大阪で20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開催された6月最後の1週間。日本の新聞紙上で最も大きな見出しを飾ったのはサミットではなく、アメリカのトランプ大統領と、サミット参加国ではない北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談だった。サミットは大きな成果が無く、参院選に向けて得意の外交で国民へのアピールを狙った安倍晋三首相は空振りで終わった格好だ。
G20
G20は先進7カ国(G7)の日本、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランスにロシアとEU、そして新興国11カ国(中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン)を加えた枠組み。当初は定期的に財務大臣・中央銀行総裁会議を開いていたが、リーマン・ショックを受けて2008年から首脳会合も行うようになった。
G20サミットの正式名称は「金融・世界経済に関する首脳会合」。20カ国で世界のGDPの80% を占めることから、主に金融や貿易、財政政策について話し合う場となっている。首脳会合は今年で14回目となったが、日本での開催は初めて。
「貿易戦争」の激化は回避も米中の立場の違いあらわに
今年のG20サミットの主要議題は米中を中心とする「貿易戦争」の抑止とデジタル化社会における国際ルール作り、海洋プラスチックごみ対策の3つだ。
1つ目の課題の貿易分野については、機能不全を指摘される世界貿易機関(WTO)の改革が必要との認識では一致したが、具体策には踏み込めず。最終日にまとめた首脳宣言には「公平な競争条件を確保するよう取り組む」としたものの、「反保護主義」や「自由貿易の促進」といった表現は見送られた。米中をはじめとする立場の異なる国々で合意を得ることの難しさが露呈した。
この問題において注目されたのはG20サミット自体ではなく、サミットに合わせて行われたアメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談だった。貿易戦争が激化すれば世界経済の下振れリスクにつながりかねないが、両国は5月から中断していた貿易協議の再開で合意。トランプ大統領は3000億ドル(約33兆円)規模の中国製品への追加関税を先送りすることを表明した。ひとまず貿易戦争の激化は免れたが、貿易協議は難航するとみられており、国際社会にとっては今後も安心できない状況が続く。
2つ目の課題であるデジタル分野の国際ルール作りについては、安倍首相がデータ流通の国際ルール作り「大阪トラック」を宣言。国境を越えて自由にデータが流通する「データ流通圏」の創設を提唱したが、首脳宣言では「データの潜在力を最大限活用するため、国際的な政策討議を促進することを目指す」との表現にとどまった。データ流通に関しても米中の2大国間の立場の違いが明らかとなり、ルール作りの難しさが浮き彫りとなった。
3つ目の課題である海洋プラスチックごみに関しては、2050年までに海洋プラスチックごみによる海洋汚染をゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を盛り込んだ。国際問題となっている海洋プラスチックごみの削減に関する初めての国際的な数値目標だが、現状は国境を越えて移動する廃プラがどこからどのくらい流出しているのか正確に把握できていない。G20における世界の廃プラ排出量は50%にとどまっていることもあり、G20主導での目標達成への道のりは険しい。
日本は“橋渡し”というより“調整”役の印象
安倍首相は閉幕後の記者会見で「自由、公正、無差別、開かれた市場、公平な競争条件、こうした自由貿易の基本的原則を明確に確認することができた」と胸を張ったが、首脳宣言を読む限りそこまでの成果は確認できない。議長国である日本は米中の2大国に振り回され、調整に追われて右往左往した印象しかない。
日本はG20の機会を利用した個別会談でも目立った成果を得られなかった。13の国・地域と会談したが、日ロ首脳会談では北方領土問題に関して具体的な進展はなし。米トランプ大統領からは農業関税の引き下げを要求され、会談直前には大統領がメディアの取材に対し日米安全保障条約への不満を漏らす場面もあった。
初来日した中国の習近平国家主席との会談では来春に習氏が国賓として来日することで合意。尖閣諸島をめぐる問題を機に悪化していた日中関係融和の兆しを感じさせたが、それも米中対立が激化するなか、日本を引きつけておきたいとの中国側の思惑があると指摘される。本格的な関係改善につなげるにはまだ時間がかかるだろう。
報じられた頻度は、G20 < 米朝首脳会談
一方、元徴用工訴訟をめぐって対立が深まる韓国の文在寅大統領とは立ち話すらしなかった。今回、文大統領の冷遇ぶりが話題となっており、韓国との対立は激化する一方だ。
G20サミットをめぐって国内メディアはさまざまな話題を報じたが、どちらかというとサミットより米中をはじめとする二国間協議の内容を報じる記事が目立った。とどめとなったのは6月30日に行われた米朝首脳会談。特にテレビではトランプ大統領が金正恩委員長に連れだって現職の米国大統領として初めて北朝鮮に足を踏み入れた場面が繰り返し流された。世界中で成果の薄いG20より注目されたのは明白だ。
G20は例年、先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の後に開催されるが、首相が今回、8月のG7に先駆けての開催にこだわった背景には参院選が透けて見える。内政で「2000万円不足問題」などへの批判が渦巻くなか、得意の外交で成果をアピールする狙いだったのだろう。空振りに終わった首相が参院選で何をアピールするのか。国民の熱い視線がこれから注がれることとなる。