8割の国立大学が活用せず 問題の多い英語民間試験は誰のために?

2019.12.03

社会

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京都大学も2021年春の一般選抜では「活用しない」と公表 写真:松岡幸月/アフロ

大学入試のセンター試験に代わって2020年度から導入される大学入学共通テストをめぐり、11月に政府は「英検」など英語民間試験の活用を延期すると発表。これを受けて11月29日までに、国立大学の8割が英語民間試験の活用を見送ると表明。受験生には戸惑いが広がっている。かねて問題が多いと指摘されていた英語民間試験はなぜ導入されることとなり、なぜ延期されることとなったのか。

共通一次からセンター試験、そして共通テストへ

「大学入試センター試験」は、かつての「共通1次試験」に代わり、1990年から約30年にわたって実施されてきた国公立大学受験の共通試験だ。毎年1月13日以降の最初の土日に行われ、受験生が寒空の下、試験に出かける様子は冬の風物詩となっている。

センター試験の最大の特徴はマークシート方式。いくつかの選択肢の中から正解と思う番号を選択し、回答用紙の番号を鉛筆で塗りつぶす仕組みで、機械による読み取りでスピーディーに採点できるようにしている。ただ、効率が良い反面、「知識重視の1点刻みの選抜になっている」などと批判も根強かった。“一発勝負”のペーパー試験で人生が左右されてしまうことへの疑問もある。

安倍晋三首相の肝いりで発足した「教育再生実行会議」 は2013年10月に、センター試験を廃止して“基礎レベル”と“発展レベル”の2種類の「達成度テスト」を創設すべきだと提言。試験は年間で複数回実施することとし、1点刻みではなく、段階的に評価することを求めた。提言には外部検定試験の活用も盛り込まれた。

提言を受けて政府は「基礎レベルの達成度テスト」として、学研系の「基礎力測定診断」などを認定し、推薦やAO試験 に活用することを決定。「発展レベルの達成度テスト」としてセンター試験を廃止し、2021年から「大学入学共通テスト」 を導入すると決めた。

その際、英語においては現状、日本の英語教育の質が低いという懸念を踏まえ、4つの技能(読む・聞く・書く・話す)を図るために民間のノウハウを活用することとした。具体的には「英検」や「TOEIC」、「TOEFL」など7つの試験が認定し、4~12月に受けた2回までの民間試験の成績を大学入試センターが集約し、大学に提供するシステムを作る予定だった。

そもそも公平性が問題視されていた英語試験

しかし、民間試験の活用をめぐっては批判も多かった。その一つが公平性の問題だ。各試験の検定料は6千~2万5千円と開きがあり、家庭の経済事情によっては高額な試験を受けられない可能性がある。また、本番の2回以外に“練習”として試験を繰り返し受けることができるため、裕福な家庭の方が有利になるのではないかと指摘されてきた。

また、7つの試験の中には全都道府県での開催が困難だったり、試験会場が少なかったりするものもあるとみられていた。そのため、住む地域によっては泊まり込みで受験したり、高額な交通費が必要な場合が生じたりし、学生間で有利不利が生まれる可能性が指摘されていた。

共通テストを所管する萩生田光一文部科学相はテレビ番組で、学生の境遇により受験回数に差が出るのを認め「身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負してがんばってもらえば」と発言。これが「教育格差を容認するのか」と批判され、英語の民間試験導入への反発を広げることとなった。萩生田氏は後に発言を撤回し、謝罪したが、時すでに遅し。世論に反発の声が広がり、約1週間後の11月1日、文部科学省は民間試験の導入を2024年度以降に先送りすることを決めた。

活用しないと判断した大学の多さに、「間違ったメッセージになる可能性がある」として理由を大学側に確認する意向を示した萩生田光一文部科学相 写真:つのだよしお/アフロ

批判はほかにもある。やり方も問題も異なる試験を使って、学生の能力を比べることができるのかというのは当初から指摘されてきたことだ。政府はCEFR(セファール)という対照表を使ってランクづけし、比べる仕組みを公表していたが、「無理がある」との声は根強い。

また、試験業者が試験で良い点数をとるための教材を販売することで、利益相反になるのではないかとの批判もあった。試験業者が試験内容を漏らしたり、いい加減な採点がなされたりするのではないとの疑念もあった。試験の延期を発表した11月1日時点で試験会場などの詳細が発表されていないことで、受験生には戸惑いの声もあった。

最終的に萩生田文科省の「身の丈」発言がダメ押しとなったが、あまりにもずさんな対応だったと言わざるを得ない。受験生のことを一番に考えれば、延期は当然である。

8割の国立大学が民間試験を活用しないと発表

政府の延期発表を受けて、各国立大学は来年度の入試で民間試験を活用するかどうか、11月29日までに公表した。これまでは多くの大学が合否判定や受験資格に民間試験を活用するとしていたが、82ある国立大学のうち、8割にあたる66校が民間試験を活用しないと発表。使うのは広島大学や九州工業大学などにとどまった。

京都大学ホームページより。

英語の民間試験導入先送りの影響がその他の科目に及ぶ可能性もある。2021年度から始まる大学入学共通テストでは、従来のセンター試験と同じマークシート方式に加え、国語と数学の記述式問題が導入される。採点は大手教育関連会社の委託されることとなったが、約50万人という膨大な数の受験生の回答を本当に公平に採点することができるのか、疑問は残る。また、採点に携わる企業には正答例や採点基準が事前に渡されるため、情報漏れを心配する声もある。

政府の迷走ぶりから「そもそもセンター試験のままでいいのではないか」という根本論さえ浮上している。肝心なのは学生が受験勉強に振り回され、本質的な学習をできていなかったり、一度のペーパーテストで人生が左右されてしまったりするという現状を変えることである。どうすれば課題を解決することができるか、もう一度立ち止まって冷静に判断するときである。