

日産社内に不満が鬱積

また、ゴーン氏の経営手法についても、日産社内で徐々に疑問視を持つ人が増えていった。特にここ数年はその傾向が顕著だった。

ゴーン氏が日産にやってきた1999年当時、日産は経営破綻寸前で、ルノーから36.8%の出資を受け入れ、約8000億円の資金を手に入れてなんとか倒産を免れた。その後、ゴーン氏が打ち出した「日産リバイバルプラン」などのリストラ策を実行して、見事に業績をV字回復させた。グローバル販売台数も着実に伸ばし、日産は安定した収益が出る会社になり、ゴーン氏はカリスマ経営者と呼ばれるようになった。

しかし、ルノーの会長兼CEOに就任した2009年あたりから徐々に様子が変わってきた。自ら「アライアンスのファウンダー(創業者)」と呼び、独裁者のような恐れられる存在になってしまったのだ。そのため、日産を去った幹部や社員が少なくないという。

また、日産とルノーのバランスも微妙に変化。当初は、両社が技術や人材などのリソースを持ち寄ってウィンウィンの関係で事業を行っていた。それがルノーに恩恵を与えるような経営判断が目立つようになったのだ。

その端的な例が、日産の主力小型車「マイクラ」(日本名マーチ)の生産だ。インド工場での生産がほぼ固まっていたが、それをルノーのフランス工場に変更。これには日産社内でも疑問が噴出した。最近では、日産の新たな商用車をルノーのフランス工場でつくることを明らかにしている。

「いい加減にしろ」という日産社員の思い

しかも、ゴーン氏はルノーCEOの任期を2022年まで延長する代わりに、ルノーの大株主であるフランス政府と3つの約束をした。それは[1]ルノーと日産の関係を後戻りできない不可逆的なものにする、[2]後継者を育てる、[3]ルノーの現在の中期経営計画を達成させる、ことである。

特に[1]に関して、日産はルノーに経営統合に近い形で関係が強化されるのではないかと危機感を持っていた。しかも、ゴーン氏はそのための関係強化策を2018年度中にもまとめる動きを見せていた。

ただでさえ、日産社内にはルノーに対して日産の利益が吸い上げられているとの指摘が根強い。ルノーの2017年12月期の連結純利益に占める日産からの貢献分は実に50%を占め、その状況はここ数年間続いている。提携時にルノーから約8000億円の支援をもらったが、その後の配当金としてルノーに払っており、その額は優に8000億円を上回っている。

その上、ゴーン氏がルノーの支配をさらに強化しようしているわけで、日産側からすれば、「いい加減にしろ」という思いだろう。そんなときに内部告発があり、これを西川社長が好機にとらえ、司法取引などを利用して反撃に出たといっていいだろう。

主導権争いをしている余裕などない

しかし、問題はこれからだ。西川社長はルノー・日産・三菱自動車の3社連合について次のように話す。

「当社について言うと、業務への影響はない。執行体制の現状に影響ないが、今後必要になれば、速やかに断行実行する。アライアンスの仕事についても3社で相談して迅速に実行していきたいと思う。少し早いが、将来に向けては極端に個人に依存した体制を見直して、持続可能な体制にしたい。良い見直しの機会になるのではないかと思っている」

日産はこれまで、水面下でルノーとの資本関係の見直しを迫り続けており、その動きを加速するのは間違いない。すでに日産は、ルノーがゴーン氏に代わる会長を指名するのを拒否したという話も出ており、ルノーの影響をできるだけ少なくしようと動いている。今後、アライアンス統括会社ルノー・日産BV(オランダ)の問題など、さまざまなところで主導権争いが始まるだろう。

しかし、日産とルノーには主導権争いをしている余裕などないのだ。なにしろ自動車業界は今、100年に一度という大変革期を迎えている。コネクティッド(connected)、自動運転(autonomous)、シェアリング(sharing)、電動化(electric)に象徴されるCASEの時代に直面しており、競争相手もIT企業などこれまでと勝手が違う。それは今後の生存をかけた闘いであり、主導権争いで技術革新に遅れをとれば、日産にもルノーにも未来はない。