新型コロナの法整備で見えてきた与党の思惑、のんびり野党

2020.03.05

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写真:つのだよしお/アフロ

安倍晋三首相は4日、国会内で野党5党の党首と個別に会談し、新型コロナウイルス対策に向けた法整備に協力を求めた。立憲民主党の枝野幸男代表らは審議に協力する姿勢を示し、これから改正案の作成と審議が本格化する。ようやく国会も新型コロナウイルス対策に乗り出す格好だが、今さら感は否めない。与野党ともにその対応には疑問符がつく。

新型インフルエンザ特措法改正で「緊急事態宣言」可能に

首相は2012年に制定した新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正し、同法の適用対象に新型コロナウイルス感染症を加える方針を説明。改正案の早期成立に協力するよう各党に要請した。政府は改正案を10日に閣議決定して国会に提出する予定で、与党は13日にも成立させたい考えだ。

新型インフル対策特別措置法は政府の対策本部長である首相が期間と区域を定めて「緊急事態宣言」をすることができるよう定めている。宣言後は対象地域の都道府県知事が必要に応じて住民への外出自粛要請や、学校、映画館など人が集まる施設の使用停止やイベント開催停止の「要請」もしくはより強制力の高い「指示」、住民に対する予防接種の実施などをできるようになる。

医薬品や食品など緊急物資の売り渡し要請や強制収用、緊急物資の保管を命じることもでき、命令に応じない場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるなど、その権限は非常に大きい。国民の自由と権利が制限される可能性があるため、同法では「制限は必要最小限のものでなければならない」と規定している。実際に法律の施行後、緊急事態宣言が出されたことはない。

改正後に緊急事態宣言でできること

・住民への外出自粛要請
・学校、映画館などの施設の利用停止
・イベント開催停止要請、指示
・住民に対する予防接種の実施
・緊急物資の運送要請や指示
・生活関連物資等の価格の安定
・運送会社への運送要請、指示など

法改正せずとも現行法で対応できたのでは?

ただ、このタイミングでの法律改正について、いくつか疑問がわく。

1つは現行法でも対応できるのではないかという点。特措法の対象となる新型インフルエンザ等とは(1)新型インフルエンザ(2)再興型インフルエンザ(3)新感染症――の3つ。立憲民主党国民民主党は新型コロナウイルス感染症が(3)の新感染症に該当するとして「現行法の対象となる」としているが、首相は「原因となる病原体が特定されていることから、現行法に適用させるのは困難」と反論する。

少し細かいが、法律にある「新感染症」とは「人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」のこと。ある省庁出身の国会議員は「新型コロナウイルスも適用できるはず」と首をかしげる。

これまで強引な法解釈を繰り返してきた安倍政権だったら容易にその壁は乗り越えられそうだが、なぜ法律をわざわざ改正するのか。永田町では「なんでもっと早く適用しなかったのだとの批判を避けるため、法改正に踏み切った」「民主党政権時代にできた法律を使い、野党の手柄にしたくなかったのでは」との声が上がる。

法改正は改憲への前振りか

2つ目は緊急事態宣言が出されなくても対応できるのではないかという疑問だ。安倍首相は2月27日、唐突に全国の小中高校などの一斉休校を要請。ほとんどの自治体が要請に応じ、3月中は大多数の学校が休校となっている。

それに先立ち、感染者が多く出ている北海道の鈴木直道知事は2月26日に道内すべての小中学校などに休校するよう要請。同28日には「緊急事態」を宣言し、道民らに外出を自粛するよう求めた。安倍首相は北海道の緊急事態宣言を受け、国でマスクを買い取り、道民に配布する方針を提示。つまり、新型インフル対策特措法によって緊急事態宣言をしなくても、同法に定める措置はできるのではないかとの疑問が出る。

一部では法改正について「政治的なパフォーマンス」とか「憲法改正の前振り」などと批判する声もある。安倍首相は就任以来、憲法改正に意欲を示しているが、自民党の改憲案には「緊急事態条項」の創設が盛り込まれている。首相の側近である下村博文選対委員長は今回の新型コロナウイルス騒動を受けて「(改憲)議論のきっかけにすべきではないか」と話しており、自民党内には改憲議論の促進につながることを期待する声が出ている。首相にも法改正の国会審議を通じて「緊急事態条項」の必要性をアピールし、改憲への世論の理解を得るきっかけにしたいという狙いがあるかもしれない。

与野党ともに危機感の見えない対応

3つ目は野党の反応への疑問だ。立憲民主党の枝野代表は首相の要請に「審議には協力する」と応じたそうだが、何を今さら言っているのか。中国で感染が一気に拡大した後、国内初の感染者が見つかったのは1月16日。その後、2月初旬から始まった衆院予算委員会で、野党は相変わらず「桜を見る会」や統合型リゾート(IR)を巡る収賄疑惑などについて追及を続けてきた。その間、首相や厚生労働相などは国会に張り付け。新型コロナウイルス騒動の対応遅れにつながった可能性は十分にある。

2020年度予算案の審議が重要でないとは言わないが、何時間審議しても1円たりとも動かないのが予算審議。審議時間を短くしたり、副大臣や政務官による答弁を認めたりして、閣僚に新型コロナウイルス対策に専念させるという選択肢もあったのではないか。批判だけ、政府の邪魔をするだけではいつまでたっても野党の支持率は上がらない。

与野党ともに、本気で新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める気があるのか。危機感の見えない政治家に、多くの国民は冷たい視線を投げかけている。