実は危うい世界経済 2020年は“最後の宴”か

2019.12.18

経済

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実は危うい世界経済 2020年は“最後の宴”か

写真:ロイター/アフロ

世界の懸念だった米中貿易摩擦は緩和に向かうといわれるなか、アメリカは好景気に沸き、イギリスは本格的なEU離脱に向けて進みはじめた。2020年はアメリカ大統領選や東京オリンピック・パラリンピックもあり、経済的な好材料も揃う。しかし、中国の金融機関が抱える巨大な不良債権など“負のマグマ”は確実にたまり続けている。今のうちに打開策を打つのか、一時の宴に興じるのか。2020年は世界経済の分岐点になるかもしれない。

米中貿易交渉、英EU離脱を超える世界のリスクとは

12月13日、米中両国は貿易交渉の“第一段階の合意”に達した。報復関税をかけあう貿易戦争は土壇場で休戦状態となり、世界の株価は急騰。日経平均株価も2万4000円の大台を突破した。同時にイギリスのEU離脱が総選挙の結果、ボリス・ジョンソン首相が率いる保守党が過半数を握り、1月末までに離脱する可能性が高くなった。世界経済の懸念材料であった米中、英の問題がひとまず解消に向けて動き出したことは素直に好感すべきだろう。

しかし、2020年の世界経済も、この2つの問題に振り回され続けることは避けられない。米中の貿易交渉は一時的な休戦に過ぎず、アメリカの大統領選を控えて再び激化する可能性は残る。イギリスのEU離脱もEUとの具体的な離脱交渉が進むにつれて難しい局面も予想される。その過程でスコットランド独立が現実味を帯びるかもしれない。

だが、この2つの懸念材料は予測可能なリスクにとどまる。「事前にリスクと認識されていることで対応が可能」(中央省庁幹部)というわけだ。むしろ、予測が不可能もしくは予測を超えるリスクは、やはり中国経済の暴落であろう。「中国経済が抱える負債は全体像が見えないだけに、破綻すれば測りきれない影響が世界に及ぶ」(同)ことは避けられない。

バブル崩壊時の2倍の不良債権

予兆はすでに散見している。中国企業が発行した社債の債務不履行が増え続けているのだ。習近平指導部は2016年から国営企業を中心として過剰生産能力の削減にメスを入れ、次いで2018年からは過剰債務の圧縮(デレバレッジ)による企業金融の引き締めに入っている。いずれもバブルを計画的に弾けさせる政策と言え、その過程で債務不履行は増加した。

「漸次ガス抜きする限りにおいては、危機は未然に防げるが、そこに米中経済摩擦という不測の事態が加わり、債務不履行に歯止めがかからなくなりつつある」(中国ウォッチャー)とされる。すでに中国の金融機関が抱える不良債権額は公式な統計では貸出資産の5%弱にあたる90兆円とされているが、実態は200兆円を超えるとも試算されている。

1990年代~2000年代初頭にかけての金融危機で日本の金融機関が処理した不良債権の総額は約100兆円。その2倍ものブラックホールが口を開けて世界経済を飲み込もうとしているようなものだ。

好調な米経済に忍び寄る影

反面、アメリカ経済は、景気拡大が史上最長の11年におよび、失業率は3.6%と約50年ぶりの低水準を維持している。株価も絶好調で、ジェローム・パウエルFRB議長はアメリカ経済を「スターエコノミー」とまで表現している。

しかし、危機は絶好調の足元から忍び寄る。変調は最もリスクに敏感なアメリカの低格付け社債に見て取れる。ここ数年、カネ余りで運用先に困った投資マネーが、格付けがトリプルB格以下の低格付け債に流れ込み、2019年の低格付け債の発行残高は50兆円を超えると見込まれている。過去10年で2倍に膨らんだ格好だ。

しかし、その低格付け社債の価格が急落し始めている。ソフトバンクグループのビジョンファンドが投資する「ウィーカンパニー」の社債の価格急落はその象徴で、元本の7割まで下落している。また、巨額な米住宅ローン市場は、すでにリーマン・ショック直前の市場規模を超えた。米経済もバブルであることに変わりはなく、破裂するリスクをはらんでいる。

本格的な危機はその先に

とはいえ2020年は、アメリカは大統領選挙の年であり、バブルが炸裂する確率は低いと見込まれる。同様に、日本も東京オリンピック・パラリンピックの年であり、経済のセンチメント(市場心理)が急激に悪化することはないのではないか。だが、その分、破綻のリスクは先送りされ、“負のマグマ”は膨らみ続けることになる。

日本政府もこうした世界経済の変調に敏感に備えている。一般会計予算ベースで102兆円に及ぶ過去最高額の2020年度予算案が組まれたことは、世界経済の不安と無縁ではない。10月からの消費増税や世界経済の下方リスクに備えた景気対策として1.8兆円が投じられる見通しだ。

2020年は、危うい均衡に支えられた世界経済の“最後の宴”になるかもしれない。本格的な危機はその先に待っている。