COP25で「脱炭素」を断言できない、小泉環境大臣の胸の内

2019.12.16

社会

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COP25で「脱炭素」を断言できない、小泉環境大臣の胸の内

写真:ロイター/アフロ

COP25で日本の「脱炭素」を断言できず、国内外から失望の声が上がった小泉進次郎環境大臣。彼が安易に「脱炭素」を口にできなかったのは、本人の立場と日本特有の電力事情による理由があるからか。世界中から厳しい目を向けられている小泉環境大臣の胸の内を推測した。

“環境派”を自負するも具体策ゼロの小泉大臣

2019年12月2日~15日にスペイン・マドリードで開催されたCOP25(第25回気候変動枠組締約国会議)では、小泉進次郎環境大臣の演説に注目が集まった。“環境派”を自負するだけに、「『CO2を大量に排出する石炭火力発電を全廃します』くらいのサプライズもあるのでは」と期待されたからだ。

日本は先進国の中でもとりわけ石炭火力発電に熱心で、しかもその技術を積極的に海外輸出するお国柄。このため特にSDGs(持続可能な開発目標)に敏感なヨーロッパの環境NGOやメディアから批判を浴びているだけに、一打逆転とばかりに“小泉節”炸裂でこうした批判を一気にかわすのでは、との観測も少なくなかった。

だが演説が始まると「ここで日本の石炭政策に関して新しい話題を提示できず残念」「でも、私を含め日本の多くの人々が、さらなる行動が必要だと考えている」などと言い訳じみた内容に終始、「脱石炭火力発電」はおろか「脱炭素」に関する具体的な数値目標もなく、失望した小泉ファンも少なくなかったはずだ。

小泉大臣の対応はある意味正解か

小泉進次郎環境大臣
写真/Tomohiro Ohsumi

だが大局的に考えれば、情や雰囲気に流されて「脱石炭火力」を軽々に口にしなかった小泉大臣は、ある意味正解だと評価すべきだろう。“将来の内閣総理大臣”を意識する政治家として、無責任なコミットメントを控えたのかもしれない。特に国防やエネルギー政策など国家安全保障に直結する事項に関しては、ポピュリズムに走るべきではない。

事実、日本には石炭火力発電を削減できない“お家事情”がある。周知のとおり東日本大震災の影響で、日本は原発の一斉稼働停止に陥り、この穴埋めとして急遽「液化天然ガス(LNG)」と「石炭」の2つの化石燃料に白羽の矢が立った。

天然ガスは化石燃料の中で最もCO2排出量が少ないため、そして石炭はCO2排出量が多いものの、価格が安くて安定供給に優れ、ランニングコストも低くて済むから。本来ならクリーンな天然ガスに一本化するのが理想だが、化石燃料をほぼ100%輸入に頼る日本にとって、特定のエネルギーの一本化や特定の国や地域への過度な依存はアキレス腱となる。要するに天然ガスの価格を恣意的に上げたり、供給元が戦略的に輸出をストップしたりしたらすぐさま代替が効かないからだ。エネルギーによる支配は国際政治の“いろは”で、1973年の「石油ショック」はその最たるものだろう。

ちなみに、2017年度の日本の発電量は1兆560億kwhで、内訳は天然ガス火力40%、石炭火力32%、水力8%、石油火力9%、地熱や太陽光、風力、木質バイオマスなど新エネルギー8%、原子力3%。天然ガスと石炭のツートップで全体の7割強を占めるものの、発電方式を比較的分散させているのが分かるだろう。これが政府の言う“電源のベストミックス”である。

日本が太陽光・風力にシフトできない理由

ところで、電力を語る上でついつい忘れがちなことが2つある。“電気は貯められない”と“日本は電力の孤島”で、これはそのまま、日本が太陽光・風力両発電に軸足を大きく動かせない大きな理由ともなっている。

“電気は貯められない”が常識だったが……

まず“電気は貯められない”件だが、奇しくも先ごろリチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローの吉野 彰氏が2019年ノーベル化学賞を受賞した。そして従来の蓄電池(二次電池)に比べ大容量(高エネルギー密度)で大出力、高速充電・充電効率にも優れ長寿命など、いいことづくめのリチウムイオン電池は、“おてんとう様任せ、風任せ”の太陽光・風力両発電の余剰電力を高効率・低コストで貯蔵する、いわば調整池として、有望視されているわけで、言い換えると、太陽光や風力など天候に左右される再生可能エネルギーは、リチウムイオン電池がない限り、主力電源にはなり得ないのである。産業的に考えれば、EV(電気自動車)の走行距離が伸びたり、​スマホの充電間隔が長くなるよりも、“再生可能エネルギーの電力を貯留できる”方が遥かに重要だ。

ただし目下の問題はリチウムイオン電池の価格で、資源エネルギー庁によれば、2015年度の産業用リチウムイオン電池のコストは1kW当たり36万円。2020年度までに15万円/kW以下に半減するとの試算 もあるが、「これでも実際の導入には二の足を踏んでしまう」との声もあり、リチウムイオン電池が主要電源の貯水池として一般化するのは10年以上先の話、というのが大半の見方だ。

日本は外国と電気を共有できない“電力の孤島”

また、日本が太陽光や風力に踏み切れないもう一つの理由が、日本が“電力の孤島”であることだ。太陽光や風力への大シフトを喧伝、CO2削減を積極アピールする欧州各国を見て、「彼らができるのに日本はなぜできないのか」といぶかしく思う向きも少なくないだろう。

だが地図を見れば分かるとおり、日本は島国で周辺国と送電線(専門用語で「系統線」)をつないで、互いに電力をやり取りしている事実はない。まさに“電力の孤島”で、しかも石油、天然ガス、石炭の自給率はいずれも限りなくゼロに近い状況。

一方、陸続きで他国と国境を接するヨーロッパ各国の場合、フランスやドイツ、イタリア、さらにはアイスランドを除く北欧各国などは昔から送電線を接続し、電気は外国と融通し合うのは常識。こうした感覚は日本にはない。ちなみに日本と同じ島国のイギリスもドーバー海峡に海底ケーブルを敷き対岸のフランスと系統線を結んでいる。しかもヨーロッパ諸国の大半がEU(ヨーロッパ連合)で、かつNATO(北大西洋条約機構)加盟国。つまり隣同士は同盟国で電力が足りないとなれば、周囲の国が助けてくれるという安心感は絶大。日本とは置かれている立場が全く違うのである。

小泉大臣は日本の最新技術をアピールすべきだった

日本には脱炭素をコミットできない理由がいくつかあるものの、“環境派”を自負する小泉大臣だけに、むしろ逆手にとって「日本ではCO2をエネルギー化する研究を推進しています」とアピールすべきだったのでは、との指摘も少なくない。

例えば、2019年3月に東芝が発表した、新触媒を使ってCO2ガスをCO(一酸化炭素)に高効率で変換する技術はその最有力といえる。COは燃料として利用できる他、化学品や医薬品の原料にもなり、2020年代後半の実用化を目指している。またCO2を効率よく回収・貯蔵する「CCS技術」に関しても日本は世界トップクラス。小泉大臣はむしろこうした事例を、お得意の英語力を通じて世界に発信すべきだったのではないだろうか。