withコロナで注目集める「時間制来館者システム」 滞在を楽しむ本来のアート鑑賞へ

2020.6.26

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withコロナで注目集める「時間制来館者システム」 滞在を楽しむ本来のアート鑑賞へ

写真:十河 英三郎

withコロナ、アフターコロナにおける集客のキーワードは“混雑の回避”だ。森美術館長の片岡真実氏が会長を務める国際美術館会議(CIMAM)は4月末、コロナ禍において美術館がとるべき対応について示した20の注意事項を公開。その主たる項目は「混雑・接触の回避」で、これを実現するため、東京国立博物館や東京国立近代美術館などが、入館チケットを日時指定で予約購入できる「時間制来館者システム」を導入し注目を集めている。

同システムの開発・提供を手がけるイーティックスデータファームの原田栄二代表に、「時間制来館者システム」の特長と今後のアート鑑賞の在り方について話をうかがった。

株式会社イーティックスデータファーム 代表取締役社長

原田栄二 はらだ えいじ

福岡県出身。1990年、富士銀行(現 みずほフィナンシャルグループ)入行。法人営業、外国為替、証券業務を担当。2003年、イーティックスデータファームの前身、イーティックスを創業。趣味はライブ鑑賞、旅行、地方の美術館巡り、ワイン、読書など。

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上野動物園と葛西臨海水族園でも導入

──新型コロナウイルス感染拡大の影響で、貴社の「時間制来館者システム」が注目を集めているようですね。

原田 お客様の混雑や接触を避けたいと、5月中旬からの約1カ月間で、約50の施設様に問い合わせいただきました。

特に、地方の小さな美術館からお声がけいただくことが増えました。大都市の美術館を巡回する企画展に比べて、地方の美術館が主催する常設展はそれほど混みませんが、来館するお客様としては不安で足が遠のきます。ですが、「時間制来館者システム」を使って入場人数を制限していることがわかれば、安心して美術館を訪れることができるだろうと、施設様が積極的に導入を検討してくださったのが理由です。

この勢いでいくと、日本国内にある美術館の約半数が、年内には当社とお取り引きさせていただくのはないかと考えています。

株式会社イーティックスデータファーム 代表取締役社長 原田栄二氏

「時間制来館者システム」は、美術館や博物館、観光施設などの公式サイト上でチケットを販売できるシステムで、日本の美術館で初めて導入されたのは草間彌生美術館(東京都新宿区)です。アーティスト・草間彌生さんの“お客様にゆっくり鑑賞していただきたい”というご希望に沿うため、事前に日時指定したチケットを購入していただき、入館人数を制限しながら1時間ごとにお客様を入れ替えていくという国内初の試みでした。

ほかにも、大塚国際美術館(徳島県鳴門)、地中海美術館(香川県直島)、MOA美術館(静岡県熱海)、サントリー美術館(東京都港区)、福田美術館(京都府嵐山)など、さまざまな施設様に導入していただき、現在、美術館の事前予約・オンラインチケット販売においては、当社が90%以上のシェアを持っています。

加えて、6月23日から再開した上野動物園と葛西臨海水族園も、入園の際は「時間制来館者システム」で事前に整理券を予約するスタイルになりました。美術館だけでなく、人の混雑や接触が避けられないさまざまな施設様にもご活用いただけると考えています。

イーティックスデータファームのホームページ内[時間制来館者システムの導入実績]より

──他プレイガイドでも日時指定制で美術館のチケット販売を始めていますが、「時間制来館者システム」の優位性についてどのようにお考えですか。

原田 ひとつは、“使いやすさ”です。例えば、15分ごとに時間帯別のチケットを用意すると、一日だけでもかなりのチケット数があります。ましてや、会期が長期にわたる場合、膨大な種類の中から、希望の日時のチケットを選ばなければいけません。その煩わしさを解消しようと、ユーザーインターフェースを極限までシンプルにしました。

まず、カレンダー画面から希望日を、次に希望時間を選ぶだけ。小さな画面スペースで完結するので、スマホからでも操作がしやすいです。しかも、専用アプリのダウンロードも、会員登録も不要。そのような手軽さも当社システムの特長といえます。

スマートフォンのチケット購入画面。左画面の赤枠をクリックすると右の画面に。ストレスなく購入できるUIが印象的。

次に“世界レベルのセキュリティ技術の高さ”。オンラインチケット販売といえば、個人情報の流出、チケット発売日のシステム障害発生など、さまざまなトラブルが考えられますが、当社は日本に進出してから17年間、トラブルなくシステムを運用してきました。

