「将来に備えて相応のお金を蓄えておかなければ……」と思いつつも、出費も増えてなかなか実践できないのが子育て世代ではないだろうか? どのような方針に基づき、どういった手段で資産形成を進めていくのが理想形なのかについて考えてみたい。
子育て世代こそ、資産形成を本気で考えたい
年功序列賃金が崩壊し、預貯金ではほとんど増やせないのが常識となっている今、世代を問わず資産形成のことを本気で考える必要がある。その中でも特に子育て世代は、これから出ていくお金がどんどん増えていくだけに、できるだけ早いうちから計画的に資産形成を進めていくのが賢明だろう。
子供の成長に応じて支出額が増えていく「教育費」はもちろん、さらにその先を見据えれば、自分たちの「老後のための資金」も準備しておく必要がある。しかも、マイホームを購入している人はローンを返済しつつ、資産形成も同時に考えなければならない。
では、いったいどの程度の蓄えが求められてくるのだろうか? 子育て世代にとって一番にクリアすべき課題である教育費のほうから考えていきたい。
公立・私立、それぞれの学費を理解しよう
文部科学省の調査(平成30年度子どもの学習費調査)を見ると、幼稚園・小学校・中学校・高校における子供1人当たりの平均教育費は、すべて公立のパターンで541万円、幼稚園のみ私立のパターンで635万円、幼稚園と高校が私立のパターンで788万円、すべて私立のパターンで1,830万円となっている。
一方、同省令は国立大学の入学料を28万2000円、授業料を53万5800円、公立大学の入学料を39万4225円、授業料を53万8294円と定めている。4年間では、国立大学が約243万円、公立大学が約255万円の負担となるわけだ。
これに対し、同省の調査(私立大学等の平成30年度入学者に係る学生納付金等調査)において私立大学文系の入学料は22万9,997円で授業料が78万5,581円、私立大学理系の入学料が25万4,309円で授業料が110万5,616円となっている。こちらは4年間で、文系が約337万円、理系が約468万円の負担となるが、私立大はさらに施設設備費(文系が1年間で約12万円、理系が約19万円)も必要となる。
絶対に減らせない教育費は安全確実に蓄えたい
すべて私立で理系専攻のケースでは2,000万円超の資金が求められるが、高校まで公立で大学が国立なら800万円弱に抑えられる計算だ。各々の家庭の方針や懐事情、子供の希望などによって目標額はかなり異なってくるので、負担が大きくなりそうな場合はまだ子供が幼いうちから資金の工面を考えておいたほうがいい。
ただし、子供の教育費は絶対に減らしてはいけないお金である。高い収益性を期待できるからといって、元本割れのリスクもある投資信託や外貨建て保険などで運用するのは考えものだろう。
また、「教育費作り=学資保険」というイメージも定着しているものの、それはもはや過去の常識とも言える。現在の学資保険は貯蓄性がかなり薄れているし、途中で解約すると元本割れの可能性がある。
契約者である親が死亡した場合も学資を得られるというメリットにしても、すでに生命保険に加入しているなら保障の重複(ムダ)となりかねない。教育費の場合はオーソドックスに、元本保証のある預貯金で自動積立を行うのが基本となってこよう。
利息はほとんど期待できないが、着実に蓄えを積み上げられるし、もしも途中解約の必要が生じても元本割れの恐れも皆無である。月々3万円ずつの積立でも、子供が成人するまで続ければ720万円を蓄えられるし、積立だけで足りない場合は奨学金や教育ローンの活用も一考だ。
年金を補完する「老後への備え」は積極運用しよう
子育て世代の家計が辿る道筋において、やはり最大の難所となるのは子供が大学に通っている頃だろう。管理職になって収入が増えていることも期待される反面、先述したように教育費の負担が重いし、住宅ローンの返済も抱えているとさらに家計は圧迫される。
だが、その局面をどうにか通過すれば、視界は一気に広がってくるものだ。子供が社会に出れば家計に余裕が生まれるし、定年後も働くのが当たり前となりつつあるだけに、リタイア生活を始めるまでにはまだまだ十分な時間がある。
50歳を迎える頃に子供が社会人になり、健康である限りは70歳頃まで働くつもりだとすれば、20年もの歳月を費やして老後のための資金を蓄えられるわけだ。もっとも、子供の教育費のケースと同様に月々3万円ずつ預貯金に積み立てていっても、先述したように720万円(+スズメの涙程度の利息)の蓄えにとどまる。
かつて金融庁が公表して騒動を招いた「老後に2,000万円足りない」という報告書の真偽はともかく、1,000万円にも遠く及ばない備えでは心細く感じる人が多いことだろう。しかし、老後のための資金はあくまで公的年金だけでは不安な分を補うためのもので、子供の教育費とは違って投資信託などで収益性を追求できるし、積立投資によって投資のタイミングを分散していけばリスクも軽減できる。
しかも、税制上の優遇を受けられる制度も用意されているので、それらを活用すればより有利に運用できる。特に注目したいのは、iDeCo(イデコ)とつみたてNISAと呼ばれている制度だ。
通常なら、預貯金や株式、投資信託などといった金融商品で得られた利益からは、その約20%に相当する税金が徴収される。しかし、上記の制度はその例外となってくる。
iDeCoとつみたてNISAの税制優遇をフル活用
まず、iDeCo(イデコ)は「個人型確定拠出年金」の愛称で、自分自身の老後資金を確保するための制度だ。国民年金や厚生年金のような公的年金とは違って任意で加入し、預金や保険、投資信託の中から希望の金融商品を選ぶ。
すると、月々の掛け金が選んだ金融商品で運用され、その成果に応じた金額を60歳以降に受け取ることができる。掛け金は所得から控除できる(差し引ける)ので、その分だけ所得税や住民税が軽減されるし、運用中に発生した利益にも税金が課されず、60歳以降に一括で受け取る場合も1,500万円まで課税されないというメリットが得られる。
一方、つみたてNISAは「少額投資非課税制度」の一種で、年間40万円ずつ、最長20年間にわたって継続した積立投資で得られた利益がすべて非課税になるという特典がある。日経平均株価に運用実績が連動するタイプなど、金融庁が厳選した投資信託の中から希望のものを選ぶようになっている。
「少額投資非課税制度」ではつみたてNISA以外にも、NISAやジュニアNISAといった別のタイプが用意されている。だが、金融商品の運用で得られた利益が非課税となる点はいずれも共通しているものの、NISAは積立方式ではないので投資のタイミングを見計らう必要があり、投資のビギナーには少々ハードルが高い。
また、ジュニアNISAはどちらかと言えば相続・贈与対策に活用すべき制度である。未成年の子供名義で株式や投資信託で運用しても、その利益に課税されないばかりか、相続税もしくは贈与税も発生しないからだ。
つみたてNISAとNISAは20歳以上の日本在住者を対象としているが、ジュニアNISAは未成年の子供名義で口座を開設し、そこへ資金を贈与するかたちで運用を行う。原則として、名義人が18歳になるまでは非課税での払い出しが不可能となっている。
つみたてNISAは2037年まで適用される制度だったが、金融庁は2042年まで延長する方針だという。今から始めても、20年にわたって税制上の特典をフルに享受できることになりそうだ。
ということで、何かと出費が多く悩ましい子育て世代。教育費はシンプルかつ堅実に預貯金を、老後の備えは積極運用して計画的に蓄えていくのが、現代の理想的な資産形成だろう。将来に備えなくてはと思いつつ、何から手をつけていいのか分からない……という子育て世代はぜひ参考にしてほしい。