13年前の記憶が蘇る。その日、政治部に配属されたばかりの私は、首相官邸のホールで「安倍首相辞任」というニュース速報に衝撃を受けた。その時点で首相が辞めると思っていた記者はほとんどおらず、「こんな誤報を打ったテレビ局は大丈夫か」と本気で心配したほどだ。それから13年後の今日、再びテレビ画面に「安倍首相辞任」のテロップが流れた。
まさか事実上の辞任会見になるとは…
8月28日の午後5時から、首相が記者会見を開くというのは数日前からわかっていたことだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府の追加対策を発表するのがメインだが、17日、24日と2週にわたって慶応大病院で検査や治療を受けていることから、体調面にも言及するだろうとみられていた。
しかし、13年前は参院選に負けて衆参で第一党が異なる「ねじれ国会」となり、法案の成立をめぐって野党から執拗な攻撃を受けていた時期。新型コロナ対策が大変とはいえ、安定的な政権基盤が整い、自らの連続在任日数も歴代1位となった現在の状況とは大きく異なる。
また、辞任を表明するなら事前に会見の設定など公表しないはず。首相は「必要な検査や治療を受け、今後もしっかりと職務を全うする」など、堂々と語るんだろうなと思っていた。
きな臭さが一気に増したのが27日夜。政権の大黒柱である麻生太郎副総理兼財務相が自ら率いる麻生幹部を集めて緊急会合を開いたのだ。「明日の会見で何かあるのか」。永田町内がざわつき始めた。
翌28日、朝の定例閣議後に首相が麻生氏と1対1で35分間面会。さらに、首相が自民党本部に入り、二階俊博幹事長との会談を始めた14時過ぎ、NHKがニュース速報を流した。ちなみに13時過ぎが締め切りである新聞各紙の夕刊には辞任のことは一切、触れられていない。
次期総裁選は両院議員総会か通常投票かで大きく異なる
今後の焦点は「ポスト安倍」だ。13年前は総裁選で福田康夫氏が麻生氏を破って当選。その福田氏も1年で政権を投げ出し、後を継いだ麻生氏が総選挙で惨敗して民主党に政権の座を譲ることとなった。
今回も近く総裁選を行い、次期総裁、つまり次期首相を選出することとなる。軸となるのは岸田文雄政調会長と石破茂元幹事長の2人。その場合、両院議員総会で決めるか、通常の投票で決めるかで、結果が左右される可能性がある。両院議員総会なら国会議員票の比重が重く、通常の投票なら地方議員や党員の票がより強く反映されるためだ。
両院議員総会なら第四派閥を率い、第二派閥を率いる麻生氏とも近い岸田氏が有利。通常の投票なら国民人気の高い石破氏が有利となる。政権の継続性を重視して菅義偉官房長官や麻生氏を推す声もあるほか、河野太郎防衛相なども立候補に意欲を示す可能性がある。
次期首相は新型コロナウイルスとの戦いの最前線に立つほか、来年に開催予定の東京五輪の顔となる。また、来秋(2021年10月)に衆院議員の任期満了を控えており、総選挙を戦うことになる可能性が高い。誰が就いても大きな責任がのしかかる。