8月に施行される改正金融機能強化法によって、地銀は公的資本を受けやすくなる。コロナ禍でダメージを負った地域経済を支える役割として地銀は欠かせないが、マイナス金利や人口減によって当の地銀が“もたない”という状況があるからだ。地銀再編が進むなか、金融分野から地方創生を取り組むSBIホールディングスの存在感が増している。
改正金融機能強化法で地域経済を円滑化
政府は先の国会で金融機関が公的資金を受け入れやすくする金融機能強化法改正案を成立させた。地銀や信金、信組など地域金融機関を念頭に公的資金で資本支援することで、地域経済への資金供給の円滑化を促すものだ。
改正法の最大の特徴は、金融機関の経営責任の明確化や収益目標の設定を省ける特例を設ける点にある。従来の金融機能強化法においても、金融当局は公的資金の申請がやりやすいよう、厳格な経営責任を求めない旨、口頭ベースでは表明してきたが、今回の改正法で法的に明確化されたことで、より安心して申請しやすくなる。
また、公的資金を申請できる期限も2022年3月から2026年3月まで4年間延長するとともに、資金枠も12兆円から15兆円に増額する。改正法は8月にも施行させたい考えだ。
金融機能強化法を改正する狙いは、いうまでもなく新型コロナウイルスの感染拡大による地方経済の落ち込みを金融面から下支えすることにある。コロナ禍の経済への影響はどこまで拡大し、長引くか先が見えない。この間、経済の“血流”である金融に目詰まりが生じることになれば不測の企業倒産の急増を招きかねない。
その弊害を地域金融機関の資本面から除去しようというのが今回の改正案の肝と言っていい。公的資金で“地域金融機関の資本バッファ”を担保するというわけだ。
上場地銀の7割が減益・赤字決算
地域金融機関の置かれた現状は、超低金利の継続、人口減少などを背景に厳しさを増している。そこにコロナ禍が重なり収益環境はさらに悪化しかねない。それを食い止めるため、地域金融機関は必死になって地域経済、企業を支えるべく資金供給に努めている。結果、与信費用が増加することは避けられない状況だ。
与信費用
融資に際して設定する融資枠や債務保証等に関する費用全体のこと。融資先が倒産した際に債権を回収できなくなることに備えた「貸倒引当金」や、回収不能額を損失計上する「債権償却額」など。
すでに2020年3月期連結決算で、上場地銀78行・グループのうち、7割を占める57行が前の期に比べ減益もしくは赤字となっている。赤字が継続すればいずれ資本も食いつぶす事態に陥りかねない。改正法はそうした事態を想定して、期限も延長し、資金枠を増額したということであろう。
さらに、今回の改正金融機能強化法では、コロナ特例を使えば返済期限の無い公的資金の注入も可能だ。金融庁の遠藤俊英長官は、6月9日の衆院財務金融委員会で「返済のための財源を確保できる見込みがあることは確認する」と答弁、永久に公的資金を注入することは否定した。最初から返さなくてもいい公的資金を入れるようでは、金融機関のモラルハザードを招きかねないためだ。
実際、過去に公的資金を注入しながら返済できていない地銀や大手行もある。1998年の金融危機で一時国有化された旧日本長期信用銀行(現新生銀行)は未だに公的資金は完済できていない。
今回のコロナ禍で取引先の倒産や廃業が急増するのはこれから。しかし、地域金融機関の引当はそれほど進んでいないことも危惧されている。一部アナリストの試算によれば、地方銀行の与信費用の見込みは貸出総額の0.2%程度にとどまっている。経営環境が厳しく、思うように与信費用を盛り込めない地銀も少なくない。金融庁では9月の中間決算を控え、資本不足に陥る地域金融機関が出る可能性があると身構えている。
特例法で地銀の統合・合併は加速へ
一方、地方銀行同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が5月20日の参議院本会議で可決、成立した。人口減少や超低金利が続き、収益減少に喘ぐ地銀の再編を後押しし、経営基盤の強化を促すもので、適用期間は10年間となる。
特例法には、統合・合併で市場占有率が高まった地銀が不当に貸出金利を上げないよう監視し、利用者保護を徹底する規定も盛り込まれた。借り手の不利益が大きいと判断された場合は、金融庁が業務改善命令などで是正する。こうした点を踏まえ、金融庁が統合・合併を目指す地銀の事業計画を審査し、収益力や金融サービスの維持につながることを条件に、公正取引委員会と協議して認可する。
プラットフォームかを狙うSBIの「第4のメガバンク構想」
こうした地銀再編にあって、その触媒となるのではないかと注目されているのが、北尾吉孝氏が率いるSBIホールディングスだ。SBIは6月8日、地方創生を効率的に具現化するための統括会社「地方創生パートナーズ」(東京・港区)を新設し、日本政策投資銀行、新生銀行、山口フィナンシャルグループが出資すると発表した。
新会社は地域経済の活性化や地域金融機関の収益力強化を目的にし、北尾氏が社長に就く。資本金は5億円でSBIが過半を出資し、残りの資本は参加金融機関が分担する。そして、地銀最大手の横浜銀行と東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループが「地方創生パートナーズ」に合流することを決めた。出資額は少額にとどまるが、大手地銀の参画は大きな起爆剤となることは間違いない。背景には金融庁の後押しもあったと見られている。
新会社はSBIが進める「金融分野から地方創生への取り組み」の第3ステージに位置づけられている。第1ステージでは、SBIグループは3年超をかけてさまざまな分野で地域金融機関との提携関係を構築。そして次ぐ第2ステージで打ち上げたのが、提携先金融機関に資本参加し、各行の収益力向上を全面的に支援する「第4のメガバンク構想」だ。
「第4のメガバンク構想」は、SBIが過半を出資して持株会社を設立し、そこに全国の地銀やベンチャーキャピタル、運用会社などが出資して協力関係を築く。持株会社は参加する地銀等の業務システムやフィンテックなどのインフラや資産運用の受託ほか、人材の供給、マネーロンダリングの対応など幅広い商品・サービスを提供する、いわば“プラットフォーム”と言っていい。
すでに同構想の一環としてSBIは島根銀行、福島銀行、筑邦銀行、清水銀行の4行に出資した。また、SBIは新生銀行に出資し、第4位の大株主に躍り出たほか、大東銀行(福島県郡山市)の筆頭株主にもなっている。
ただし、金融界では、「地方創生に寄せるSBIの本気度がうかがえるが、同時に経営不振銀行の駆け込み寺化しつつあることも事実。『第4のメガバンク構想』は、共同持株会社を通じて傘下の地銀が経営危機に陥った場合に、間接的に公的資金を注入する受け皿ではないのか」(メガバンク幹部)と冷ややかな声も聞かれる。地銀糾合の台風の目となりつつあるSBIから目が離せない。