中国が尖閣諸島を欲しい理由と、日本の疲弊を狙った“サラミ戦術”

2020.08.28

社会

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尖閣諸島

コロナ危機において、「中国 vs 日本・アメリカ・オーストラリア・インド」の対立構図が先鋭化している。特に、香港国家安全維持法や中印国境での軍事衝突をめぐって、オーストラリアとインドはこれまで以上に態度を硬化させ、日本やアメリカに接近を図っている。安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は日米豪印の4カ国を基軸とするが、今まさに同構想は一帯一路など中国が描く構想と真っ向から対立するものになっている。  そのようななか、日本の沖縄県・尖閣諸島周辺では日中間の緊張が高まっており、連日のように中国船の侵入が報じられている状況だ。いったいなぜ中国はここまで尖閣諸島にこだわるのだろうか。改めて、その戦略的意味を考えてみたい。

中国が尖閣諸島にこだわる理由

東シナ海や南シナ海での漁業が解禁された8月16日以降、現在までに尖閣諸島・南小島沖の領海内に中国公船4隻が侵入し、その領海外では中国漁船6隻の操業が確認された 。中国は日本に対して日本漁船の尖閣への接近停止を要求したり、中国公船が日本の領海内に侵入して日本漁船を長時間に渡って追尾したりするなど、自らの支配権をこれまでになく強く示すようになった。

中国はなぜそこまでして尖閣諸島にこだわるのだろうか。

中国は尖閣諸島を固有の領土と主張し、台湾や香港と同じように自らの核心的利益 に位置づける。しかし、中国が固有の領土と主張し始めたのは、1969年に国連が東シナ海で石油埋蔵の可能性があることを発表して以降であり、“固有の領土”とは程遠いものがある。

また、中国からすると、尖閣諸島は米軍が駐留する沖縄本島だけでなく、台湾にも距離的に非常に近く、アメリカや日本、台湾を軍事的にけん制するには都合の良い場所にある。要は、中国にとって尖閣諸島は経済上、安全保障上重要な意味があると解釈すべきだろう。

南シナ海 の南沙諸島や西沙諸島では、中国による軍事拠点化が一方的に進んでいるが、中国には“尖閣諸島の南シナ海化”を進める意図があることは想像に難くない。また、仮にそうなれば、尖閣諸島を一つの拠点として、中国の西太平洋進出にもいっそう拍車が掛かることになる。中国にとっても大陸からできるだけ離れた陸地に軍事拠点を多く設置できれば、それに越したことはない。

台湾は8月13日、2021年の防衛費を今年から10.2%増額 することを発表したが、これは台湾への軍事的圧力を高める中国を念頭に置いたものである。中国人民解放軍の東部戦区も同日、中国大陸と台湾の間にある台湾海峡やその周辺で軍事演習を数回にわたって実施したと明らかにしたが、尖閣諸島の南シナ海化が実現すれば、台湾は西や南からだけでなく、北からも中国の軍事的脅威に直面することになる。

小笠原諸島にも目をつける中国

一方、中国はそこを飛び越え、太平洋に浮かぶ小笠原諸島にも戦略的意味を見出している。2020年7月上旬、日本の最南端沖ノ鳥島付近の排他的経済水域で、中国の海洋調査船が海中にワイヤーのようなものを下ろし、海洋調査を行っている様子を海上保安庁の巡視船が発見した 。しかし、小笠原諸島での中国船の海洋活動はこれが初めてではない。

2014年9月中旬、父島や母島の近海では中国船によるサンゴの違法密漁 が明らかになり、10月中旬まで一日に発見される船は30〜50隻だったが、同月下旬から11月中旬にかけては一日190 隻~200隻あたり発見されるなど、中国船によるサンゴの違法密漁が大きな問題となった。小笠原周辺海域で獲られたサンゴは、中国国内では非常に高値で取引されることから、2014年の問題の背景には経済的理由が強かった。

だが、漁船の武装化や中国海警局と軍の融合が進むなかでは、経済と政治を一体化した国防戦略を構築していくことが重要となる。2013年6月、中国の国家主席・習近平氏はアメリカを訪問し、当時のオバマ大統領に、「太平洋には中国とアメリカを受け入れる十分な空間がある 」と伝えたことがある。これは太平洋分割統治論とも呼ばれるが、ハワイより東をアメリカが、西を中国が統治するという考え方だ。太平洋へ影響力を拡大したい中国からすれば、人口が非常に少なく、尖閣諸島や台湾、南シナ海と違って政治紛争化していない太平洋に浮かぶ小笠原諸島は地政学的にも都合が良い。

また、中国には戦略上の 概念として、地図上に第1・第2列島線というラインがある。小笠原諸島は伊豆半島からグアム、パプアニューギニアにいたる第2列島線上に位置する。中国の戦略の中には、第2列島戦をさらに遠方に展開した、ハワイからサモアを通り、ニュージーランドにいたる第3列島線もあるが、今後太平洋でアメリカと対峙していくためには、第1列島戦の内側だけでなく、第2列島戦や第3列島戦などにも紛争拠点を分散化させていきたい狙いも想像できる。

日本相手にも持久戦を想定

当然ながら、尖閣諸島の南シナ海化や紛争拠点の分散化が短期的に実現する可能性は極めて低い。特に、尖閣諸島が政治的に非常に敏感な問題であることは習近平政権も十分に承知であり、軍事的な緊張を一気に高めるような行動はできるだけ回避するだろう。しかし、中国は持久戦を想定しており、小さな行動を積み重ねて徐々に自らに有利な環境を作っていく“サラミ戦術”を採る。

よって、尖閣諸島近海で中国船が航行を繰り返すのはそのサラミ戦術の一部であり、尖閣諸島の問題は長期的に続くことになる。中国が狙っているのは、海上保安庁や日本の国防政策の“疲労、疲弊”である。今後とも中国による日本を“疲れさせる戦術”は続く。