菅内閣発足 実務重視の“菅カラー”を世間はどう評価する?

2020.9.17

政治

0コメント
菅内閣発足 実務重視の“菅カラー”を世間はどう評価する?

写真:ロイター/アフロ

自民党の菅義偉総裁が9月16日の臨時国会で新首相に選出され、同日夕に菅内閣を発足させた。15日に決めた党役員人事は自身の総裁選出を後押しした主要派閥に配慮したが、閣僚は実務派型のメンバーを揃えた。派手さを演出せず、仕事に徹するという“菅カラー”がさっそく表れた。

主要5派閥の重鎮をバランスよく配置

菅氏は9月16日に召集された臨時国会で第99代内閣総理大臣(首相)に選出。菅新首相は首相官邸で閣僚の呼び込みを行い、皇居での首相任命式と閣僚認証式を経て、自民、公明両党の連立による菅内閣が発足した。首相交代は2012年12月以来、7年8カ月ぶりとなる。

菅氏は組閣に先立ち、15日に党役員人事を正式決定。自らを推した二階派の二階俊博幹事長と石原派の森山裕国会対策委員長を再任し、総務会長に麻生派の佐藤勉氏、政調会長に細田派の下村博文氏、選挙対策委員長に竹下派の山口泰明氏を充てた。

派閥からの推薦を受けないと語っていた菅首相だが、自らを支持した主要5派閥の重鎮をバランスよく配置した格好。ただ、真っ先に菅氏支持を打ち出し、菅首相誕生の流れを作った二階氏が歴代最長の就任期間を更新したにもかかわらず、引き続き党の資金を握る幹事長を続投することには一部の派閥から不満が漏れる。派閥の要求するポストがかなわなかったり、派閥の要望と異なる議員が“一本釣り”されたりしたという声もある。

無派閥ながら主要派閥の後押しで首相の座に就いただけに、菅氏は今後、党内のパワーバランスの調整に苦慮する可能性がある。

自らの後任には加藤勝信元厚労相を起用

一方で、15日までに内定した閣僚の顔ぶれは“実務型”の議員を揃えた印象だ。麻生太郎副総理兼財務相や西村康稔経済再生・新型コロナウイルス対策担当相、橋本聖子五輪担当相、小泉進次郎環境相など8名を再任。厚生労働相には田村憲久元厚労相、法相には上川陽子元法相、国家公安委員長には小此木八郎元国家公安委員長を以前と同じ役職に再起用した。

平井卓也元IT担当相も以前の役職に近いデジタル担当相として再入閣させ、武田良太国家公安委員長は総務相に、河野太郎防衛相は行政改革・規制改革担当相に横滑りさせる。再任や再起用、閣僚ポストの横滑りが過半数を占めることから、菅氏が安倍政権の承継や実務面を重視したことがわかる。

その象徴は自らの後任となる官房長官に起用する加藤勝信厚労相だ。加藤氏は大蔵(財務)官僚出身で、かねて永田町では「仕事のできる議員」として知られていた。2012年に第2次安倍政権が発足すると官邸を支える官房副長官に就任。2014年に幹部官僚の人事を束ねる内閣人事局が発足すると初代局長に就き、その後は2015年に一億総活躍相として初入閣、2017年には重要閣僚である厚労相に就任するなど安倍首相の側近としてキャリアを重ねてきた。

菅氏が長く務めた官房長官は一日に2回、記者会見を開くなど政権のスポークスマン、首相の代弁者であると同時に、各省庁の調整役という難しい役回りを担う。官房長官候補として河野防衛相の名前が挙がっていたのは前者の役割を期待されてのことだが、菅氏は派手さがないものの、実務型である加藤氏を選んだ。意味するところは発信力よりも政策実現を重視するということで、この選択も“菅氏らしさ”と言える。

実務重視の“菅カラー”を世間はどう評価する?

初入閣は5人。安倍晋三首相の実弟である岸信夫元外務副大臣が防衛相、平沢勝栄元内閣府副大臣が復興相、野上浩太郎元官房副長官(元国土交通副大臣)が農林水産相、坂本哲志元総務副大臣が一億総活躍相、井上信治元環境副大臣が新設の万博担当相に就く。いずれも副大臣経験者で、経験や実務能力を認められての入閣とみられる。

万博担当相の新設は大阪を拠点とする日本維新の会への配慮ともとれる。安倍政権時から菅氏は安倍首相とともに日本維新の会の元代表である橋下徹元大阪市長や現代表の松井一郎大阪市長らと会談を重ねており、今後、日本維新の会との連携を模索する可能性もある。万博担当相の新設などで閣僚の数は19人から20人に1枠増えた。

一方、今回の組閣に当たって目玉人事は見送られた。発信力の高い河野氏や小泉氏の重要閣僚起用や橋下氏らの民間人、自らに近い元女優の三原じゅん子氏、右派から人気の高い稲田朋美元防衛相らの登用も見送られた。「ジェンダーフリー社会」の象徴として近年は意識的に女性を積極的に登用する傾向があるが、女性閣僚は3人から2人に減った。党役員も野田聖子幹事長代行や丸川珠代広報本部長が起用されただけで目新しさはない。これも見た目を繕うのを嫌う“菅カラー”といえるかもしれない。

「派手さを抑え、実務型を揃えたということは早期解散がないのでは」。永田町では早くもこんなうわさが飛び交っている。ただ、そう思い込むのも早計だろう。菅カラーを押し通したことで内閣支持率が上昇すれば、解散には好機となる。戦略家の菅氏はチャンスと見れば油断する野党の隙をついて解散・総選挙に打って出る可能性は大いにある。当面は菅新首相の動きから目が離せなさそうだ。