1年後の番付も予測不能! 令和の大相撲は若手・超若手群雄割拠の時代へ

2019.12.23

社会

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小結以下で初めて年間最多勝をとった朝乃山 写真:長田洋平/アフロスポーツ

横綱・稀勢の里の引退、貴景勝の大関昇進からの陥落、そして大関復帰、貴乃花親方の「引退」、トランプ米大統領の夏場所千秋楽観戦、十両・貴ノ富士の2度の暴行問題による引退。物議を醸すトピックも多く見られた2019年の大相撲ではあるが、小結・朝乃山や関脇・御嶽海の優勝もあり世代交代の足がかりになる一年という評価をする人も多い。出場すれば強さを見せる横綱・白鵬ではあるが、休場も増えてきた。そして大関が3人陥落(延べ4回)するという史上初の出来事があったことも影響しているのではないかと思う。

 

史上稀に見る状況が多発した2019年を振り返り、そこから将来の大相撲を予想してみたい。

関脇・小結の勝率が史上初めて大関を上回った

年間90日開催の大相撲で、小結・朝乃山が最多勝を獲得した。夏場所での優勝は決してフロック(まぐれ)ではなく、九州場所では11勝をマークして小結以下で初の年間最多勝となったように、上位総当たりの地位でも得意の形になれば強さを見せる。2020年初場所での大関獲りは明言されなかったが、成績次第では大阪場所(3月)が大きなチャンスとなることが期待される。

だが、2019年の朝乃山の年間勝利数は[55]で史上最少だ。

1場所辺りおよそ9.1勝というのが2019年の年間最多勝のラインだったというのは見逃せない事実である。そしてそれを競った相手も、横綱や大関ではない小結・阿炎と御嶽海だった。年間最多勝をこのように関脇や小結が争ったという事例は極めて稀だ。言い換えると、横綱や大関ではなくその下の地位にいる関脇や小結が年間通して力を発揮した一年だったと言えるのではないだろうか。

そこで調べてみると、面白いことが判明した。関脇・小結の勝率が、史上初めて大関を上回っていたのである。

1場所辺り10勝5敗がボーダーライン

大関というのは目安として3場所で33勝しなければ昇進できない地位である。1場所平均11勝というラインを超えてくる力士はさすがに強い。関脇を相手に5割5分、小結を相手に6割、平幕を相手に7割5分という成績を残せる力士はほかとは違うのだが、今年はどうも様子が違うようであった。

関脇・小結の勝率が高い年はこれまでもあり今年は僅差の8位に相当するのだが、他の年の傾向はどうだったのだろうか。

例えば1985年を例に取ると、関脇・小結での成績が40勝20敗の大乃国(0.667)と49勝23敗3休(0.681)の北尾が大関に昇進している。1993年は58勝32敗(0.664)の武蔵丸と41勝19敗(0.683)の貴ノ浪がやはり大関昇進。さらに2011年には50勝25敗(0.667)の稀勢の里と44勝16敗(0.733)の琴奨菊がやはり大関昇進している。そのほか1981年には琴風(0.667)が、2000年には魁皇(0.667)が好成績を挙げて大関に昇進している。

彼らの成績はいずれも1場所辺りの成績になおすと10勝5敗に相当する成績を超えている。三役として成績が際立って高い力士がその年の後半で大関を決めているために、関脇・小結の勝率が上がるという構図である。

つまり何が言いたいかというと、大抵、関脇・小結の勝率が高い年では次代を担う複数の力士が存在し、昇進の足がかりとなる活躍を見せているということである。この傾向を踏まえて考えると、2019年は関脇・小結の成績が高かったのだから、ここで好成績を残した力士が白鵬以降の大相撲を支えていくことが予想されるわけだ。

2019年の関脇・小結の勝率を見てみると…

それでは2019年の関脇・小結の好成績者を見てみよう。

大関獲りに成功し、ケガで陥落後に優勝決定戦まで駒を進めた貴景勝は、33勝12敗(0.733)と非常に好成績なのは間違いないが、3場所しか在籍していないため関脇・小結全体の成績を引き上げるには至っていない。

秋場所で2度目の優勝を飾った御嶽海はといえば51勝36敗3休(0.586)で、1場所平均にすると9勝にも満たない。これまでの次代を担う力士が1場所平均10勝というラインを超えてきたことを考えると少々物足りないこともまた事実。

