環境省が推す、世界初!「木製のスーパーカー」@東京モーターショー

2019.11.5

技術・科学

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環境省が推す、世界初!「木製のスーパーカー」@東京モーターショー

今回の東京モーターショー(TMS)では、何といっても環境省の存在感が印象的。TMSと言えば、道路行政を司る国交省と、日本経済の牽引役・自動車業界の監督官庁である経産省・資源エネルギー庁が、霞が関界隈から出展する常連で、しかも目立たない地味なブース、と相場が決まっていた。

しかし、近年のSDGsの高まりとも関係するのだろうか、前回(2017年)から経産省・資源エネ庁による出展はなくなり、一方これに反比例するかのように、今回環境省が青海展示棟Bホールに巨大ブースを構えた。

環境省の推しは「萌えキャラ」と「スーパーカー」

「(巨大ブースは)もちろん環境省としては初めてで、クルマを造ったのも初めてです」と、ブースに居合わせた同省の担当者は少々興奮気味。

お役所的な堅苦しさや地味・生真面目さを、ブース内から可能な限り排除しようという意図が感じられる。その典型が、「萌えキャラ」と「スーパーカー」を前面に配した“味付け”だ。

前者の萌えキャラは「君野イマ」と「君野ミライ」という2人の女子高生。同省が推進する脱炭素プロジェクト「COOL CHOICE」のイメージキャラクターで、実はすでに数年前にはデビューしていたようで、「ごく一部の方々には知られていましたが、知名度はイマイチ。今回のTMSでメジャーにしたいと考えています」と、ブース担当者は意気込む。

本題は後者のスーパーカーで、ブースの中央にカッコいい2車種が鎮座。「NCV」(ナノセルロースヴィークル)と「AGV」(オールGaNヴィークル)だ。もう少し詳しく説明しよう。

NCVはいわば“木材でできたクルマ”、そしてAGVは電導特性に優れた次世代半導体材料のGaN(窒化ガリウム)を、インバーター(直流を交流に換える電源回路)など電装周りに活用、エネルギー効率を高めたクルマ。どちらも“ミライのクルマ”を目指したコンセプトカーだ。

「NCV(ナノセルロースヴィークル)」は、京都大学を代表機関とした産学官合わせて22の機関で構成されるコンソーシアムで研究開発された。
「AGV(オールGaNヴィークル)」は、2014年ノーベル物理学賞を受賞した天野浩名古屋大教授らのグループが開発。

今回注目すべきなのはNCVだろう。スーパーカーの代名詞ともいうべきランボルギーニ・カウンタックを彷彿させるような、あの頭上にはね上げるガルウィングドアが何とも迫力満点で、「ホントに環境省が造ったクルマなの? バブリーで燃費も悪そうだなあ」と、一見その時代錯誤ぶりを疑いたくもなる。ところが、環境省の担当者からは、思いもよらない言葉が飛び出した。

「『カッコいいクルマを展示しているぞ』という夢が大事です。そしてそこから『木でできているんだ』へと進み、『環境省』へとつなげていく、という戦略なのです」

木材が原料の次世代素材を自動車産業へアピール

確かに、今回のTMSでは、「地球にやさしい」をことさら強調するのはいいのだが、反面「運転する楽しさ」は感じ難い。各メーカーとも四角い箱型の完全自動EV(電気自動車)のコンセプトカーで鎬を削るものの、「カッコいいか?」と問われると、文字通り疑問符がついてしまう。

そんななか、民間の自動車メーカーではなく、お堅いイメージの官庁が“カッコよさ”にこだわり一石を投じたのだから、ある意味驚きだろう。

肝心のNCVについてだが、前述したとおりボディなどに木材を使う点がエコ。もちろんそのまま使うのではなく、CNF(セルロース・ナノファイバー)という次世代素材に変身させて利用する点がミソ。木材や紙・パルプの主成分はセルロースという炭水化物(食物繊維)だが、これを直径3~50nm(ナノメートル。10のマイナス9乗メートル=1000分の1ミクロン)、アスペクト比(長さ/幅)100以上の超微細な繊維にしたものがCNFである。

鋼鉄に比べて重さは5分の1で強度は5倍という驚異的特性がウリで、加えて原料は木材なので、国土の約7が森林の日本にとって国内自給が可能という点も見逃せないポイント。もちろん部材として使用する際にはさまざまな難燃処理が施されるので“木材=燃えやすい”ということはない。

つまりCNFをクルマの部材としてふんだんに使えば大幅な軽量化が可能で、CO2削減に直結、高い信頼性が必須の自動車産業が採用すれば、他分野での利用も進むはずで、量産効果で価格も下がり、さらに普及に拍車がかかる、という好循環を環境省は期待する。

東京モーターショーの環境省の大きなブース。

コスト問題が解消すれば爆発的普及も?

NCVの開発は環境省による委託研究事業として2016年10月から本格スタート。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の技術を叩き台にして、京都大学を中心に東京大学やデンソー、豊田紡織、トヨタ自動車東日本、宇部興産、マクセル、産業技術総合研究所(産総研)など22の大学・企業・組織が結集して開発に取り組み、3年目にして今回、晴れて完成車のお披露目へと漕ぎつけた。もちろん世界初の快挙で、2020年に標準体格の規格に比べ10%以上の軽量化を目指すという。

ボンネット(CFN100%材)をはじめ、ドア、ガラス、スポイラー、ホイールフィン(それぞれ樹脂に混ぜ込み)などに活用、既存の各種プラスチックに10~15%CNFを練り込んだ「CNF複合材」として内装材、外装材に使用する一方、金属素材の代替としてまずは外板向けに活用、その可能性を見極めながら徐々により難易度の高いボディやエンジン構造部材への応用へとハードルを上げていく計画だ。

「CO2削減ももちろんですが、未利用材の有効活用としても注目でしょう。過疎化や後継者不足による山林の荒廃が社会問題化していますが、木材の巨大な有効活用先が出現し、国内の木材の需要がアップ、という好循環が生まれれば、国内の森林保全にもプラスとなり、治水や国土保全、災害防止など、広い意味での国家安全保障にも極めて有益」(前出担当者)

ここまで聞くとCNFは良いことづくめだが、問題はコスト。現状では1kg当たり3000~1万円と非常に高価で、仮に重量1tのクルマを全部CNFで造ったとしたら、部材費だけで1000万円になる計算だけに、一般に普及するのはまだまだ先の話。

要はどれだけコストダウンが図れるかがカギだが、「日本が開発・量産化した炭素繊維は、今や世界の軍用機の機体などに使用されている。同様に世界の軍事関係者がすでにこのCNFに触手を伸ばし始めている」(事情通)
一方、昨今憂慮されているマイクロプラスチックの問題に関してだが、2019年8月産総研はCNF(正確にはアセチル化リグノCNF)には生分解性があることを確認、既存のプラスチックに比べ環境負荷は低いようである。

「夢や憧れがないと、誰も本気で取り組めないでしょ」と、担当者はNCVに思いを寄せる。木材由来「地球にやさしい」SDGs素材を引っ提げ、展示会の王者・TMSで存在感を高める環境省。さぞや小泉進次郎・環境大臣もご満悦なのでは?