吉村府知事効果で維新が支持率上昇 アフターコロナで政界の図式も変わるか

2020.05.22

政治

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写真:Pasya/アフロ

長期安定的な政権運営を続けてきた安倍政権に、猛烈な逆風が吹き始めた。政府の判断で検察幹部の定年を延長できるようにする検察庁法改正案は、世論の猛反発を受けて今国会での成立を断念。法案提出のきっかけとされる黒川弘務東京高検検事長は緊急事態宣言下で「賭けマージャン」をしていたことが週刊誌に報じられ、辞任に追い込まれた。今後、内閣支持率の低下は必至で、ポスト安倍の議論が再燃しそうだ。

「われわれの苦労はなんだったんだ」

「黒川検事長、ステイホーム週間中に“3密”『接待賭けマージャン』」。500万超の抗議ツイートを受け、政府・与党が検察庁法改正案の成立見送りを決めた直後の5月20日。週刊文春オンラインが掲載した強烈な見出しに、永田町内がざわついた。

黒川氏といえば、世論の大きな反発を招いた検察庁法改正案のきっかけとされる人物。安倍政権は政権に近い黒川氏を検察トップである検事総長に就けるため、1月の閣議で黒川氏の定年延長を決めたとされる。異例の定年延長を正当化するために、今回の検察庁法改正案が提出されたとみられていた。

週刊文春の記事によれば、黒川氏は産経新聞や朝日新聞の記者らとともに、産経記者の自宅で5月1日、同13日の2回にわたって深夜まで賭けマージャンに興じていたという。すでに政府が緊急事態宣言を出し、小池百合子都知事が「ステイホーム週間」を呼び掛けていたさなか。もちろん賭けマージャンは法律違反、「賭博罪」に問われる行為である。それを検察ナンバー2が知らないはずはない。

しかも、2度目の“3密マージャン”の直前には与党が検察庁法改正案を含む国家公務員法改正案を衆院内閣委員会で強引に審議入りさせ、世論の反発を招いたばかり。同日夜に一般女性がTwitterに書き込んだ「#検察庁法改正案に抗議します」との投稿が芸能人らによって凄まじい勢いで拡散されていたなかだった。世論の批判の矛先である黒川氏張本人がのんきに遊んでいたというのだからあきれるほかない。

黒川氏は法務省の調査に賭けマージャンの事実を認め、安倍首相宛に辞表を提出。22日の閣議で黒川氏の辞任が承認された。「われわれの苦労はなんだったんだ」。ある与党議員はため息を漏らす。

国家公務員法改正案も廃案、内閣支持率はさらに低下か

政府・与党は検察庁法改正案の成立見送りを決めた直後、国家公務員法改正案を継続審議とし、今秋の臨時国会で成立させる算段を立てていた。しかし、黒川氏の辞任を受け、急遽方針転換。「新型コロナウイルスの感染拡大で雇用環境が急速に悪化したから」という理由で、国家公務員法改正案を廃案にすることにしたという。

安倍首相は報道陣に「この法案を作ったときと違い、今社会的な状況は大変厳しい。そうしたことを含め、しっかり検討していく必要がある」と述べた。新型コロナウイルスの感染拡大は今に始まったことではない。つい数週間前まで国会でこの法案の必要性を訴えていたとは思えないほどの変わり身である。二転三転の対応に、政府・与党内でも安倍首相、菅義偉官房長官の求心力が低下する可能性がある。

朝日新聞が5月16、17日に行った世論調査によると、内閣支持率は4月調査から8ポイント低下し、33%だった。不支持率は6ポイント増の47%。「33%」というのは2012年の第2次安倍内閣発足後、2番目に低い数字。過去最低だったのは森友・加計学園問題への批判が高まっていた2018年3月だった。しかも、この調査は黒川氏の問題発覚以前。今後はさらに支持率の低下が進む可能性がある。

国会は人材不足、手腕光る吉村大阪府知事

安倍政権はこれまでにもいくつかの危機を迎えたが、そのたびに乗り越えられてきたのはひとえに「ポスト安倍」が不在だったからだろう。批判ばかりの野党は相変わらず不人気。かといって自民党内にも有力者は見当たらない。

世論調査で常に安倍首相と人気を争っている石破茂元幹事長は党内で支持が伸びない。次いで国民人気の高い小泉進次郎環境相も大臣就任以来、失速気味だ。安倍首相が後継として有力視している岸田文雄政調会長は新型コロナウイルスの経済対策をめぐって「減収家庭への30万円給付」案を主導したものの、最終的にひっくり返されて与党内での求心力が低下したばかりである。

国会に有力な「ポスト安倍」は見つからないが、新型コロナウイルス対策をめぐって国民の注目を浴びているのが都道府県知事である。緊急事態宣言を出すかどうか、国がまごつくなか、真っ先に独自の緊急事態宣言を出した鈴木直道北海道知事。東京都の職員から財政破綻した夕張市の市長に転身し、2019年に北海道知事に初当選した鈴木氏は、全国最年少知事らしい思い切りの良い政策展開で評価を上げている。

さらに高い評価を集めているのが鈴木氏に次ぐ若さの吉村洋文大阪府知事だ。弁護士出身で、衆院議員を経て2015年に橋下徹氏の後継として大阪市長に就任。2019年には松井一郎大阪府知事と同時に辞職し、立場を入れ替えて立候補するという異例の“クロス選挙”で知事の座に就いた。

橋下氏や松本氏と異なり、これまでメディアで注目されることは少なかったが、コロナ対策をめぐっては全国に率先して次々と新たな政策を打ち出し、大阪府独自の自粛要請・解除ルールである「大阪モデル」は全国的に大きな注目を集めた。深夜にまでSNSで政策を発信する姿に、SNSで「吉村寝ろ」と体調を気遣う書き込みが相次ぐなど吉村氏個人への注目度も高まり、その効果で日本維新の会の支持率が上昇するほどだ。

首都を預かる東京都の小池百合子知事も存在感発揮に躍起だ。自ら情報発信の先頭に立ち、テレビで知事の顔を見ない日はない。7月に投開票される都知事選はコロナ騒動の影響もあって、無風で再選される公算が高まったが、永田町ではコロナウイルス騒動が沈静化したのちに国政に復帰し、女性初の首相を目指すのではないかとの見方が多い。

これまで「1強」と言われ続けた安倍政権の屋台骨も、さすがの勢いの逆風にぐらつき始めた。後を継ぐのは自民党の有力者なのか、期待の若手か、それとも地方の旗手か。新型コロナウイルスは生活様式だけでなく、政界の図式も一変させるかもしれない。