イージス・アショア中止でミサイル防衛体制に黄信号 微妙な政府代替案の、代替案

2020.07.29

政治

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海上自衛隊のイージス艦「まや」型 写真:海上自衛隊

このところミサイル防衛政策の議論が盛んだ。きっかけは河野太郎防衛相が新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止したこと。平成30年版の防衛白書 で「わが国を24時間・365日、切れ目なく守るための能力を抜本的に向上できる」と明記され、30年の運用コストも含め2基で4500億円といわれる費用をかける予定だった“陸地の盾”は宙に浮いてしまった。では、今後のミサイル防衛体制はどうなるのか? 相変わらず北朝鮮の挑発行動は読めないが、いざというときに国民を守る体制がなければ国の義務は果たせていないことになる。

イージス・アショアは特殊部隊の秘密上陸作戦で簡単に破壊可能

2020年6月15日、河野太郎防衛相がアメリカから導入予定の地上配置型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の「配備プロセスを停止する」ことを発表。突然のちゃぶ台返しに世間はびっくりだが、「ミサイル発射後に分離されるブースターの落下位置の制御が難しく、周辺住民の安全が保障できない」との理由に2度びっくり。

制御方法の研究開発には手間暇・コストが莫大にかかりとても割に合わない、との補足説明だが、それは以前から百も承知のはずで、逆にブースターの落下位置を制御するミサイルなど聞いたことがない。敵がまさに日本に核ミサイルを発射という状況下で、迎撃ミサイルのブースターが住民の頭上に落ちたらどうしようと悠長に心配することが、果たして本当に国民の利益にかなうのか理解に苦しむ。

イージス・アショア配備計画停止について記者たちに語る河野防衛相 写真:AP/アフロ

イージス・アショアの導入が決まった経緯に関しては、2017年にアメリカの新大統領に就任した“ミスター・アメリカ・ファースト”トランプ氏に対する安倍晋三首相の思いつき的な“貢ぎもの”との見方が大方で、無用の長物になること必至のイージス・アショアには運用する陸上自衛隊も辟易、との指摘も。

このため「純軍事的に考えると、河野防衛相の決定は英断だ」と皮肉交じりに評価する軍事専門家も多い。なぜならイージス・アショアは固定式で動かず、最初から場所がわかっているので、相手側の攻撃で簡単に破壊されてしまうからだ。弾道ミサイルによる飽和攻撃(対応できないほどのミサイルを撃ち込む)はもちろんのこと、日本に侵入した特殊部隊がイージス・アショアの数km程度まで接近、ここから迫撃砲で砲撃するだけでも致命的ダメージを与えられる。

北朝鮮が日本に核ミサイルを撃ち込まなければならない状況とは、金正恩委員長の側に立って考えればよくわかるはずで、まさに“最後の手段”の状況であり、自滅も覚悟したものとなる可能性が大。撃ち込んだ瞬間、日米安保条約に基づきアメリカが即座に核で報復、北朝鮮全土は焦土と化し金正恩体制も消滅すること確実だ。

それほどの覚悟で北朝鮮は核ミサイルの発射ボタンを押すのだから、その効果を最大限にしたいと思うのが自然で、露払いよろしく、日本に潜伏中の工作員や日本海側の海岸に上陸した特殊部隊でイージス・アショアを襲撃し破壊する可能性が非常に高い。

実際、イージス・アショアの配備予定地だった秋田と山口の陸自施設内は、どちらも日本海を望む場所。北朝鮮特殊部隊にとってこれほど容易な破壊目標はむしろないくらいだろう。北朝鮮工作員がやすやすと上陸を果たし、白昼堂々日本人を誘拐し続けたいわゆる「拉致被害者問題」の事実を考えれば、日本の防衛の脇がどれだけ甘いか、詳しい説明などいらないだろう。

政府では、イージス・アショアの代替案としてすでにアメリカに代金の一部を支払っている高性能レーダー「SPY7」 を地上に配備してミサイルを探知し、洋上に展開するイージス艦で迎撃する案を想定しているが、上記理由によって迎撃する前にレーダーの機能が失われる可能性は否めない。

イージスに気を取られている間に「尖閣」をとられる?

