ポストコロナ時代に第二次世界恐慌は発生するか?

2020.5.12

社会

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ポストコロナ時代に第二次世界恐慌は発生するか?

国際通貨基金(IMF)は4月9日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年の世界経済の成長率が“急激なマイナス”となり、1930年代の世界恐慌以降で最悪の経済危機に直面するとの見通しを示した。「世界恐慌」は、1929年に米国での株価大暴落で始まった世界的な経済危機で、税収や所得の減少、失業率の上昇などが同時多発的に各国経済を襲った大不況だ。欧米主要国は、世界恐慌による影響を少なくするためブロック経済政策を採用し、後にそれが第二次世界大戦を誘発したとも言われている。今回のパンデミックによって同じことが再び起こるのか……これについては大きな経済被害が予想されるものの、現在、各国での被害規模がどの程度になるのかは分からない。しかし、今回の影響は、中長期的にも極めて怖いことになるかもしれない。国際機関や専門家らは警鐘している。

世界の労働人口の2割は日収3ドル以下

国際労働機関(ILO)はコロナが猛威を振るう直前、世界の労働環境に関する最新の報告書を発表した。それによると、世界経済が減速する中、2019年の世界全体での失業者数は1億8800万人(失業率は5.4%)に上り、十分な労働時間を与えられない人、仕事を見つけられない人を合算すると世界で4億7000万人あまりに及ぶという。

また、世界の労働人口の2割(約6億3000万人)の一日収入は3ドル以下で、15歳から24歳の失業者、教育・職業訓練を受けていない者は世界全体の22%を占めるとされ、若者の豊かな暮らしや安定的な雇用がいっそう難しくなってきているとILOは警告したのだ。

そして、ILOが指摘するように、経済的な不満を持つ若者たちの不満は、2019年、各国から怒りの声として激しく見られた。イランでは、2019年11月中旬以降、政府によるガソリン価格の50%値上げ決定に端を発し、各地で若者らによる反政府デモが激化。抗議デモは首都テヘランを中心に各地に広がり、デモ隊は各地のガソリンスタンドや銀行などを次々と襲撃し、その一部は治安当局と激しく衝突するなどし、これまでの死者は300人以上、1000人以上が逮捕されたともいわれる。

南米チリでも2019年10月下旬以降、政府による地下鉄賃上げ決定に反対する若者らの抗議デモが首都サンティアゴをはじめ各地に拡大した。若者の一部は略奪行為や建物を放火し、治安当局と衝突するなどした。1990年の民政復帰以来、最悪の暴動になっており、去年11月下旬時点で、死者は少なくとも26人、負傷者は1万3500人以上に上った。

こういった経済的な危機を訴える若者の姿は、他にもフランスやイラク、レバノンなど各国で日々目撃された。若者たちは、「大学も出たのになぜ俺の待遇は低いんだ?」、「同じ学歴なのになぜ友人は裕福で俺はそうじゃないんだ」のような不満、格差から生じる劣等感を強く感じでいる。

しかし、これは上述したように、新型コロナウイルスが世界的に蔓延する以前の警告である。要は、新型コロナウイルスはILOの指摘にさらなる拍車をかける危険性があるのだ。

コロナ影響で新たに5億人が貧困に

オーストラリア国立大学やキングズカレッジロンドンなどの研究チームは4月、世界で感染が拡大する新型コロナウイルスの影響で、新たに途上国を中心に約5億人が貧困に陥る可能性があると警告した。同研究チームは、「経済危機」の深刻さはいずれ「健康危機」のそれを上回るとも指摘しており、ポストコロナ時代における世界経済の行方を強く懸念している。

国連の世界食糧計画(WFP)なども4月、共同で「食料危機に関するグローバル報告書」を公開した。同報告書では、すでに紛争や飢饉により食糧不足にあえぐ人が世界で1億3000万人いるが、現在の新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンや不況の影響で倍増し、今年末までに2億6500万人に増加すると警告している。

今後、世界人口は、現在の77億人から、30年後には97億人と言われいずれは100億人を超える。現在でも人口の半数が25歳以下という国も少なくなく、如何に若者の人口増加に見合う分の安定的雇用を創出するかが重要となる。しかし、今回のコロナ危機は、そういった流れを大きく逆流させる恐れがある。

前回執筆した「ポストコロナ時代の大国間覇権」でも指摘したように、ポストコロナ時代では、これまで以上に米中を中心に大国間の競争が激しくなるだろう。本来、世界的な経済や雇用、貧困などは、各国が国際協調主義のもと協力して取り組まなければならない問題だが、現在、そしてポストコロナ時代においてはそういった協力精神がどこまで期待できるだろうか。

私を含め、同じ学会の専門家や政府関係者もかなり強い懸念を抱いている。トランプ政権もイラン核合意やパリ協定から離脱し、中国は今回も含め透明性のない一方的な行動を続けている。そういった流れは、経済不況や失業の増加、さらには貧困の拡大をいっそう招く恐れがある。