“イギリスのトランプ”ジョンソン首相の奇策的中 3年半越しでEU離脱へ

2019.12.18

政治

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“イギリスのトランプ”ジョンソン首相の奇策的中 3年半越しでEU離脱へ

写真:ロイター/アフロ

イギリスの下院総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる与党・保守党が大勝し、2020年1月末に欧州連合(EU)から離脱することが確実となった。少数与党で“決められない政治”に陥っていたジョンソン首相が用いたのは、解散権の制約を開放するという奇策。この事例は日本における解散権の議論にも参考となりそうだ。

3年半にわたる英政治の停滞に決着

イギリスの下院は定数650。改選前の保守党の議席数 は298で過半数を割り込んでいたが、今回の獲得議席数は365で、過半数ラインの326を約30議席上回った。保守党の大勝は1987年のサッチャー政権以来。EU離脱をめぐって3年半にわたり政治が停滞するなか、「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」疲れが広がる国民の不満をうまく取り込んだ。

一方、最大野党の労働党は243から203に大幅減。労働党はEU残留派が多いが、党内を残留でまとめきれず、戦後最少の議席にとどまった。結果判明後、労働党のジェレミー・コービン党首は辞意を表明した。ともにEUからの離脱阻止を掲げたスコットランド民族党は35から48に議席を増やし、自由民主党は21から11に減らした。

得票率でみると労働党など野党各党の合計で保守党を上回ったが、イギリスの選挙制度は完全な小選挙区制。野党票が分散するなか、EU離脱派の多い地域で確実に議席を確保した。保守党は労働党の地盤であるイングランド中・北部でも議席を伸ばし、労働党の敗北につながった。

勝利を受け、ジョンソン首相は「1月31日までに欧州連合(EU)から必ず離脱する」と宣言。年内にも離脱に向けた法案を議会に提出し、来年1月末に離脱する考えを示した。保守党が単独過半数を獲得したため、法案の成立は確実な情勢。ただ、その場合も2020年末までは移行期間となり、EUとの経済的関係は維持される。

「○月○日に総選挙を実施」という特例法案なら過半数でOK

そもそも、イギリスがEU離脱を決めたのは2016年6月。国民投票で51.89%が離脱を支持、48.11%が残留を支持し、僅差でEU離脱が決まった。

残留派だったデーヴィッド・キャメロン首相が辞任し、テリーザ・メイ首相が引き継いだが、そこから政治の迷走が始まる。2017年に下院を解散して総選挙に打って出たが、議席を減らして単独過半数を下回った。北アイルランドを地盤とする北アイルランド民主統一党の閣外協力を得て何とか政権の座は維持したが、政権基盤が不安定化。EUととりまとめた協定案の国会採決では保守党からも多数の造反者が出て大差で否決されるなど、EU離脱は行き詰った。

メイ首相の後任として2019年7月、表舞台に立ったのが元ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏だ。過激な発言や行動から“イギリスのトランプ”とも称されるジョンソン氏はEUからの「早期離脱」を掲げ、内閣の主要ポストにはEU離脱強硬派をそろえた。当初は「何が何でも10月に離脱する」と主張したが、少数与党のため野党の反対に阻まれて頓挫。そこで、与党単独過半数の獲得に向け、総選挙の実施タイミングをうかがっていた。

ジョンソン首相と本家トランプ米大統領。ルックスも似てる……?

そこで壁となったのが「解散権」である。イギリスでも日本と同様に首相に解散権があるとされるが、2011年にその解散権を縛る「議会任期固定法」が定められた。前年の総選挙で単独過半数を確保できなかった保守党のキャメロン首相が、自由民主党との連立を組む条件として受け入れたものだ。下院の任期は5年だが、新たな法律により、任期満了前に解散するには下院の3分の2以上の賛成を集めるか、内閣不信任案の可決が必要となった。

2017年にメイ首相が総選挙を実施した際は、野党の賛成を取り付けて下院の3分の2の賛成で解散にこぎつけた。ジョンソン氏も3回にわたって解散動議を提出したが、野党の反対によりいずれも否決。そこで考え出したのが「2019年12月12日に総選挙を実施する」という特例法案の提出だ。解散動議には3分の2の賛成が必要だが、法案の可決なら過半数の賛成で足りる。ジョンソン氏は自由民主党の賛成を取り付けた上で保守党内を締め付け、特例法案を可決させた。

かなり強引な政治手法だが、政治の停滞に嫌気が差した世論が後押しした。

日本の総選挙は与党が有利なタイミングでできる

首相の解散権をめぐっては、日本でも制約すべきだとの声がある。日本国憲法 は第69条で「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と定めるほか、第7条で天皇の国事行為の一つとして、「内閣の助言と承認により衆議院を解散することができる」と定めているだけ。しかし、実際にはこの第7条により、時の首相がいつでも自由に解散できることとされている。

衆議院議員の任期は4年だが、任期満了となったのは過去に1回だけ(第33回:田中角栄首相-第34回:三木武夫首相)。最短 は吉田茂首相の暴言がきっかけとなった「バカヤロー解散」の5カ月(第25-26回)で、平均では約2年半おきに解散・総選挙が行われている。安倍晋三首相も2012年に再登板してから、すでに2回も解散権を発動している。首相の解散権には「与党が有利なタイミングでできる」とか「小刻みな解散は税金の無駄遣い」等の批判が付きまとう。一回の衆院選の費用は約600億円といわれている。

イギリスのジョンソン首相は「国が決断を必要としているときにマヒ状態になる」として、議会任期固定法の廃止を訴えている。確かに今回はEU離脱の実現という“大義”があったが、日本のように無制限で解散できるようにすればいいというものでもないだろう。イギリスの動きを見ながら、日本も民意が政治にきちんと伝わる方法を考えていくべきだ。