規制をクリアできれば利益は大きい 中国におけるコンテンツ市場の情勢と対処法
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規制をクリアできれば利益は大きい 中国におけるコンテンツ市場の情勢と対処法

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世界最大といわれる中国の消費市場は魅力的だが、海賊版が出回るイメージの一方で、政府による規制やライセンス取得などのハードルは高く、参入するにはそれなりのノウハウが必要だ。映像産業振興機構(VIPO)は2月7、8日、「2019年版 コンテンツ業界が知っておきたい中国ビジネス攻略セミナー」を開催。「映画」、「アニメ」などのコンテンツが豊富な日本が中国市場を実際に開拓するための方法について、専門家が講演した。

中国でのビジネスは知的財産権をうまく使う

1980~90年代に日本はクルマ、電気製品など“モノ作り”というハードウェアに強みがある国として世界的に名を馳せた。一方、インターネットの時代を迎えた現在、ソフトウェアは年々重要さが増しているが、世界において日本のポジションは高いとはいえない。

しかし、例外なのが「アニメ」、「ゲーム」などを中心としたポップカルチャーのコンテンツだ。「クール・ジャパン」として日本政府も力を入れているが、実際に、世界の子どもたちは幼少期から日本のアニメなどに触れており、ある意味、日本のモノを受け入れる垣根が一番低い。ハードウェアで優位性がなくなっている今、間違いなく将来の日本経済を支える分野の一角だ。

世界最大の消費市場の中国は人口14億人を背景に、2017年のコンテンツ市場規模は3兆5000億元(約57兆円)と巨大。動画配信サイトだけを見ても、2018年末で1220億元(1兆9800億円)、2019年末には1523億元(2兆4700億円)にまで達すると予測する。

日本人は無料の地上波放送の影響が大きかったせいか、コンテンツにお金を払うことについて抵抗感が強い。最近ようやく薄まってきたが、中国では課金に対する抵抗感が少なく、動画配信サイトの有料ユーザー数は2017年末までに1億7000万人と日本の人口を優に超えている現状だ。

ただ、これだけの市場規模を誇る中国だが、コピー/海賊版が多いというイメージがあり、中国進出に対して二の足を踏む企業は少なくない。しかし、知的財産権(Intellectual Property Rights)を使って上手くビジネス展開をできれば、巨大な収益を上げられることは確実。

そんな状況を背景に、「2019年版 コンテンツ業界が知っておきたい中国ビジネス攻略セミナー」では、上海に拠点を置き、コンテンツビジネスの支援を行うIP FORWARDグループの分部悠介総代表が、中国コンテンツ市場について解説や具体的な方策について話をした。

中国市場について説明するFORWARDグループの分部悠介総代表。セミナーは2日間とも満席で、3月に追加開催が決まるほどの盛況ぶり

中国は「盗る」「買う」時代を経て「創る」時代へ

中国市場の歴史を紐解くと、20年前は「盗る」、つまり海賊版がDVDや動画サイトで横行したが、2010年を過ぎた頃から動画サイトの競争が開始され、「土豆(Tudou)」という大手動画サイトがアニメ「NARUTO」(テレビ東京)を正規配信するなど権利を購入するところが現れた。

正規配信するサイトは、自分の権利を守るために同じ自国の違法サイトに対し法的措置を取る形につながり、かつ中国政府も海賊版の摘発を始めた。それまで中国政府は海賊版対策をあまりしてこなかったが、合法の動画配信サイトの企業収益を確保させた方が自国産業の育成につながることから摘発に乗り出したという。

そして3年位前から「創る」という段階に入った。中国企業による自主製作作品と日本IP原作をリメイクする形や、中国国産の作品に日本のアニメ制作技術を融合させて中国で流通させたり、純中国産の作品の輸出も始まっており、日本企業もうかうかしていられない状況になりつつある。

コンテンツといっても「動画」、「映画」、「テレビ番組」、「ゲーム」、「アニメ」、「漫画」、「キャラクター商品」、「音楽」など幅広い。次の作品は自主製作作品だがメディアミックスも巧みだ。

『盗墓筆記』(著者・南派三叔)は2007~2011年に出版された小説だが、2015年に実写化ドラマ、2016年にスマホゲームと映画、2017年にはアニメ映画……と収益の最大化に努めている。テンセントの『勇者大冒険』は2014年にオンラインゲームから始まったが、最初からメディアミックスをすることを前提として作品作りが行われているそうだ。

正規ルートは規制が厳しい中国

中国でビジネスをする際、中国企業がキャラクターのグッズの製造販売を申し込んできたり、漫画を映画化したいと連絡してくる場合がある。その際はライセンス契約が必要となるが、その前に相手企業を知ることや信頼に足るかというのを確認するのが重要だ。中国政府による「全国企業信用情報公示システム」というサイトにアクセスすれば、企業規模や代表者、株主といった基本情報がわかるほか、「信用中国」というサイトでは企業の過去の処罰、訴訟の記録も確認可能で、こういったことを確実に行う事が大事としている。

中国では、ビジネスを行う上でさまざまな規制があることは知られているが、2018年3月に中国政府は関連部門の組織改編を実施。映画の事前審査は広電総局が管轄だったが、変更後は国家電影局が担当になったという。コンテンツごとに審査する機関が細分化されて間違いやすくなったので、気をつけたい。

特に表現の自由に関しては、暴力、わいせつ、国家の安全性への危害を及ぼす、など細かなところまで規制が定められており、これに違反した場合は文化部の「ブラックリスト」入りする。日本で人気のパニックファンタジー『進撃の巨人』(毎日放送ほか)、同名のアダルトゲームが原作の『スクールデイズ』(UHF局ほか)などのアニメ作品もブラックリスト入りし、放送が禁止されている実態も明らかにした。

攻略には「考え方」と「産業構造」の違いを把握する

分部総代表によると中国でのビジネス展開については、「考え方」と「産業構造」の違いを知っておくことが肝要だという。「西洋系だと明らかに外見が違うので、最初から文化的に異なる……という心構えがあるが、中国人はアジア系なので何となく日本と同じようにビジネスしてしまうことがある」と。

具体的な対応策として、「中国人は権利を購入した以上、自由にやれると思う傾向が多いが、日本側は日本の慣習に基づき、契約書に明確に書かれていないことまでいろいろと求めることもある」ため「事前に明確に合意しておくことが推奨される」と語った。

ほかにも、「中国側はコンテンツに限らず、権利関係は比較的明確で、権利保有者も絞られている一方、日本は1つのコンテンツでも漫画は出版社、アニメは製作委員会など複数が権利を保有し、これらを起点にコンテンツを展開するため複雑。中国側は関係者の多さが原因でスピードが遅くなることを嫌う場合があるので、権利関係を事前に整理しておくと中国で展開するときはスムーズ」と説明した。ちなみに、米ハリウッドは中国に現地法人を置いて、そこに権限を与えている(日本のように現地法人が本社に伺いを立てることはない)。

中国のコンテンツ業界においては、日本人がイメージしているような「コピーが横行している」というステレオタイプ的な状況は少なくなっている。中国は国家の体制上、産業に対して「これ」という方針を決めてしまえば、その流れに一気に行くという力技ができる。日本企業はそれに適宜対応することが大事で、それが出来れば、中国という巨大市場で大きな利益を得ることができると改めて感じた。