ほかの力士を見てみると、阿炎(0.578)、前頭四枚目・玉鷲(0.511)、小結・遠藤( 0.500)、小結・北勝富士(0.467)と続くが、阿炎と玉鷲は在位が3場所、遠藤と北勝富士は2場所と、三役を務めた場所数が相対的に少ない。そして勝率を見ても過去の大関昇進者の水準には満たない。個人的には長きにわたって大関候補として期待を受ける御嶽海と同じ水準の勝率を残した阿炎は想像以上に期待できる力士だったというのは発見ではあったのだが……。

現状では過去の数字を照らし合わせると、明確に大関候補といえる力士は居ない。1場所とはいえ11勝4敗(0.733)という成績を残した朝乃山の傑出度に期待を寄せるのは当然のことなのかもしれない。

若手(?)が上位不在のチャンスを生かせなかった

そして、傑出した関脇・小結が居なかったことに加えてもう一つのデータがある。横綱・大関の休場率が共に初めて3割を超えたのである。

休場しても地位の落ちることがない横綱の休場率が3割を超えることは珍しいことではないが、今年特筆すべきなのは大関の休場が大変多かったということだ。過去の数字で見るとほぼ2割以下で推移しており、1割以下という年も6割を超えている。1場所の休場が陥落の危機を意味する大関がこれだけ休場が多いのだ。どれだけ肉体的に追い込まれていたかがわかるだろう。

言い換えると、これだけ横綱・大関が休んでいるなかで、さらには大関の勝率が歴史的に低いなかで、関脇・小結に目を向けてもまだ突き抜けられる力士は現れていないという史上稀に見る状況なのである。裏を返すとこれだけ上位が居ないのであればもっと良い成績が残せるチャンスなのに、誰も突き抜けられなかった一年だったといえるのかもしれない。

2020年に遠藤は30歳、北勝富士と御嶽海は28歳になる。次世代どころか中堅からベテランへと移る年齢だ。前頭筆頭・大栄翔は27歳、阿炎と朝乃山26歳である。“遅咲き”といわれている千代の富士が横綱になったのが26歳。つまり、彼らにとってもはや残された猶予はない。2019年にチャンスをつかみきれなかった力士たちは生き残りを賭けて2020年に熾烈な生存競争に身を投じることになる。

超若手力士の台頭、若手群雄割拠の時代へ

そして、さらに異なる地殻変動を示すデータも出ている。有望な若手力士の早期入門というトレンドである。

現在、関脇・小結に顔を出している力士の多くが学生相撲を経験して大相撲の世界に入ってきている。御嶽海や朝乃山、北勝富士がそれに当たる。昔とは違い、中学や高校で際立った成績を残してもここ20年は大学を経由してプロ入りする力士が増加した。また、大学を卒業後にプロという進路を目指さぬ者も居る。

例えば中学横綱については1986年世代の栃煌山を最後に10年プロ入りしていないし、高校横綱は1988年世代の栃乃若以降、10年でプロ入りしたのは2名(北勝富士、木崎海)だ。現在33歳の世代から21歳の世代までの傾向として、才能ある力士は18歳から22歳という一番伸びる時期に学生相撲を経験しているのである。

だが、その傾向が遂に変化した。

2019年は中学横綱の吉井、高校横綱の北の若という2人のタイトル保持者がプロ入りした。吉井は貴乃花や稀勢の里に比肩する中卒力士としては最速ペースで番付を駆け上がっているし、北の若は初場所を幕下で迎える。すでにその潜在能力を発揮し始めていると言ってもいいだろう。

そしてその傾向は2人に限ったことではない。中卒1年目の力士の勝率が、2000年以降でダントツの1位だったのである。

2019年入門の中卒1年目の力士の勝率は、0.512。2位の2012年目ですら0.471、3位の2018年が0.458。ここまで高い勝率を残している世代はほかには無い。念のため世代のトップを走る吉井の成績を除いても5割ちょうどだったことから、誰かに依存した好成績ではないことが証明される形となった。

2020年は、次代の大相撲を担うであろう関脇・小結にとっては勝負の1年だ。だが彼らが仮に飛躍したとしても、さらに次の時代はもう動き始めている。そして、白鵬は休場しながらもまだ頂点に君臨し、彼らが地位を脅かすのを待っている。これだけ時代が動く大相撲は珍しい。1年後の番付も予測できない状況なのだ。まずは、初場所から目が離せない。