そこで、イージス・アショアの代わりに「さらにイージス艦を建造すればいいのでは」との声も少なくない。現在、海上自衛隊には「こんごう」型4隻、「あたご」型2隻、「まや」型2隻、計8隻のイージス艦が就役している。建造費は1隻あたり1500~1700億円で、乗員は約300人、8隻で計2400人が必要だ。

イージス艦は常に洋上を移動するため、北朝鮮がこれを狙い撃ちにすることは非常に困難。しかし問題なのがマンパワーとランニングコストで、特に前者が悩ましい。ただでさえ自衛隊は長年“兵員不足”にさいなまれており、実際海自の充足率は定員約4万5000人に対し現在約4万2000人と9割ほど、約3000人足りない状況。

少子高齢化を考えれば今後はさらに悪化すること必定で、仮にイージス艦を新造した場合、既存の海自隊員の中でやりくりしなければならず、他の既存艦艇の運用にも支障が出かねない。しかもイージス艦ばかりに気を取られ、普通の護衛艦の稼働率低下や隻数自体が減った場合、今度は中国がその状況を看過せず、海軍艦艇や海警局の船舶を日本周辺で跳梁跋扈、最悪の場合、尖閣諸島に上陸し実効支配、という悲喜劇も起こり得る。

「敵基地攻撃能力」の是非。トンネルに潜む北朝鮮のミサイルは狙い撃ち不可能

イージス・アショア配備の事実上中止を受けて、さっそく政府・与党内では自衛隊に「敵基地攻撃能力」を付与する案が急浮上、衆議院安全保障委員会で議論も始まった。専守防衛の国是から考えると果たして「自衛」の範囲なのか、国際法で禁止される「先制攻撃」との線引きはどうなのかなど、今後論議は紛糾しそうな雲行き。しかしそれ以前に、長距離対地ミサイルでのピンポイント攻撃で北朝鮮のミサイル発射基地を本当に事前攻撃できるのか自体、ははなはだ怪しいのが実情だ。つまりは皮肉にも前述したイージス・アショアの立場と全く逆の立ち位置となる。

「敵基地攻撃能力」を喧伝する政治家の多くは、北朝鮮側がしばしば公開する同国北西部、東倉里(トンチャンリ)でのミサイル発射実験の映像からイメージして、「ここを狙い撃ちにすればいい」と考えているフシがある。だがここはあくまでも実験施設で、「火星」シリーズを始めとする同国の弾道ミサイルの大半は移動式。発射台とミサイル本体が大型軍用トラックに載せられ、中国国境に近い北部の山岳地帯に網の目のように構築されたトンネル陣地網に潜み、発射命令が出されると数百台ものミサイル搭載大型トラックがトンネルから這い出し、即座に準備を整えミサイル発射。この間時間は数十分に過ぎず“5分以内”との観測も。

2019年8月に北朝鮮が行った移動式(大型トラック搭載)短距離弾道ミサイルの発射試験 写真:朝鮮通信

北朝鮮上空に無数の偵察機やドローンを飛行させ、同じく長距離空対地ミサイルを装備した戦闘攻撃機多数を24時間体制で飛行、核ミサイル発射と同時に即応……というフォーメーションなら話は別だが、仮に自衛隊が長距離対地ミサイルを持ち、数百km先からでもピンポイント攻撃が可能だとしても、トンネルから飛び出し発射するまで数十分に過ぎない目標を破壊するのは不可能に近い。もちろん相手側は“おとり”も多数盛り込むハズで、対象目標は下手をすれば数百単位になる可能性も。

「イージス・アショア」も長距離対地ミサイルによる「敵基地攻撃能力」も、“平和ボケ”国家の手前ミソ的なファンタジーに過ぎないと言えそうだ。ただし今回の白紙撤回の決定には、アメリカが目下開発中の対空レーザー兵器(ランニングコストは格段に安く連続発射も可能)がいよいよ実用化秒読みとの感触を受けたため、こちらに乗り換えようと考えたからでは、との憶測も。

目には目を。北朝鮮のみならず中国や同盟国にも意気込みを見せつける

北朝鮮が「いつ、どこから、どこに、どれだけ」弾道ミサイルを撃ち込んで来るかはまったく未知数。極めて高価な対空ミサイルで対抗するとなれば天文学的数字の費用が必要で、国家財政は破綻する。北朝鮮にとってはまさに「戦わずして敵に勝つ」という孫氏の兵法そのもの。

それよりは、「敵基地攻撃能力」→「反撃・報復する能力」という解釈に切り替え、ピンポイント攻撃が可能な長距離対地ミサイル(巡航ミサイルも含む)や、さらには弾道ミサイルを独自開発・調達、大量のミサイルを潜水艦や護衛艦、戦闘攻撃機、さらには地上発射型(大型トラックに積載し山間部のトンネルに秘匿)に装備して大量配備、「自前による報復手段」の存在を相手側にアピールした方が得策ではないだろうか。

もちろん核攻撃されれば被害は甚大で、また、アメリカの核報復を期待するのだが、ひょっとすると北朝鮮は日本の人口希薄地帯に核弾道ミサイルを1、2発だけ撃ち込んで“様子見”を決め込み、自らリスクを抱え込むことを嫌ったアメリカが報復攻撃を土壇場でためらうことだってないとは限らない。つまり「攻撃したらタダでは済まないゾ」という意気込みを北朝鮮はもちろんのこと、中国やさらには同盟国のアメリカにも見せつけることが重要だと考える。「ヘタに手出しすると日本は怖いな」と思わせるのも、いわば外交・国家安全保障の基本だ。