過去に、某団体様より契約にあたりシステム内部を開示し、安全性を確認させてほしいという申し出があった際、すべてを見ていただきました。その分析にあたったチームに「国内でこれほどまでに資金を投じ、高いテクノロジーを構築しているのは、イーティックスデータファームのシステムだけ」と評価を得ています。高いセキュリティを担保するために、当社は資金と労力を費やし、常に安全性の維持、機能性の進化を追求しています。

そして、チケットを購入されるお客様にとって一番のメリットである“アクセスしやすさ”も外せません。例えば、プレイガイドサイトにおいて、人気ミュージシャンのコンサートチケットの発売日が重なったとき、アクセス集中によってサイトそのものにアクセスできない、予約画面にたどり着かないという状況を経験された方がいると思います。

しかし、当社システムは、botストッパー機能という負荷分散技術を設けているので、世界中から100万件のアクセスが集中しても、サーバダウンすることなく、お客様を予約画面へと誘導します。ストレスなくチケットが買える。これが決め手となって、当社システムを採用された施設様もいらっしゃいます。

また、株式会社ミライロとの取り組みでは、ミライロが開発した障害者手帳アプリ「ミライロID」とAPI連携し、オンライン上でも障害者割引料金でチケットを購入できるサービスを開発しました(サービス開始は8月ごろを予定)。窓口で障害者手帳を見せるために、わざわざチケット売り場に並ぶ必要がなくなるということです。しかも、ミライロIDには、障害の内容、必要なサポートなども登録されているため、チケットを購入すると当日にどのような介助が必要かも事前に施設側が把握できます。

ほかにも、チケット販売に特化したエンジニアをはじめとする専任スタッフを置くことで、顧客のニーズに素早く応えるスピード感やフットワークの軽さを維持している点も、当社の優位性といえます。

行ったことで満足せず、本来の絵画の鑑賞の良さを感じてもらう時代に

──withコロナでも安全にアート鑑賞ができるよう、多くの動員が見込まれるブロックバスター展も変革を求められていますが、課題はあるでしょうか。

原田 ブロックバスター展、いわゆる大規模な企画展は、海外の美術館から作品をレンタルして開催します。なかには、1作品につき億単位のレンタル料も珍しくなく、100点ほど展示すれば、制作費だけでも数十億円という規模です。そこで、収益性を高めるためにも、とにかく一人でも多くの来館者を入場させることが重要でした。

海外の美術館に所蔵されている作品を1000円程度で観られるわけですから、一目でも観たいと多くの人が集まります。当然、鑑賞環境は過酷です。混雑した展示室内で、人と人とのほんの隙間、頭越しから作品を観る。ときにはチケットを買うために数時間も並び、熱中症で倒れてしまった方も出てきます。このようなアート鑑賞の在り方に疑問を呈する方もいますが、それしかやりようがなかったのです。

今後は、半分程度しか入れられないと思います。収益を確保しながら、密を避けるための策を講じなければなりません。入館人数を制限し、時間を指定することで、どういった料金設定にしていくのか、どのような売り方をしていくのかが課題になると思います。

──「時間制来館者システム」を活用した解決策として、今後のアート鑑賞をどう考えますか。

原田 期間を延ばそうとすると作品のレンタル料が高くなりますし、貸し手にもそこまでメリットがありません。妥当な価格と動員数を見極めるのは至難の業でしょう。

そこでアイデアとして、美術館を時間貸しする「Any ミュージアム(仮)」を構想しています。例えば、入館者が少ないアイドルタイムを一組1時間50万円で貸し出すというようなものです。

某施設のアイドルタイムはわずか5~10名ほどで、売上にして5000円~1万円。これを500人分の50万円で1時間貸す。そのようにすれば、一般入場の鑑賞チケット料を上げることなく、収益性を高めていけるのではないかと考えています。

また、1時間当たりの入場人数が1000人の場合は1000円、300人の場合は3500円、50人の場合は7500円といったように、制限人数に応じてチケット代をいくつかに分ける方法も現在構想中です。どういった環境で観たいのか、お客様のニーズに応えられるサービスになるのではないかと期待しています。

ほかにも、アイドルタイムを当社で買い取り、付加価値を付けて販売するという方法も視野に入れています。商品イメージとしては、絵画を観ながらのミニ音楽会など。さらには、ミニ音楽会の前に別室でシャンパンのサービスをするなど、ワンランク上の大人のアート鑑賞です。アイデア次第で魅力的な商品になるので、夢が膨らみます。

本来、アートはゆっくり時間をかけて向き合うものだと思います。コロナ禍をきっかけに、ようやくそのようなアート鑑賞の良さを感じていただける時代がやって来るのではないかと思っています。

株式会社イーティックスデータファーム

住所/東京都渋谷区渋谷2-6-14 渋谷今井ビル6F

電話/03-5464-1611

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担当者/渡辺・諏訪