産業としての可能性を感じさせた第1回全国高校eスポーツ選手権

2019.3.28

経済

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産業としての可能性を感じさせた第1回全国高校eスポーツ選手権

「LoL」部門で優勝したISGのメンバー。

3月23日、関西で選抜高校野球選手権大会が開幕した同じ日、関東の幕張メッセでは「第1回 全国高校eスポーツ選手権」が開催された(主催:毎日新聞社、共催:株式会社サードウェーブ)。世界的な広がりを見せているeスポーツだが、その高校生による全国大会で、初日23日の「ロケットリーグ」部門では「佐賀県立鹿島高等学校『OLPiXと愉快な仲間たち』」が、2日目の24日は「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」部門が行われ「東京学芸大学附属国際中等教育学校『ISS GAMING(ISG)』」がそれぞれ優勝した。「たかがゲーム」と侮るなかれ。eスポーツが将来大きな産業になり得る可能性が随所に見てとれた。

想像以上に盛り上がった初開催

両ゲームは2018年12月23日~26日に全国予選がオンラインで行われ、「ロケットリーグ」部門は60チーム、「LoL」部門は93チームが予選に参加し、勝ち抜いた4チームずつが今回の決勝大会に駒を進めた。

「ロケットリーグ」は3対3で対戦するサッカーゲームで、各選手はジャンプやロケット飛行ができる特殊な車を操作してゴールを狙う。飛行できるため“空中サッカー”ができるのが特徴だ。

日本では開発元のPsyonixが日本法人を設立していないこともありマイナーな存在だが、海外ではメジャーなeスポーツタイトルのひとつとして有名。攻守が頻繁に入れ替わるスピード感があり、細かいルールがわからなくても試合の流れを追えるので誰でも楽しめる。

決勝は5回戦制(先に3勝したチームが勝者)で、OLPiXが「大分県立鶴崎工業高等学校『雷切』」相手に6‐2、3‐0、4‐2と、対戦成績3対0で圧倒して初代王者になった。試合ではOLPiXが教科書に書いたような「ワンツーリターン」で抜け出してゴールを決めたり、現実のサッカーで見られる戦術も展開されるなど、大いに盛り上がった。

「LoL」対戦画面。大型スクリーンにプレーの様子が選手の顔と一緒に映し出される。©2019Rlot Games, inc. All rights reserved

2日目の「LoL」は約9000万人ともいわれる巨大競技人口を持つアメリカ発祥のゲーム。1チーム5人のチーム対戦で行い、各自が特徴の異なるキャラクターを選んで操作する陣取りゲームだ。レーンと呼ばれる3つの道を使って相手陣へ攻め込み、一番奥にある相手の陣地を先に倒した方が勝者となる。

優勝したISGにいるFlow選手は「LoL」のプロリーグに参加しているほどの腕前。チームとしては3年生も多く所属しており受験勉強で忙しくチームとしての合同練習はあまりとれなかったようだ。ただ、個々の戦術理解度が高く、決勝(3回戦制)の初戦では対戦相手の岡山共生高校「eスポーツ部」の奇襲にやられたものの、残り2戦は相手を寄せ付けずに勝利しナンバーワンに輝いた。

サードウェーブによる演出はLEDをふんだんに使い、舞台装置も豪華。決勝の後には大会応援ソング「ナミタチヌ」を歌うBURNOUT SYNDROMESのミニライブが行われ、その勢いで優勝者を壇上に上げてトロフィーを手渡すという流れは、これまでのスポーツ大会にはない表彰スタイルで印象的だった。eスポーツの印象を変えるには十分だっただろう。

アマチュアの大会とは思えない、しっかりとした舞台。

情報戦&頭脳戦…eスポーツの競技性の高さ

どうしても、eスポーツがゲームオタクのための大会と感じる人がいると思うが、今回の2つのゲームは、大会に選ばれたタイトルだけありかなり競技性が高く、特に戦術とコミュニケーションが重要という意味では「カーリング」に近い競技ともいえる。

カーリングは氷の状態などを選手同士で情報交換し、すぐ戦術に反映させるほか、スキップ(司令塔)が声をかけてチームメイトに氷をスイープ(掃く)するかどうかの判断を瞬時に下す。選手全員がヘッドホンをつけているeスポーツも同じで、リーダーが発した言葉はすぐ他の選手に共有され、即座にプレーに反映される。

