東京商工リサーチの調査によると、2021年3月決算の未上場企業のうち6割強が減収見込みだという(2020年12月)。新型コロナウイルスの感染拡大が重しになっていることは明らかで、この一年で2度にわたって実施された緊急事態宣言下の外出自粛要請の影響は大きい。金融庁は銀行に対して事業者支援を促すが、先行き不透明ななかでは動きも鈍くなりがちだ。10月に衆院選を控える菅政権にとって事業者支援は支持率回復の大きな要因だが…。
金融庁、金融機関へ事業者支援の要請を継続
上方修正する動きもみられるが、大半の中小企業は苦境にあえいでいる。日本経済の根底を支える中小企業の疲弊は顕著だ。
そうしたなか、政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて10都府県に出している緊急事態宣言を継続、解除の判断は慎重にしたいとしている。同時に、観光需要喚起策である「Go Toトラベル」の全国的な一時停止や飲食店への時短要請も継続。また、外国人の新規入国も原則停止を続ける。
コロナ感染は徐々に減少傾向にあるものの医療提供体制は依然厳しい状態にあり、病床逼迫が続いているためだ。しかし、緊急事態宣言の延長により経済活動の停滞はさらに深まることは避けられない。影響はあらゆるセクターに及ぶ。3月の年度末を控え、金融機関による事業者支援が一層重要性を増す。
「コロナとの戦いが長くなるにつれ、事業者の方々の資金繰り支援、経営改善、事業再生、事業転換等への支援の必要性が段々と高まってくる。皆さまが事業者を長い目で見て、事業者自身のためになるような解決策を見出していけるよう、一人ひとりのお客様に寄り添ってきめ細やかなサポートを続けていただきたい」
金融庁幹部は1月中旬の地銀幹部との会合で、こう改めて事業者支援に万全を期してもらえるよう各行に要請した。
金融庁は緊急事態宣言を踏まえ1月7日に麻生太郎金融担当相より、緊急事態宣言下での金融機関の対顧客業務について、緊急事態宣言対象区域に限らず、感染拡大防止に最大限務めるとともに、店舗を開いて、事業者の資金繰り支援をはじめ、必要な業務の継続を要請している。金融庁幹部はこの再徹底を求めた格好だ。
コロナ禍の中小企業の救世主「ネットファクタリング」
緊急事態宣言の延長でさらなる売上減が避けられず、資金繰りに窮する観光業や飲食業などの中小事業者。その頼みの綱となっているのが「ネットファクタリング」だ。
ファクタリングとは売掛債権等を期日前に買い取ってもらうサービスで、利用する事業者は入金期日前に債権を現金化できる。かつ手形割引(裏書)と違い、貸倒リスクや債権回収コスト(印紙税などもかからない)もファクタリング会社が負うメリットもある。このサービスをインターネット経由で提供するのがネットファクタリング事業者で、コロナ禍の中小企業の救世主になっている。
「ネットファクタリングはオンラインで申込を受け、AI(人工知能)で審査を行うのが主流で、最短即日入金される迅速さが売り。一種のクラウドファンディングだ」(大手銀行幹部)という。
金利に相当する手数料は2~10%程度が一般的で、債権額から同手数料を差し引いた金額で買い取る仕組みだ。事業者には日本で初めてネットファクタリングを手掛けたOLTAはじめ、OLTAと協業するfreee、マネーフォワードの子会社マネーフォワードケッサイなどがある。
コロナ感染の世界的な拡大を受け、ファクタリング事業は世界規模で急拡大しているが、ファクタリング業者の国際団体であるFCIの調査によると、日本のファクタリング市場規模は約6兆円で、英・仏などに比べ1桁少なく、まだ市場拡大の余地があるという。また、金融機関もネットファクタリング事業者との連携に乗り出している。金融機関はネットファクタリング会社に顧客をつなぐことで紹介手数料を得られるためだ。
ただ、“コロナバブル”ともいえるネットファクタリング急増には不良債権リスクが伴うほか、「ファクタリング事業者をかたる違法な貸金業者も出てきている」(メガバンク幹部)という。このため「売掛債権のファクタリングを金融機関が引き受け、金利に相当する手数料を国が負担してはどうかという案が政府内で検討されている」(自民党議員)という。
コロナ禍で時短営業が続く事業者にとって、当座の資金繰り確保がなによりも優先する。金融機関の融資には時間がかかるだけに、ファクタリングの需要増は当面続きそうだ。
金融機関も資金支援に最優先で取り組むが…
全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJ銀行頭取)は1月14日の記者会見で、「足元の感染拡大とそれに伴う金融事態宣言の再発出を受け、事業者の売上減少の長期化も懸念されている。その場合、再度事業者の資金繰りが悪化することによる既存借入れのリスケ要請の増加や追加資金支援要請に加え、資本性資金の関連ニーズがある程度高まることが想定される」と述べた。
全国銀行の2020年12月末の貸出残高は534兆円で、前年同月比でプラス5.3%の増加となっている。同時に金融機関の与信コストも、すでに9月中間期において、メガバンク、地銀ともコロナ禍の影響で大きく増加している。
三毛氏は「先行きが不透明ななかでは予防的な引当金の積み増しも含め、各行とも保守的な対応を行っていくのではないかと思う。そうしたなかで、第4四半期に引当金を積み増すという動きが出てくることはあり得る。それぞれの取引先のポストコロナを見据えた中長期の事業力を評価し、適切な引当てを検討しながら金融仲介機能の維持・発揮に努めていくことかと思う」と述べた。年度末を控え、事業者への資金支援に最優先で取り組む意思表示と受け止められる。
だが、金融の現場では、企業選別の動きも見られ始めている。「コロナ後を展望して生き残りが難しいと判断される中小企業に対して信用保証協会は保証を拒否し始めており、金融機関も貸出の折り返しを拒むケースが出てきている」(大手信用情報機関)という。
中小企業対策が菅政権の支持率引き上げの要に
コロナ禍の影響はほぼすべての業種に及び、中小・零細企業を瀕死の状況に追い詰めている。財政・金融面の支援から倒産件数は表面的には低く抑えられているが、負のマグマは水面下で膨れ上がっている。コロナ禍を契機に中小企業は過剰な債務を抱えることになった。その解消は容易なことではない。
コロナ対策、東京オリンピック・パラリンピック開催に揺れる菅政権だが、最大の焦点は10月21日に任期満了を迎える衆議院議員選挙であり、それまでに低迷する支持率をどう引き上げていくのかは中小企業対策にかかっている。雇用が腰折れすることになれば政権維持も難しくなる。日本経済の屋台骨を支える中小企業へのさらなる支援が望まれる。