コロナ禍が勝ち組、負け組に選別する―12月決算でより鮮明に

写真:つのだよしお/アフロ

経済

コロナ禍が勝ち組、負け組に選別する―12月決算でより鮮明に

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各社の2020年12月決算から見えてきたのは、コロナ禍によって業績が真っ二つに分かれた企業群だった。円の独歩安の恩恵を受ける輸出系企業、巣ごもり需要を潤うデジタル系企業に対し、外出自粛要請の影響をもろに食らう消費関連企業は軒並み減収減益、存亡の危機に瀕しているところも少なくない。そんななかで余計心配なのは、これらの状況に対して日銀の黒田総裁は菅首相に前向きな景況を伝えていることだ。

日銀・黒田総裁の景気の現状認識は楽観的過ぎる

日銀の黒田東彦総裁は2月18日、菅義偉首相と会談し、国内外の経済情勢について意見交換した。会談後、記者団のぶら下がり会見で黒田総裁は、「日本経済の現状について、輸出は新型コロナウイルス感染拡大前の水準まで回復し、企業の設備投資は底堅く、消費全体もある程度持ち直してきているとの認識を菅総理に伝えた」と述べた。

この黒田総裁の現状認識に違和感が付きまとうのは筆者だけではないだろう。確かに2月15日に内閣府が発表した2020年10~12月期のGDP統計・1次速報値によると、実質GDPは年率換算でプラス12.7%と、前期の年率22.7%に続いて2四半期連続のプラス成長となった。コロナショックで戦後最大のマイナス成長に陥った2020年4~6月期が嘘のような回復ぶりだ。

GDPを押し上げたのは輸出の伸長だ。10~12月期の実質輸出は前期比プラス11.1%で、特に自動車輸出の増加が目立った。最大手のトヨタ自動車の10~12月期の売上高に相当する営業収益(国際会計基準ベース)は前年同期比7%増の8兆1500億円、純利益は50%増の8386億円と、新型コロナウイルス流行前の水準を上回った。

背景にあるのは円の独歩安だ。2月17日の東京外為市場で円相場は対ドルで5カ月ぶり、対ユーロで2年2カ月ぶりの円安水準をつけた。世界的な景気回復を織り込む「リフレトレード」で、アメリカをはじめとする海外金利が上昇したことで円安を招いている。

一方、内需は低迷している。10~12月期の実質個人消費は前期比プラス2.2%と前期のプラス5.1%から半減するなど力強さに欠ける。コロナショックによる所得・雇用情勢の悪化が色濃い。10~12月期の実質雇用者報酬は前年同時比マイナス2.1%と低迷している。

さらに、「2021年1~3月期は再びマイナス成長に陥る可能性が高い。景気の二番底が懸念される」(エコノミスト)とされる。そういうことで、日銀の黒田総裁が菅首相に伝えた景気の現状認識は楽観的過ぎるように見える。

コロナ禍の勝者と敗者で広がる貧富の差

日経平均株価は2月15日、バブル崩壊直前の1990年8月以来30年半ぶりに3万円の大台に乗せた。だが、家計に占める株と投資信託の割合は13%に過ぎず、株価上昇を実感できる個人投資家は非常に少ない。株式等のリスク資産に投資できる“持つ者”と投資できない“持たざる者”の差は確実に広がっている。

同様に、企業における貧富の差も広がっている。円安を背景に電機や自動車など製造業の業績が急回復する一方、コロナ禍の影響をまともに受ける飲食、アパレル、宿泊など、消費関連企業は売上高の急減から、存亡の危機に瀕しているところも少なくない。

「ソニー」「日本製鉄」「日立製作所」「ENEOS」「JFE」「任天堂」、2021年3月期に業績改善を見込む企業群の顔ぶれだ。巣ごもり需要に潤うソニーは今期の純利益見通しを2850億円上方修正したほか、日立製作所は顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)投資を追い風に純利益が4倍に拡大する見通しだ。

対照的に業績悪化を見込むのは「JR東日本」「JR東海」「ANAホールディングス」「JAL」「JR西日本」など鉄道・航空会社が並ぶ。「JRと私鉄主要18社の2021年3月期の最終赤字は計1兆3000億円を超える見通し」(エコノミスト)とされる。

さらに、近畿日本ツーリストやクラブツーリズムを傘下に持つKNT-CTホールディングスは2021年3月期の連結最終損益が370億円の赤字見通し、三越伊勢丹ホールディングスは2020年4~12月期の最終損益が347億円の赤字、ファミリーレストランなどを展開するロイヤルホールディングスは2020年12月期(連結)の最終損益が過去最大の275億3200万円の赤字、居酒屋大手のワタミは2021年3月期の連結最終損益が116億円の赤字見通しなど、内需関連企業の業績は惨憺たる内容だ。

コロナ禍が勝ち組、負け組に選別する――。未曽有の事態に、企業淘汰という資本主義の論理をどこまで振りかざしていいものか。しかし、政府による支援にも限界がある。消失したニーズがいつ戻るともわからないなか、企業側の変革なくして残っていくことはできないだろう。