新型コロナの陰で新たな疑惑 検察官定年延長に隠された安倍政権の“横暴”

2020.2.27

政治

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新型コロナの陰で新たな疑惑 検察官定年延長に隠された安倍政権の“横暴”

新型コロナウイルスの感染拡大に国内の関心が集中する中、検察官の定年延長問題が国会論戦の新たな標的となっているのをご存知だろうか。ニュースや記事をちらっとみただけでは、些細な問題のように見える。しかし、この定年延長には安倍政権のある“狙い”が隠されており、強引な政権運営を象徴する問題なのである。

法解釈をねじ曲げてまでの強引な定年延長

政府は1月31日の閣議で、東京高等検察庁の黒川弘務検事長の定年を半年間延長することを決めた。検察官の定年は法律でトップの検事総長だけが65歳、それ以外はすべて63歳と決められており、これまで例外なく適用されてきた。ところが、2月7日に63歳を迎え、退任するはずだった黒川氏に限り、8月まで半年間延長されたのだ。

この時点ですでにおかしいと思うが、その点については後に詳しく説明する。まず、問題なのはその根拠と説明である。政府は国家公務員法の特例で「職務遂行上の特別の事情が認められる場合」などに定年を1年まで延ばせることを今回の定年延長の根拠としたが、検察官には国家公務員法とは別に検察庁法で定年が定められている。

そのことから国家公務員の人事をつかさどる人事院は1981年に国家公務員法の定年規定は「検察官には適用されない」と答弁していた。今回の判断とは完全に矛盾する。しかも、2月12日には人事院の給与局長が当時の国会答弁について「同じ解釈を続けている」と発言した。ところが、翌13日に安倍晋三首相が「今般、適用されると解釈した」と説明すると、19日には人事院給与局長が「つい言い間違えた」と前言を撤回したのである。

これだけでも十分におかしいが、1980年に国家公務員の定年制導入が議論された際、政府が「(検察官は)勤務の延長及び再任用の制度の適用は除外されることとなる」とする想定問答集を作っていたことも明らかとなった。そこまではっきり決まっていた法律の解釈が、政権の意向でいきなり覆ったのだ。その間、法相や官僚の答弁は迷走。法務省人事院などが提出した文書も日付がないなど不備が目立っていた。

しかも、首相の答弁に合わせて官僚が「いい間違い」と称して180度答弁を変えてしまう。これまでも桜を見る会などでたびたび指摘されてきた「安倍政権の横暴」がまたしても浮き彫りになった形だ。

定年延長の黒川氏は官邸の「お気に入り」

これだけで終わったら桜を見る会の延長戦で、野党が攻撃して、若干支持率が下がるだけで終わったかもしれない。しかし、今回の黒川氏の定年延長にはある政権の狙いが隠されている。検察トップである検事総長人事である。

検察組織というのは少し複雑だ。トップは検事総長で、東京高検検事長がナンバー2、その後に法務事務次官、大阪高検検事長、名古屋高検検事長が続く。東京と大阪の間に法務省のトップが入るという不思議な図式である。

現在、検事総長を務めるのは稲田伸夫氏。そして後任候補とされているのが問題となった黒川氏と名古屋高検の林真琴検事長である。2人は同期で、優秀な人材が多いことから“花の35期”ともいわれる。出世レースは林氏がリードしていたとみられていたが、安倍政権下で明暗が分かれた。

2012年の第二次安倍政権発足時、黒川氏は法務省の官房長。国会議員や国会、関係省庁との調整窓口になる役職だ。黒川氏は外国人観光客受け入れ拡大に向けた入国規制緩和や共謀罪法と言われた改正組織犯罪処罰法の成立に貢献。法務省事務次官だった稲田氏は自らの後任に林氏を推したが、官邸の意向で黒川氏が昇任することとなったとされる。黒川氏は菅官房長官をはじめとする官邸の「お気に入り」なのだ。

官邸はお気に入りの黒川氏を検察トップにつけようと目論んだ。検事総長の任期は慣例で2年。稲田現総長は今年7月で任期となるが、それでは今年2月に定年となる黒川氏は間に合わない。官邸は稲田氏に早期勇退を促したが、稲田氏が拒否。そこで、黒川氏の定年を延長し、稲田氏の退任を待たせようというのが今回の定年延長の狙いと目されている。

政治をけん制するのは誰か

検事総長の人事権は政府が握っているが、検察には政界の汚職にも切り込む役割が期待されており、一定の独立性が保たれているべきである。IRを巡る汚職疑惑で秋元司衆院議員を逮捕、起訴したのも東京地検特捜部だ。結果的に秋元議員の逮捕をきっかけに国内ではカジノ誘致に否定的な声が増えているが、検察トップまで政権のお気に入りで固められたら、政治をけん制する機能が失われるのではないかとの疑念がある。

しかも、今回の問題で気になるのは政権の乱暴さである。黒川氏の定年などはじめからわかっていたこと。稲田氏を検事総長に就けるときから調整したり、いったん定年で退官させてから検事総長に就けたりすることも可能だったはずだ。それをあえて法律の解釈変更で「初めて」延長させるあたりが、政権の奢りを感じる。

これだけ批判されても黒川総長に向けて突き進むか、それとも政権が襟を正すか。コロナウイルス騒動の陰に隠れているが、この問題がこれからどうなっていくか、目を離してはいけない。