高まるSNSの重要性 アフターコロナのネット選挙運動

写真:西村尚己/アフロ

政治

高まるSNSの重要性 アフターコロナのネット選挙運動

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今、選挙のあり⽅が変わってきています。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、緊急事態宣⾔が解除された後も、「3密」を避けるため、街頭演説や握⼿など、これまでのような選挙運動はできない恐れがあります。

 

先⽇、緊急事態宣⾔下の市区⻑選挙の6割で、投票率が過去最低を記録したとの報道がありました。街頭演説や握手などの“地上戦”が使えない現場の次なるビジョンの可能性として、ネット中⼼の選挙運動である「ネット選挙」があります。

 

コロナ旋⾵の中で⾏われた徳島市⻑選挙(4月5日投開票)、衆院静岡4区補⽋選挙(4月26日)、⼩⽥原市⻑選挙(5月17日)等において、各陣営は⼤規模な集会や街頭演説を⾒合わせて電話やオンラインでの発信に⼒点を置かざるを得なくなるなど異例の選挙戦が繰り広げられました。

 

地上戦が変⾰される次の新しいビジョンとして拡⼤していくインターネットを使⽤した選挙活動について、あゆみを振り返りながら、政治家のネット活⽤とそのネット選挙が果たす未来について考察していきます。

ネット選挙が解禁されて7年

公職選挙法の改正により、2013年4月から有権者・候補者・政党等はインターネットを使⽤した選挙活動(通称:ネット選挙)が解禁になりました。

解禁以前の選挙運動は、候補者にとって“地上戦”である街頭演説や握⼿、選挙カーによる連呼、電話で投票をお願いする電話作戦、ビラやポスター掲⽰物で呼び掛けるなどで票を伸ばすことが主流でしたが、ネット選挙解禁によって、ネットを通じて候補者の情報をより広く周知させることができるようになりました。

候補者がネット選挙で⾏える運動としては、ブログやSNSで政策を訴える、ホームページやYouTubeなどのウェブサイトで街頭演説動画を公開する、投票を呼び掛ける等があります。候補者におけるネット選挙は、即時性を生かした宣伝、動員、空中戦(メディア対策)のツールのひとつとして位置付けられています。

総務省 インターネット選挙運動の解禁に関する情報より(2013)

また、有権者にとっては、候補者とSNS上で対話ができるようになり、時間・場所を問わず情報が得られることで、今回の新型コロナウイルスの影響下のように移動が妨げられる場合であっても情報を⼊⼿でき、政策・⾒解が⽐較しやすくなることや、マスメディアでは報道されにくい情報が⼊⼿できるなどのメリットがあります。

一方、ネット選挙では、有権者が電⼦メールを使って選挙運動をすることや、ホームページや電⼦メール等を印刷して頒布(はんぷ)することは禁止されているので注意が必要です。他の選挙運動と同様に、18歳未満の選挙運動や事前運動(告示日前に投票の獲得を目的にする運動)、投票⽇当⽇の選挙運動等はできません。

今回の新型コロナウイルスの影響で握⼿や街頭演説などの直接的接触を避けるために、オンラインでの選挙運動に⼒を⼊れる選挙現場は拡⼤しつつあります。

具体的に、選挙中に最もネット検索が使われるのはいつなのか。2019年7月21日行われた参院選のケースで調べてみると、公示日から上昇しピークは投票⽇当⽇でした。

有権者はネット検索で投票するための正しい情報を求めるだけではなく、⾃分の投票⾏動が間違っていないことを確認したいということもあるでしょう。いずれにしても投票率が著しく低い日本において、ネット上に適切な情報があれば投票しようという気になるかもしれませんが、もし適切な情報がなければ投票をやめようと考えてしまうかもしれません。ネット選挙においても地上戦と同じ姿勢で、候補者の顔と名前を知ってもらい、対話し、有権者の感情を動かすことが重要なのです。

政治家や候補者はネットをどう活⽤すべきか

実際の選挙現場では、SNSに投稿する際、量よりも質を重要視した発信する姿勢が求められます(地⽅選の場合は、質より量を重視して検索結果を埋め尽くす⼿法も⼀部ある)。そのためには、選挙区において得票数が⾼い年齢層を⾒極めてそれぞれに落とし込んだ政策から“説得する”メッセージ化を⾏うということです。

