煩雑な手続きは早急に改善を コロナ禍で助成金を申請したある旅行会社の実情

2020.5.19

社会

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煩雑な手続きは早急に改善を コロナ禍で助成金を申請したある旅行会社の実情

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた緊急事態宣言下では、飲食店をはじめ、観光やエンターテインメントなどさまざまな業種において自粛または規模縮小を余儀なくされた。現在は特定警戒8都道府県以外の39県は緊急事態宣言が解除され、残りの地域も解除に向けて努力が続けられているが、すぐに以前のような経済活動を再開するのは難しいと言わざるを得ない。厳しい経営状況に置かれている企業や個人店などにとっての頼みの綱は国や自治体から支給される各種助成金や給付金だ。手続きの煩雑さや金額の不足を訴える声は後を絶たないが、支給の要件や金額、手続きなどにどのような違いがあるのだろうか。

緊急事態宣言の延長でさらなる経済の落ち込みは必至

5月4日、安倍晋三首相は全国に出されていた緊急事態宣言について、全都道府県を対象としたまま期限を31日まで延長する意向を表明したが、14日には特定警戒都道府県の一部を含む39県を解除。しかし、東京や大阪等の特定警戒8都道府県の解除には慎重になっており、落ち込んだ経済が回復するめどは立っていない。特に中小企業・個人事業者の多くは助成金や給付金、特別貸付などを活用しても、苦境が続くのは必至だ。

第一生命経済研究所の予測によると、5月6日までの宣言の影響による失業者数は36.8万人。1カ月延長すれば、約2倍の77.8万人になると分析。経済損失もマイナス21.9兆円からマイナス45.0兆円になる見通し。

コロナ禍における生活支援として政府が打ち出し、5月1日に申請受付が始まったのが「特別定額給付金」と「持続化給付金」だ。どちらもオンライン申請ができるとあって、初日はエラーが多発。ログインすることも難しい状況で、経営が逼迫している事業者が多数いることをうかがわせた。

「特別定額給付金」は総務省による個人向けの制度で、4月27日までに住民基本台帳に記録されているすべての人を対象に一律10万円が支給される。

「持続化給付金」は経済産業省による中小法人・個人事業者向けの制度で、新型コロナウイルスの影響により、ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少した事業者に対して事業全般に広く使える給付金が支払われる。給付額は昨年1年間の売上からの減少分を上限として中小法人等は最大200万円、個人事業者等は最大100万円となる。

特に「持続化給付金」はコロナ禍によって経営が逼迫する中小企業・個人事業者にとって、当座をしのぐためには欠かせない制度といえる。

ある旅行代理店の場合

都内で旅行代理店を営むAさんはコロナ禍による売上の落ち込みに頭を悩ませている。

「主に北海道や沖縄などをメインにチケットやツアーの手配を行っています。コロナ禍の影響は2月の後半から始まりました。影響が大きかったのはJALとANAが航空券のキャンセル料や変更手数料を無料にしたことです。弊社は小規模事業者ですが、弊社ぐらいの規模でもキャンセルが500万円分ぐらい発生しました。ですが、航空会社が手数料を無料にしたので1円も入りませんでした。3月だと昨年より7割ほど売上が落ち込んでいます」(Aさん、以下同)

窮状にあってAさんがまず申請したのが「雇用調整助成金」 だ。「雇用調整助成金」はコロナ禍以前から存在する厚生労働省による制度で、景気変動によって従業員の雇用を維持するのが難しくなった場合に、退職させずに雇用維持するためのお金が助成される。

「あくまで社員を休ませて、その補填をするという形なので当然社員は仕事をしないということが前提です。コロナ禍以前にも制度は何度か利用しましたが、とにかく申請が大変です。まずハローワークで申請書類をもらって記入し、添付書類も揃えなければならないのですが、休業届実施計画届をはじめ、事業活動の状況に関する申出書、休業協定書など、数がとにかく多い。一応見本もあるのですが、それでもよくわからないところがたくさんあります。

初めて申請する人はハローワークの担当者と何度かやり取りしないと書類を作成するのは難しいと思います。今は直接行くことも難しい場合もあるでしょうし、ハードルはより高くなっているでしょうね。かといって社労士に書類作成をお願いすると手数料として15~20%は取られるので、そこも厳しいところです」