「LoL」のウィナーであるISGは選手同士のコミュニケーションが活発だった。そのとき何が起こっているのかを全員が把握し、それにより適切な判断が可能になり、相手を追い込んでいったのがはっきりとわかるほどだ。

プレー中の様子。ヘッドセットでコミュニケーションを図る。

企業も注目する産業としてのeスポーツ

3月19日、Googleはゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表したが、それは今でもゲーム産業が成長産業だという証左にほかならない。eスポーツだけを考えても、国際オリンピック委員会(IOC)は昨年末にメダル競技としては時期早尚という判断を下しているものの、継続して議論は進めていくとしている。この流れに日本は置いてきぼりにされかねない状況だ。

日本が世界のゲーム業界を長年引っ張ってきたという点を考えると、日本がこの流れに乗り遅れるのはもったいない。自らチャンスを放棄しているに等しい。そんななか、今回のイベントに、日清食品、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ロジクールなど多くの有名企業が参加したことは明るい材料だ。

主催の毎日新聞は西では野球、東ではeスポーツという2つの高校生大会を主催したことになる。丸山昌宏社長は「新しいクラブ活動を応援していこうと考えた」とし、「すそ野を広げれば文化になる」語っていたが、それはeスポーツが大きな産業になるというポテンシャルを秘めていると認識し、新しい事業開拓をしようということの裏返しだ。

ほかにも、デンソー、マンダム、ロート製薬、ドクターエア、湖池屋などの企業がブースを構えた。デンソーの担当者に話を聞くと、「正直、デンソーとeスポーツは直接のつながりはないが、若者とつながるチャンネルのひとつとして期待している」と回答。

デンソーのブースの様子。

湖池屋は、“ゲーミングスナック日本代表”としての定着を狙った「ONE HAND(ワンハンド)」シリーズに、カフェインを配合した「ドライカラムーチョ ブラックペッパー」を新たに開発。手を汚さずに食べられることに加え、ゲームプレー中も眠気を起こさせないとしてレコメンドした。4月8日から全国販売を開始するとのことだが「これも少子化の中でeスポーツが大きくなる可能性を秘めていることから参入を決めた」と話していた。

また、マンダムは「GATSBY」のブランドでデオドラントシートを無料配布し、ロート製薬はゲームで疲れた目を癒すため目薬「ロートジー」の宣伝をしていた。

ロートはプロモーションにゲームとの親和性が高いコスプレを利用。

たかがゲーム、されどゲーム 産業としての可能性

eスポーツについてどうしてもついて回るのが「たかがゲーマーの遊び」という言葉だ。参加した学生もこういった否定的な意見があることはよく認識しており、記者会見の中でも「これを機にeスポーツが発展してほしい」という学生のコメントが多かった。一方で、2014年に同好会として発足した共生高校が、全国大会が開催されることが発表されて2018年に部として承認されたことも伝えられた。

多くの学生は将来「プロの道に進むとは考えていません」としていたが、事実、この全国大会で活躍したからといって、LoLのプロリーグに入るための手段は、現在は無い。eスポーツのプロリーグにも各種問題があり、ドラフト制度導入などは考えにくいからだ。高校→大学→プロ、高校→プロというルートが整備されれば、間違いなく産業として発展するのだが……。

ふと思ったのは、実際には本人がプレーしているわけではないのに、プレー画面を見てなぜこれほどの人々が熱狂するのかである。小さい頃を振り返ってみると、友達の家に遊びにいったとき、自分がプレーせず友達同士のプレーを見ても十分楽しめていた。つまりゲームは、プロ野球やプロサッカー、大相撲、オリンピックなどのスポーツを観戦するのと同じ感覚で見ることができるということだ。これは観客を呼ぶ=入場料収入を稼げるといういう意味でも産業として非常に大きい。

横断幕を掲げる観衆。来場者は、初日は1006人、2日目は2124人だった。

大会終了時に、「ロケットリーグ」が8月、「LoL」が11月に第2回目の開催が行われることが発表された。筆者は3月10日に香港で行われたフォーミュラE(電気自動車のレース)の取材をしてきたが、イベントの一環でフォーミュラEのプロドライバーまで出場させたドライビングゲームの大会が開催されていた。

世界のeスポーツは想像を超えたスピードで動き出している。強いものが生き残れるのではなく、変化に対応できるものが行き残るとするならば、「ゲームオタクがするイベント」とネガティブに認識するのではなく、大きな産業となる可能性を秘めているとポジティブに認識した企業や人間が、eスポーツという新しい市場で利益を出せるのではないかと感じた。