地上戦で知名度がアップしたとしても、ネットでネガティブな噂があると投票に影響が出てしまいます。候補者の政策を⼀⽅的に発信するより、有権者の感情に訴え双⽅向でのコミュニケーションが重要なため、有権者の怒りや不満の本質を知るために⽇頃から選挙区内の有権者が求めているキーワードを、データもしくはマーケティング分析を⾏うことが重要になってきます。空中戦には、その有権者の声を取り⼊れた政策と実⾏⼒を実際に打ち出していくことが求められます。

また、選挙期間以前から取り組むべき点としては、広くファンを集めるよりも、より⼀歩深く踏み込んだ⾃分を発信してくれるアンバサダーを事前に増やすことで、確実な票につながります。つまり、ネット上の投稿を拡散してくれるサポーターを増員することがとても⼤切になってくるのです。

従来の候補者の情報発信モデルには⼤きく分けて、図のように4つのモデル型があると筆者は考えています。

  • 報告型:過去形で投稿を⾏う 例)候補者のスケジュールの振り返りや事後報告

  • 実況型内容:現在進⾏形でその場の状況についての投稿を⾏う 例)現場からのライブ中継や候補者の現状を伝える

https://twitter.com/newparty_jp/status/1266564236836130821

  • 告知型内容:未来形でその場の状況についての投稿を⾏う 例)街頭演説の⽇程の集会、⽣配信等のお知らせ

  • 主張型内容:時系列関係を問わない投稿を⾏う 例)候補者の政策や想い、御礼、謝罪などのメッセージ動画やリプへのリアクション、投票についての呼びかけ

今回は、Twitterの投稿を基に作成しましたが、他のSNSにおいても同様です。過去形で投稿を⾏う「報告型」、現在進⾏形で投稿を⾏う「実況型」、未来形で投稿を⾏う「告知型」、時系列を問わない「主張型」です。主に与党の候補者には報告型が多く、野党の候補者には告知型が多く含まれる傾向があります。これは普段の政治家の情報発信にも当てはまります。⾃⺠・公明党議員は、主に⼀⽅的な報告型が多いのに対して、維新・国⺠⺠主党は主張型が多くユーザーと対話を取ろうとする双⽅向の姿勢が⾒られます。

このように政治家は、国⺠の信頼を得るために国⺠と政治家の間にあるズレをなくし、⽇々国⺠⽬線に落とし込んだ発信を⾏うことが⼤切です。今後のアフターコロナの選挙戦において有権者を不要不急にしないために、街頭演説や選挙カーを控えめにし、ネット公開討論会、オンライン選挙事務所など、有権者が現場に参加できる新しい機会の提供が求められるでしょう。

国内におけるネット選挙の効果性

SNSを選挙で活⽤するにあたって⼀番気になる部分は、その効果性です。選挙期間内に空中戦で成果をあげるためには選挙期間外にどのくらい⼒を注いだかで変わります。特に時間が限られた選挙期間内においては、意味のある広報戦略が常に求められます。

国内でのケースは、2019年の参議院選挙において、自民党の⼭⽥太郎氏がネット選挙を活用して比例区4位の54万票を獲得し、Twitterの世界トレンドに⼊ったことがとても話題となりました。選挙期間中の街頭演説は、秋葉原のみに限定し、ネットではTwitterで興味を持ってもらえるようなコンテンツを投稿し、多くのネットユーザーが拡散しました。⼭⽥⽒のネットサポーターは⼤きく3つの段階に分かれており、

  1. ファン:情報を好意的に受け取る、たまにリツイートするユーザー
  2. 上位ファン:アカウント名に山田氏のトレードマークの蝶ネクタイを意味する「⋈」をつけるユーザーで、⾃分の⾔葉で発信する
  3. 会員:[2]から選抜されたよりファンレベルの高いユーザーで「モナーダ会員」と呼ばれ、⾃ら⼭⽥ファンを拡大しファンレベルを引き上げる活動を実施する

ファンになった有権者を公式LINEへと誘導し、⾃分の政策や考えについて詳細かつ簡単に知ってもらう⼿法をとり、⽀持拡⼤のスパイラルを構築しました。ネットの強みを有効に利⽤していることがわかります。

また同参院選では、NHKから国⺠を守る党(N国)もネットで話題となりました。N国代表の⽴花孝志氏がネット選挙で使ったツールはYouTubeでした。街頭演説はほとんど⾏わずに、政⾒放送や政策について動画をYouTubeにアップし続けました。本⾳で語るスタイルが話題を呼び、N国は参院選の⽐例代表で約98万票を獲得。得票数の最も多かった⽴花⽒が議席を得ることになりました。

