米中対立のはざまで「緩衝国家」化する北朝鮮

2020.05.18

社会

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新型コロナウイルスの感染拡大は、発生源の中国、その最も大きな被害者と化したアメリカとの間で新たな米中対立を生んでいる。もしくは、新たな米中対立というより、米中貿易摩擦など、これまでの米中対立にさらなる拍車をかける役割を担っているようだ。トランプ大統領は、発生源の特定と透明性ある責任を避け続ける中国への非難を強め、米市民の間でも反中感情が広まっている。秋の大統領選に向けて、トランプ大統領は支持拡大のためいっそう中国批判を展開するかもしれない。

一方、そういった米中対立を中心とする世界は、どんな影響を日本に与えるのだろうか。一つに、北朝鮮と朝鮮半島を考えてみよう。

北朝鮮にとって有利に働く米中対立

周知のとおり、拉致問題は一向に解決への道筋が見えず、北朝鮮の核・ミサイルも度重なる米朝会談にも関わらず、全くプロセスが進まない。そして、米中対立を中心とするポストコロナの時代は、北朝鮮に有利に働く可能性が高い。

米中と北朝鮮のパワー関係は比較するまでもない。米中と北朝鮮では、経済力と軍事力で歴然とした差があり、仮にアメリカと北朝鮮、中国と北朝鮮が戦っても結果は見えている。だが、北朝鮮は核という切り札を持っており、両国とも北朝鮮には慎重に対応せざるを得ない。

米中の“緩衝国家”化する北朝鮮

だが、慎重に対応せざるを得ない地政学的理由はもう一つあるのだ。そして、米中対立が激しくなればなるほど、それは核という切り札のようになるだろう。

その地政学的理由とは、北朝鮮が米中の狭間で“緩衝国家”になっていることだ。例えば、北朝鮮がアメリカと関係を緊密化させ、アメリカの政治経済的な影響力が北朝鮮を覆うようになると、それはアメリカの影響力が中朝国境にまで北上することになる。アメリカと覇権争いを展開する北京にとって、敵の勢力圏が自国の国境に接することは、中国が強調する“核心的利益”が侵害されるほどあってはならないシナリオなはずだ。

逆に、北朝鮮が中国と関係をさらに緊密化させ、中国の政治経済的な影響力が北朝鮮を覆うようになると、それは北緯38度ラインまで中国の影響力が南下することになり、アメリカの軍事勢力圏と接することになる。アメリカとしても、それは絶対に避けたいシナリオである。仮にそうなってしまうと、朝鮮半島は南シナ海や東シナ海を超え、米中対立の軍事的最前線と化すことになる。

要は、米中にとって北朝鮮は戦略的な要衝なのである。アメリカとしても中国を意識すると北朝鮮は雑に扱えない、中国としてもアメリカを意識すると北朝鮮は雑に扱えないのである。北朝鮮も十分にそれを理解しており、対立が深まる米中関係を巧みに利用することで、自らの体制維持や繁栄・発展を模索しているのである。

日本にとってよりリスキーなのは「中国」

そして、日本の安全保障を考えるならば、中国が北朝鮮を覆うようになるシナリオの方が深刻だろう。仮に、中国の経済的な影響力がいっそう北朝鮮を覆うようなると、日本は日本海の安全保障をいっそう真剣に考える必要性が出てくる。「中国による日本海の内海化」を指摘する専門家もいるが、日本海は中国にとって北極海航路(氷上のシルクロード)を構築するにあたり、なくてはならない海域だ。氷上のシルクロードは、日本海を通過することが最もショートカットとなり、具体的には、九州の北にある対馬海峡から日本海に出て、宗谷海峡や津軽海峡を抜けベーリング海に抜けるルートである。

中国が一帯一路に基づき、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港の使用権をほぼ恒久的に得たように、中国が日本海進出を目標に北朝鮮の湾岸施設の建設・支援を積極的に進めることは想像に難くない。中国も日米同盟に真っ向から衝突する野心的な政策・行動は取らないと思われるが、日本にとっては、五島列島から対馬列島、隠岐の島、佐渡島、北海道へと伸びる海上防衛ラインの重要性がこれまでになく増すことだろう。

鍵は米軍がどこまで協力するか

最後に、ポストコロナ時代においてもう一つ懸念すべきことがある。それは、こういった極東アジア情勢も予想されるなか、アメリカがどこまで真剣にアジアに関与するかである。確かに、日米安全保障条約にはアメリカの対日防衛義務が規定されているが、重要なのは、「米軍がどうやって、どこまで積極的に協力するか」については全く規定がないのだ。

要は、協力の程度についてはその時の政策判断によるのであり、日本人の多くが漠然と描く「米軍が積極的に協力する」というシナリオになるかは分からない。

米中対立が激しくなるポストコロナ時代において、米中対立によって朝鮮半島情勢はいっそう複雑さを増す可能性があり、日本としては今のうちからさまざまなシナリオを描き、リスクを最小化する対策を講じるべきだろう。