新型コロナで社会コスト上昇へ 経済成長の重しに

2020.3.2

経済

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新型コロナで社会コスト上昇へ 経済成長の重しに

写真:AP/アフロ

新型コロナウィルスが世界に蔓延している。感染者はすでに50カ国以上に及び、世界的な疫病の流行を示す「パンデミック」の可能性も指摘され始めた。未だその正体が解明されていないことから、ワクチンの製造が追いつかず、対処療法に頼らざるを得ないことが世界に「恐怖」を呼び込んでいる状態だ。すでに観光産業などへのダメージが表面化しているが、水面下では世界経済に着々と「重し」を積み上げている。

新型コロナの経済影響はリーマン・ショックを超えるか

新型コロナがどこまで広がるのか、いつ収束するのかは未だ予断を許さないが、少なくともエボラウィルスのような劇症・致死率の高い伝染病ではない。いずれ収束するのであろうが、伝染力の高さゆえに疑心暗鬼が蔓延し、右往左往しているのが実情である。“分からないモノ”に対する恐怖ほど人間を混乱に陥れるものはない。

新型コロナの最大の問題は、この“分からないモノ”に対する恐怖にあると考えられる。最悪の事態を避けるため、各国政府は人やモノの動きを禁止する、ほぼ経済封鎖に近い措置に踏み込んでいる。世界の貿易量や人的な移動は激減している。当然、世界経済は失速することは避けられない。経済への影響は、リーマン・ショックを超えると予想される。

そうした経済への影響を最も敏感に反映するのは、マネーやコモディティ(商品)の価格変動である。経済産業省幹部は、「すでに新型コロナの発生源となった中国の原油の需要は日量400万バレルまで落ち込んでいます。リーマンショック時は日量300万バレルの減少でしたので、すでにその水準を超えています」と指摘する。

世界最大の原油輸入国となった中国は昨年、日量1110万バレルの原油を輸入していただけに、原油価格の下落は目を覆うばかりだ。ニューヨーク原油先物は2月末の1週間で1バレル約45ドルと16%も急落社債や株式などリスク資産の中で原油は最大の下げ幅を記録した。これから原油に続き、他のコモディティの価格下落も顕在化してくるものと思われる。

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株式市場は世界的な負のスパイラルへ

原油価格の急落とならび、新型コロナの影響を如実に表しているのがマネーの世界、とりわけ最大のリスク資産である株式市場は世界的な負のスパイラルに転じ、マネーは株式から債券、とりわけ安全資産と目される米国債に向かっている。世界全体の株価の動きを表す「MSCI世界株指数」は、2月末の1週間で11%も下落した。好調を維持していた米国株もカリフォルニアで新型コロナの感染が確認されたのを境に急落している。

NYダウの下落は欧州市場、アジア市場、そして日本株へとシンクロする。この負の連鎖を食い止めるアンカー役は、FRB(米連保準備理事会)となるのか。FRBは今月17、18日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催するが、市場では0.5%の利下げを織り込んでおり、仮に利下げ幅がこれよりも少ないと市場の失望入りを招きかねないと予想される。

また、企業の信用力を予想して取引する「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の保証料が急騰するなど、信用力に市場が敏感になっており、恐怖指数と呼ばれるVIX指数は、チャイナショックがあった2015年8月以来、約4年半ぶりに最高水準にまで上昇した。

景気後退のシグナル…東京五輪はどうなる?

そして、最も注目されるのは、米国の債券市場で長短金利が逆転する「逆イールド」が生じたことであろう。安全資産とされる米国債、とりわけ長期債にマネーが流れ込んだことから、米国債10年物の利回りは2月28日に1.11%まで低下(価格は上昇)。3カ月物の利回りよりも低い水準で長短金利は逆転した。「長短金利の逆転による逆イールドは、景気後退のシグナルというのが市場の経験則だ」(市場関係者)といわれるだけに注意を要する。

こうした市場の激変は、その後にくる実体経済の落ち込みを先取りしている。世界的なリセッション(不況)に陥るかは予測できないが、少なくとも世界のGDPの16%強を占める中国経済の失速は、世界経済に大きくのしかかることは避けられない。日本経済への影響も深刻だ。

まず、サービス輸出入の減少だ。日本に訪れる中国人観光客が消費する、いわゆるインバウンドの急減などがこれに相当する。次に財の輸出入の減少である。物流などのモノの需要減少は直接的な影響を及ぼす。そして、国内における各種のイベントの中止など、経済活動の停滞による影響はボディーブローのように効いてくるだろう。東京オリンピックの開催についても、その是非が問われ始めていることはその典型であろう。新型コロナが5月までに収束しなければ、東京オリンピックにも黄色信号が灯りかねない。

中国経済のダメージは世界経済の重しに

また、仮に新型コロナが4月までに収束したとしても震源地である中国経済は不良債権という後遺症を抱えることは避けられない。このことは同時に、中国と深く結びついている日本企業へも影響が及ぶことを意味している。そのツケは最終的には金融機関に集約される。

中国の中央銀行である中国人民銀行は、緊急支援策として18兆円もの資金供給やローン金利の引き下げを打ち出し、金融機関の企業向け融資についても不良債権に分類せず、融資条件の緩和に応じるよう要請している。リーマンショック直後に日本で打ち出された徳政令「中小企業金融円滑化法」を下敷きにしたような措置である。「新型コロナがどこまで長期化するかにかかっているが、いざとなれば金融機関への公的資金の注入も考えられる」(メガバンク幹部)との見方もあるほどだ。

そのメガバンクなど邦銀の中国向け与信総額は約20兆円あり、英国に次ぐ規模を持つ。中国の不良債権問題は邦銀の問題と言い換えてもいい。

「今回の新型コロナはその世界的な広がりから、スペイン風邪と重ねてみるといい」と経産省幹部は指摘する。スペイン風邪ではいったん気温上昇とともに収束したが、その後、気温の低下とともに秋に再燃した。新型コロナは一過性の事象との見方もあるが早計かもしれない。

少なくとも今回の新型コロナを契機に、世界的に感染症に対応した社会コストが上昇することは避けられないだろう。そのコストは長く世界経済の重しとなっていく。新型コロナを契機に世界経済の一体がどれほど進み、中国経済の影響がどれほど大きいものかが改めて再認識された。「チャイナショック」に振り回されることが常態化することが懸念される。