事実上の空母保有に「専守防衛逸脱」の批判の声上がるも、軍事バランス考えると妥当か

2019.1.9

政治

0コメント
事実上の空母保有に「専守防衛逸脱」の批判の声上がるも、軍事バランス考えると妥当か

空母化する「いずも」型(海上自衛隊)

昨年12月に閣議決定された防衛大綱は、最新鋭ステルス戦闘機「F-35B」の導入と、護衛艦「いずも」へ搭載することが盛り込まれ、事実上、空母としての運用が可能になる。この内容に中国は懸念をあらわにし「強烈な不満と反対」を表明。国内でも野党やマスコミ等が敏感に反応するが、果てしてその中身とは。

“攻撃型”の空母とは何か

12月18日に安倍内閣が決定した「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と、「中期防衛力整備計画」(次期中期防。2019年度~23年度の5カ年計画。別名「31中期防」)の中身に、「専守防衛からの逸脱では」と野党や革新系新聞が一斉に批判した。

「31中期防」では、海上自衛隊が保有するヘリコプター搭載護衛艦「いずも」型2隻(「いずも」「かが」。全長248メートル、満載排水量2万6000トン、最大ヘリ搭載数14機。海自最大の護衛艦)に、アメリカ製の最新鋭ステルス戦闘攻撃機「F-35A」のSTOVL(短距離離陸/垂直着陸)型「F-35B」を積載すると明言。政府が事実上“航空母艦(空母)”の保有を宣言したことに対し、「“攻撃型”空母は違憲」と問題視されている。

意見はもっともだが、ただ、「空母」が攻撃型兵器か否かの議論は不毛な“言葉遊び”に陥る恐れもある。自衛隊の前身である警察予備隊は、かつて「戦車」を「特車」(特別な車)と言い換えていたが、今となっては笑い話。“攻撃用”と指弾されるのを避けるための苦肉の策だった。

もともと「いずも」型はF-35Bの運用を前提に設計されたともいわれており、“空母化”はある意味既定路線との見方もある。8~10機のF-35Bを積載する模様だが、政府は「物資輸送や人員輸送にも活用する“多用途運用護衛艦”だ」と強弁。

STOVL(短距離離陸/垂直着陸)性能を誇るF-35B(米海兵隊)

同様の例は海外にも存在し、イギリスの「インビンシブル」級軽空母は、1970年代の建造当時「全通甲板巡洋艦」と称した。財政難のなか、「空母という巨艦を保有する余裕はない」とかみつく野党を交わすための策だ。

また、ロシアが現在保有する唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」も、正式には「重航空巡洋艦」と名乗る。全長305メートル、満載排水量5万9100トン、戦闘機やヘリなど約50機を積載する正真正銘の空母だが、第2次大戦前に締結されたモントルー条約により、空母は地中海と黒海を結ぶボスポラス海峡を航行することができなくなったため、これをクリアするための措置である。とどのつまり空母が“攻撃用”か否かは、用兵側が攻撃に使うかどうかに尽きる。

スキージャンプと艦上早期警戒機

政府は“空母化”「いずも」型2隻を登板させることで、空母増強に走る中国に対抗し軍事的均衡を保ち、尖閣諸島や南西諸島を実力で奪取しようという野心を思いとどまらせるのが狙いらしい。つまりは“抑止力”であり、軍事的均衡は国家安全保障の定石だ。

万が一有事となり沖縄にある航空自衛隊や在日米軍の航空基地が先制攻撃で破壊された場合は、「いずも」型を出撃させて周辺の制海権・制空権(航空優勢)を確保することも想定する。

2隻から出撃できるF-35Bは20機程度で一見少ないように感じるが、同機はステルス機でしかも友軍機や味方艦船などとネットワークで情報を共有、効率的な作戦展開を可能にする「クラウド・シューティング」能力がウリで、中国軍にはまだ備わっていないテクノロジーでもある。

現代戦では戦闘機によるドッグファイト(格闘戦)などまず行わない。空自が装備する自慢の“空飛ぶレーダー”E-767早期警戒管制機(AWACS)やE-2C(より高性能のE-2Dと近々交代)早期警戒機(AEW)により数百kmの遠方で敵機をキャッチ、この情報はデータリンクでF-35Bやイージス艦などと共有し、中長距離対空ミサイルで効率よくはるか彼方から攻撃、撃墜――いわゆる「アウトレンジ攻撃」――というシナリオだ。

ただ“空母化”「いずも」型の能力をフル活用するのなら、やはり「スキージャンプ」が欠かせない。爆弾やミサイル、燃料を満載したF-35Bの離陸を助けるため艦首を滑り台のように反り上げる対策で、米空母のようにカタパルト(射出機)を持たない空母にとっては必須のアイテム。だが同機を「いずも」型に常駐させないと言い切った手前、スキージャンプの付加は難しいだろう。

また、前述のE-767やE-2Cなどの早期警戒機は地上の航空基地から発進するため、「いずも」型の上空に常に滞空できるとは限らない。空母艦隊を敵機から守るためには、「いずも」型から発進できる垂直離着陸型のAEWも必要だろう。

これにうってつけの機体として、垂直離着陸輸送機MV-22オスプレイを母体にしたAEW「EV-22」が現在アメリカで開発中だといわれ、イギリスやインドなども関心を寄せているという。ただしこちらも「AEWが常駐すると攻撃型空母だと批判される」との懸念が先立つ。

空母保有をめぐって賛否両論を呼ぶ「防衛大綱/31中期防」。だが、すでに一部では「将来的に電磁カ式カタパルトとアングルドデッキ(斜め飛行甲板)を備えた本格的空母保有を念頭に置いた“瀬踏み”では」との声もある。