「雇用調整助成金」は4月1日~6月30日までの期間に申請すれば新型コロナウイルス感染症特例措置として、助成率の引き上げや助成要件の緩和などが行われている。また、従来は全国のハローワークなどでの申請が主だったが現在は郵送が推奨。5月20日からはオンラインでも申請を受け付ける。

「助成金」と「給付金」の違い

「持続化給付金」と「雇用調整助成金」は、それぞれ支給目的は異なるが、どちらも国からお金が出るという点では同じように見える。

「『持続化給付金』は『雇用調整助成金』と比べると、揃える資料も少なく簡単そうです。申請から約2週間後に振り込まれるとのことなので、審査が通れば最大200万円が振り込まれるはずです。旅行代理店は手数料商売ですので、基本的に利益率は10%程度。200万円がもらえるということは2000万円の売上と同等なのでありがたいです。

『雇用調整助成金』はコロナ禍による特例措置で、弊社は上限となる8,330円×100日分の83万3,000円までが支給される予定です。ただし『持続化給付金』のようにすぐにポンと振り込まれるわけではなく、数回に分けて振り込まれるかたちです。弊社で言うと半年分ぐらいの休業スケジュールを出して、毎月ちゃんと休んだことを資料で報告して、それで毎回ひと月分が振り込まれます。お金はすべて社員の給料に消えていくので、そこから会社が潤うとか運転資金が捻出されるとかはありません」

今回のコロナ禍により厚生労働省は「雇用調整助成金」の申請から給付までを従来の約2カ月から1カ月に短縮する方針だが、Aさんが申請した4月10日の時点では担当者から2~3カ月後と言われたという。

“実質”無利子の融資は返済期限に注意

「持続化給付金」「雇用調整助成金」のほかにAさんが申請しているのが日本政策金融公庫による「新型コロナウイルス感染症特別貸付」だ。これは支給ではなく貸付となるため返済しなければならない。6000万円まで無担保で融資され、3000万円までは“実質”無利子となる。“実質”というのは、基準利率は1.36~1.65%だが、融資後3年目までは0.9%が引かれ、さらに別途決定される実施機関から利子補給がなされるためだ。3年以内に全額返済できればいいが、4年目以降は基準利率に戻るため注意が必要だ。

「貸付は申し込みだけは実質無利子の3000万円にしていますが、審査が通らなければ借りられません。借りられても結局返さないといけないので、メリットはそれほど感じないのが正直なところです」

“アフターコロナ”も経営は先行き見えず

コロナ禍を乗りきるためできるだけのことはしていると語るAさん。

「『雇用調整助成金』の支給が終われば、またほかの助成金を申請するつもりです。ウェブ系の事業などは今回のコロナ禍をビジネスチャンスに変えているところもあるのでしょうが、観光業と飲食業は本当に大変だと感じています。飲食業はテイクアウトなどもできますが、観光業はお手上げ状態です。思いつくことといえば、例えば取引があるお土産屋さんの商品を仕入れて通販で売るというようなものですが……やっても微々たるものです。

緊急事態宣言が終了した後もすぐには元通りには戻らないと思います。航空会社を含め、受け手側であるホテルなどがフルオープンになるかはわからないからです。実際に緊急事態宣言が出た直後、あるホテルからは県外から来る宿泊客を断るという連絡が来たので、お客様に事情を話して旅行自体をキャンセルしていただきました。なので、ホテル側がどういう対応をするかによって変わってしまいます。

先日も沖縄県知事が『沖縄に来るのを控えて』と要請していましたが、そう言われると、やはりお客様が来られても送り出すわけにはいかないと考えてしまいますしね。いずれにせよ、もう少し先まで耐えないとダメですね」

東京商工リサーチ の調査結果によると、新型コロナ関連の経営破たんは全国で累計156件(5月18日、倒産104件/弁護士一任・準備中52件)。2月は2件、3月は23件だったが4月は84件にまで急増した。4-6月期のGDP減少率は20%前後の落ち込み、戦後最悪になると予想されている。

経済再生するにしても企業が減ってしまっては元も子もない。国や自治体によるさらなる支援策の追加は早急に検討されるべきだが、並行してあらゆる申請もデジタルを通して簡略化されるべきだ。