また、山本太郎氏が設立したれいわ新撰組も、Twitterを積極的に活⽤した選挙活動を展開しました。『#twitterを〇〇で埋め尽くせ』というハッシュタグキャンペーンを繰り広げ、ネット上で話題を呼びました。このキャンペーンは、⽀持者らがれいわ新撰組や⼭本太郎⽒に関連する投稿をツイートし拡散を繰り返す⼿法になります。候補者の擁⽴も公⽰の直前でしたが急速に⽀持を広げ、設立からまだ⽇が浅いにもかかわらず約228万票を得ることになりました。

これらの事例から、ネット選挙運動には得票に結びつく可能性を秘めていることがわかります。しかし、⽇本の選挙では組織票中⼼となるためSNS活⽤の効果を低く⾒積もる研究が多いのが実情です。

ネットだけで選挙に勝つことは難しく、選挙においては、地上戦と空中戦を融合させることが必要であり、バーチャルの接触だけでは、ファン(⽀持者)は作れないのが現実でしょう。ただ、事前のネットでのバーチャルな接触によって、その後のリアルでの接触の価値が⾼まる可能性は⾼いと考えられます。

つまり、直接的に得票数に結びつくエビデンスは現時点で定かでなくとも、⼈を動員する、投票を呼びかける、“得票⼒”として化ける可能性は⼗分にあるといえます。こうした効果を⼗分に証明するためにも、定量的データを混合的に取り⼊れて効果指数を特定していく必要性があるでしょう。

アフターコロナの選挙をどう⽣き抜くか;ネット選挙が果たす未来

最後に、ネット選挙が今後主流になることを前提においた場合、ネット選挙運動が活発化することによって、どのような未来になっていくのか。

⼤きく期待される点としては、政治に関⼼を持てない若年層に対してSNSを通じて政治家との接触機会が増えることで、ユーザーとの距離が縮まり、投票率向上につながる可能性を秘めていることです。若者にとって政治をより魅⼒ある分野にしていくためには、政治家がネットでの露出を増やすことです。候補者が有権者にアピールする⼿段として、これまで以上にネットを使った⼿法が広く活⽤されることは間違いないでしょう。

公⽰⽇を迎えてからアカウントを開設する候補者や選挙が終わると更新がストップする候補者は多いのですが、国⺠は政治家の⽇頃からの情報発信の内容や発信しているその姿勢を⾒ていることを忘れてはなりません。

政治家は⾏政よりも⼀歩踏み込み国⺠に寄り添う気持ちを伝えることができ、また、応えることができる⽴場なのです。⾏政は「結論」しか発信することができないからです。今回のような緊急事態宣言の際には、政治家や知事はメディアに積極的に出てその地域の実情を⽣の声で説明する事が一番重要です。

例えばある⾃治体が緊急事態宣⾔を出した際に、⾏政は「緊急事態宣⾔をします」としか発信できません。しかし、住⺠はなぜこのタイミングで緊急事態宣⾔を⾏うことになったのか、意思決定のプロセスとこの先はどうなるのかという予測について知りたい。だからこそ、知事等の政治家が⾃らの責任のもとで⾏政では発信できない⽣の声を伝える姿勢が⼤切なのです。

私たち有権者にとって政治家のSNSは、報道のフィルターを通さずに⽣で政治家が考えていることにアクセスできるツールです。密に国⺠と対話をとり続けることは、政治に対する安⼼と信頼へとつながっていくでしょう。

6月18日から東京都知事選挙が始まりました。戦後初の緊急事態宣⾔が解除さたれたなかで、来年にオリンピック・パラリンピックを控える⽇本の⾸都、東京都の舵を託せる候補者を選ぶ重要な選挙になります。

6月17日に行われた日本記者クラブ主催の都知事選立候補予定者によるオンライン記者会見において、小池都知事は「これ(オンライン記者会見)も新しい日常の一つの形だと思います。私自身公務を最優先にいたしますので、基本的に #オンライン選挙 でやっていきたいと考えています。どこまでできるのか、いろいろと試していきたい。私の考えを都民の皆様に広くお伝えしていきたい」と回答しています。

筆者としても、各陣営がどのようにオンライン選挙の施策を行い有権者に向けて展開していくのか今後も注目していきます。ぜひ、⾃分の⼀票の投票先を決める判断材料として、候補者のSNSにアクセスすることで候補者の頭の中を⾒てはいかがでしょうか。