女性天皇・女系天皇・女性宮家 令和時代の皇室改革

2019.5.20

社会

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女性天皇・女系天皇・女性宮家 令和時代の皇室改革

写真/Carl Court/Getty Images

上皇さまの退位と新天皇陛下の即位、そして「令和」への改元で、日本の皇室に国内外から注目が集まっている。約200年ぶりの退位による皇位継承でお祝いムードに包まれているが、その陰で皇室には課題も多い。国民の注目が集まっている今こそ、皇室や皇位継承の安定化に向け、皇室改革を進める好機である。

空前の皇室ブームの陰で

上皇さまが退位された4月30日と、皇太子だった天皇陛下が即位された5月1日。世間は10連休だったこともあり、華やかな皇族の一挙手一投足を中継するテレビにくぎ付けとなった国民は多いだろう。一連の行事は海外メディアでも大きく取り上げられた。

代替わりを機に実施した朝日新聞の世論調査によると「皇室に親しみを持っている」との回答が76%となり、同様の調査で過去最高を更新。かつて40%台に落ち込んでいたことを考えると、空前の皇室ブームと言ってもいい。

ただ、華やかな儀式の陰で、「皇太子」の地位が86年ぶりに空位となり、皇位の継承者が1人減ったことはあまり注目されていない。皇位継承の安定性には黄信号が灯っているのが現実なのだ。

皇太子の不在

皇室に関する法律である皇室典範は天皇の直系男子、つまり天皇の男の子を皇太子と定めている。これまでは上皇さまの長男だった天皇陛下が皇太子だったが、天皇陛下の子どもは長女の愛子さまだけ。皇位継承順第1位は天皇陛下の弟である秋篠宮さまだが、皇太子ではなく、「皇嗣(こうし)」と呼ぶ。現在、皇太子は不在だ。

皇位継承順第2位は秋篠宮さまの長男である悠仁さまで、第3位は上皇さまの弟である常陸宮さまで、皇位継承者はこの3人しかいない。天皇陛下の即位により4人から3人に減った。現在の皇室典範は皇位を「男系の男子」が継承すると定めているため、天皇陛下の長女・愛子さまや秋篠宮さまの長女・眞子さま、次女・佳子さまが継承することはない。

3人の継承者がいるといっても、秋篠宮さまは天皇陛下の6歳下で53歳、常陸宮さまは83歳。常陸宮さまの継承は現実的ではなく、秋篠宮さまが継いでも長期にわたる可能性は低い。実質的には悠仁さまお1人が次世代を担うこととなる。

さらに問題なのはその次の世代だ。男系の男子だけが継承者となると、悠仁さまの次の世代で継承の権利を持つのは悠仁さまの男の子どものみ。悠仁さまとお妃さまには途方もないプレッシャーがかかることとなる。そして仮に男の子が生まれなかったら、継承者はいなくなる。

女性天皇と女系天皇、そして女性宮家

もう一つの課題が皇族の人数の問題だ。皇室典範は「皇族女子が天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と規定。女性の皇族は結婚を機に皇族でなくなることとされているため、皇族の人数は減り続けている。一方で公務の量は減っていないため、皇族一人あたりの公務の負担が増しているのだ。

そこで浮上しているのが「女性天皇」と「女系天皇」、そして「女性宮家」の議論だ。当時、小泉純一郎首相の諮問機関として設置された皇室典範に関する有識者会議は17回の会議の末、2005年にまとめた報告書で「男系による継承を貫こうとすることは、最も基本的な伝統としての世襲そのものを危うくする結果をもたらす」と指摘。「今後における皇位継承資格については、女子や女系の皇族に拡大することが適当である」と結論づけた。

また、皇族の減少に歯止めをかけるため、女性の皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設も提起した。

小泉首相はすぐさま皇室典範の改正に向けた準備を始めたが、その直後に秋篠宮妃紀子さまがご懐妊。2006年9月に悠仁さまが誕生されたことで、皇室典範の改正議論は急激にしぼんだ。結果的に小泉首相は皇室典範の改正を先送りすると表明。そこから先、本格的な議論は進んでいない。民主党政権の野田内閣で女性宮家創設に向けた論点整理が行われたが、民主党政権の崩壊で皇室典範の改正は立ち消えとなった。

皇室改革に慎重な政府に反して世論は理解が進む

現在、皇室改革の議論が進んでいないのは安倍首相が慎重だからだ。安倍首相をはじめとする保守系議員の中には女性天皇や女系天皇、女性宮家創設に慎重な意見が根強い。首相は今年3月の国会答弁で「男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みを踏まえながら慎重かつ丁寧に検討を行う必要がある」と述べ、慎重な姿勢をにじませた。

一方の世論は対照的。朝日新聞の世論調査では、女性天皇を認めてもいいとの回答が76%、女系天皇は74%にのぼった。女性宮家の創設にも50%が賛成、反対は37%だった。首相の考えとは対照的に、国民の理解は進んでいる。

上皇さまの退位に向け、皇室典範の特例を定めた「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が2017年に国会で成立した際、衆参両院の委員会は安定的な皇位継承を確保するための課題や女性宮家の創設などを特例法の施行後、速やかに検討することを求める付帯決議を可決させた。特例法の施行は今年の4月30日で、すでに過ぎている。

菅義偉官房長官は5月1日の記者会見で、皇位の安定継承について「極めて重要な課題だ」と指摘。皇位継承に伴う一連の儀式が終わる秋以降に検討を本格化させる考えを示したが、具体的にどのように検討するかは不透明。皇位継承の安定化という現実的な課題を前に、安倍首相がどのように向き合うかが注目される。