抗議ツイート500万超 検察庁法改正案の何が問題か
政治

抗議ツイート500万超 検察庁法改正案の何が問題か

0コメント

普段は注目されない“地味な法案”が、芸能界を巻き込んで日本中の話題となっている。その法案とは検察官の定年を延長するための検察庁法改正案。人気俳優や歌手、お笑い芸人などがこぞって批判し、SNSでは「#検察庁法改正案に抗議します」という投稿が異例のスピードで拡散、500万ツイートを超える事態になっている。一体、この法案のどこが問題なのか。

定年後も政府の判断で幹部に留まれる、という特別ルール

検察庁法改正案は、検察官の定年年齢を63歳から65歳に引き上げるとともに、一定年齢で幹部ポストを退任しなければならない「役職定年」の年齢を超えても、政府の判断で幹部に留まれるようにするのが柱。一般の公務員の定年年齢を60歳から65歳に引き上げる国家公務員法改正案などと一本化して、今年3月13日に国会へ提出されている。

安倍晋三首相は同法案について「今国会で成立させる必要がある」と発言。与党が5月8日の衆院内閣委員会で実質審議の開始を強行したあたりから、世論の批判が増え始めた。

Twitterでは人気俳優やミュージシャン、作家、お笑い芸人、タレントらが「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけて相次ぎ投稿。そうしたツイートを引用する一般市民の投稿も急増し、関連する投稿は1000万件に迫る事態となっている。

そもそも、一部のコメンテーターを除き、政治色がつくのを嫌う芸能人が公然と政府の批判をするのは珍しい。特に今回の投稿者は、今まで政治に関するコメントをほとんどしてこなかったような顔ぶれが目立つ。Twitterで特定の投稿が数百万件にのぼるのも珍しい。ましてや政治に関する話題がここまで集中するというのは極めて異例だ。

また、ネット上には「#検察庁法改正案に抗議します」に関するツイートをした有名人らを連ねたリストが出回るなど、異様な様相を見せている。

黒川氏の定年延長を事後的に正当化?

批判の背景にあるのが検察ナンバー2である黒川弘務・東京高等検察庁検事長の定年延長問題だ。詳しくは過去の記事で紹介しているが、政府は1月の閣議で、定年が迫っていた黒川氏の定年延長を決定。安倍政権に近いとされる黒川氏が検察トップの検事総長に就く道をこじ開けたことで、世論の反発を買っていた。所管する森雅子法務大臣の答弁が二転三転したことも批判に拍車をかけた。

新型コロナの陰で新たな疑惑 検察官定年延長に隠された安倍政権の“横暴”

2020.2.27

その後に提出されたのが今回の検察庁法改正案。すでに黒川氏の定年延長は閣議決定されているので法案と黒川氏の人事は直接関係ないが、野党は「黒川氏の定年延長を事後的に正当化する狙い」などと批判している。

法案には63歳になると検察幹部を退く役職定年制度を創設し、内閣や法相の判断で最長3年間、延長できるようにする特例規定を盛り込んだが、それについても「政権に近い人物を検察幹部に起用し続けるようにするためではないか」との疑念を招いている。

与党は週内に衆院内閣委員会と本会議で可決し、衆院を通過させる方針だが、野党は強く反発。役職定年を政府の判断で延長できる特例規定を削除した修正案を提示し、与党側に受け入れるよう求めている。

政権に対する検察の捜査の手が緩む懸念

そもそも、検察には政治の暴走をけん制する役割が期待されている。東京地検特捜部は政治家の汚職事件などを捜査しており、1970年代のロッキード事件では田中角栄元首相を逮捕、起訴。IRをめぐる収賄容疑で秋元司衆院議員を逮捕したのも記憶に新しい。

そうした役割が期待される検察のトップに政権に近い人物が就けば、政権に忖度して捜査の手が緩む懸念がある。実際に黒川氏が法務省の中核を担う官房長や事務次官を務めた時期には、小渕優子元経済産業相や甘利明元経済再生相の政治資金問題が明るみに出たが、政治家本人はいずれも不起訴となった。

森友学園問題をめぐる公文書改ざん問題でも、財務省幹部らが不起訴となったことから黒川氏の影響を疑う声がある。ただ、法務省と検察庁は別組織であり、検察内部では「これらの事案への関与はない」と否定する声が強い。

国民の関心が新型コロナウイルス対応に向くなか、国会を強引に通そうとする姿勢に対して「新型コロナウイルスの対応に全力を挙げなければならないのに、『火事場泥棒』と言われてもしかたがない」(立憲民主党の枝野幸男代表)との批判もある。

政権与党は批判を軽視するが…

一般の国家公務員の定年を引き上げる国家公務員法改正案と一本化したことも批判の的だ。関連する法案を束ねて一括審議する手法自体は珍しくないが、今回は黒川氏の問題があるため事情が異なる。一括審議することで審議時間を短縮することや、審議の場を法務委員会から内閣委員会に移すことで森法相に答弁させない狙いがあるとみられる。実際に野党各党は内閣委員会に森法相を出席させるよう求めたが、与党は拒否した。

批判の声が広がっていることについて、政権が重く受け止めている様子はない。与党幹部はSNSで大量投稿できる仕組みがあると指摘。安倍首相も「政府の対応についてさまざまな反応もあるんだろう」と答えるにとどめた。

長期政権で今まで数々の難局を乗り越えてきたからこその余裕ともとれるが、今回の短期的な批判の広がりはモリカケ問題などとは次元が違う。コロナウイルス対策への批判が広がっていることもあり、読みを間違えると政権を取り巻く環境がガラリと変わる可能性もある。

定年延長を検察庁法ではなく国家公務員法で運用したことが問題

「#検察庁法改正案に抗議します」が数百万ツイートされて、急激に世間の関心が高まった。弊誌2月27日アップの記事でもその前段となる問題点を挙げているのでご参照いただきたい。

芸能人など著名人がこのツイートを拡散したことから、検察庁法改正案賛成派の意見として「どこが反対なのかわからない」「乗じて、訳が分かっていないのに、いい加減なツイートしないで」「定年延長は世間の流れなので、何が問題なのか」なども多く散見される。

僕が言いたいのは三権分立が脅かされるとかではない。

もともと、検事総長は内閣人事。恣意的に行おうと思えば出来なくない。それが、政治家への捜査の忖度になることは絶対に避けなければならないが。政治家は選挙で選ばれるものだから、ある程度国民の負託がある。検察の暴走を止める役割も果たさねばならない。ということで、内閣に人事権が与えられると解釈できる。そういう意味では最初から完全に三権が分立されている訳ではないと思っている。最高裁の判事も同様だ(これには国民審査制度がおまけ程度についているが)。まあ、今までは人事権を行使したという事例は見当たらなかったが。

僕個人は、定年延長が問題と言っているのではない。問題なのは、1月31日の閣議決定で今まで前例のなかった黒川弘務検事長の定年延長を、検察庁法ではなく国家公務員法で運用したことだ。今までの法解釈を急変させてまで、黒川氏の定年延長を無理やり決定してしまった。そのときの国会答弁も二転三転し、挙句には人事院の松尾恵美子給与局長が、「(前回答弁は)言い間違えた」という始末。到底納得できるものではなかった。法解釈を変えてまで、黒川氏を任用したかったのなら、それなりの説明が必要だ。

そんな伏線があって、今回の(国家公務員改正との)抱き合わせ法案では、「内閣と法相が必要と認めれば3年間の任期延長が認められる」との特例がついた。ここが大きな問題だ。なぜこの特例を入れたのかよくわからない。野党が修正案を提出するのも当然だ。