昨年の経済は比較的安定していたものの、年末から年始にかけて世界経済の減速懸念が広がり市場は乱調、不穏な空気を漂わせた。米中の政治動向も不安定ななか、2019年の経済はどうなるか。
昨年末から不安定さが増加中
全国銀行協会の藤原弘治会長(みずほ銀行頭取)は、12月13日の記者会見で2018年を総括して「『適温経済から変温経済への転換の節目』だったという印象を持っている」と述べた。また、日本企業の約6割が実質無借金となるなか、2000年前半に問題視された雇用・設備・債務の“3つの過剰”が“3つの不足”にシフトした一年であったとも振り返っている。
その一方で、米中の貿易摩擦、Brexit(ブレグジット、イギリスのEU離脱)、欧米各国におけるポピュリズムの台頭など“グローバリズムの巻き戻し”とも言える動きに不安定さも増していると指摘した。
昨年末から年初にかけての市場の乱調は、藤原氏の発言をなぞるように不安な幕開けを予感させた。3日には一時1ドル=104円台へ円高に振れ、4日の東京株式市場では日経平均株価が一時700円以上も下落し、2万円を割り込んだ。大発会での下落は3年ぶりで、下落幅は金融危機前の2008年などに次ぎ3番目の大きさだった。
その後も、市場は乱高下を繰り返しており、リスクオフとリスクオンが猫の目のように変わる方向感のない展開となっている。
注目すべきは原油価格の急落と中央銀行の政治転換
この状況に既視感を覚えるのは今から30年前の平成が始まった1989年であり、同じように今年、改元が予定されている。歴史は繰りかすかも知れないという言い知れぬ不安がよぎる。
振り返れば当時も大きな経済の転換点であった。バブル経済はピークを極め、数年を経ずして日本経済は奈落の底へと落ち込んでいった。
分岐点は米ソ冷戦の終結であり、グローバル経済の変容であったように思える。トランプ大統領の登場と米中貿易戦争という現在の状況も近似している。まさに“グローバル経済の転換期”であり、米中の覇権をめぐる争いは根深いと見るべきだろう。
注目すべきは、一義的には藤原氏が指摘するように米中の貿易摩擦、Brexit、欧米各国におけるポピュリズムの台頭など“グローバリズムの巻き戻し”であることは間違いない。だが、その底流に流れる見逃せない2つの要素がある。一つは“経済のコメ”と言っていい原油価格の急落であり、もう一つは中央銀行の政策転換である。
株価下落の陰にオイルマネーの売り
2018年、原油価格は一時1バレル=76ドルと約4年ぶりの高値を付けた後、年末には40ドル台半ばまで急落した。背景にあるのは、米中貿易戦争に起因する世界経済の停滞懸念であり、石油輸出国機構(OPEC)の減産合意も打ち消してしまった。
そして、原油価格の急落に最も神経を尖らせているのが、昨年、カショギ記者殺害事件をめぐり非難の的となったサウジアラビアである。
同国の年間予算(歳入)の3分の2以上は原油価格で占められている。「サウジアラビアの2019年予算の前提となっている原油価格は、国際指標の北海ブレント換算で70~80ドル程度と見られている」(資源アナリスト)とされる。40ドル台半ばの価格では予算に穴が開きかねない水準だ。
このため、予算編成の最終段階であった昨年末に、利益ののったGAFAなどの米国株を売り浴びせたとの情報が市場を駆けめぐった。少なくとも昨年末から年初にかけての世界的な株価暴落に陰にオイルマネーの売りがあったことは確かだ。
だが、より深刻なのは、こうした原油価格の下落が一時的なものではなく、石油から再生可能エネルギーへの転換という構造的な問題を孕んでいることであろう。さらに、アメリカのシェールオイルの採算性の向上という要因も絡む。
「アメリカのシェールオイルの損益分岐点は45ドルまで改善してきており、価格裁定から原油価格はその水準まで下がってもおかしくない」(資源アナリスト)とされる。原油価格の高値維持は難しく、オイルマネーによるリスク資産売りは恒常化しかねない。
中央銀行のマネー供給が減速? 緩和継続の日本は…
もう一つの見逃せない要因である中央銀行の政策転換は、米欧中央銀行の量的緩和の終了と引き締めへの転換である。日米欧の3中央銀行の合計資産規模は、過去10年間で4倍に膨張し、昨年11月末時点で14兆ドル強に達する。
しかし、足元では米欧の緩和終了で伸びは前年比1%台にまで低下しており、2019年初めにも縮小に転じると予想されている。これまで中央銀行による潤沢なマネー供給で潤ってきた株式市場の下落は避けられない。
そして、3大中央銀行にあって未だ量的緩和を続ける日本銀行はどう動くのか。残された最大の懸念材料かも知れない。