永久凍土が解けだした? 北極の航路と資源をめぐる覇権争い
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永久凍土が解けだした? 北極の航路と資源をめぐる覇権争い

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北極と聞くとホッキョクグマやアザラシなど動物の生態系、もしくはブリザードや地球温暖化による海氷融解など自然の生態系を思い浮かべる人が大半だろう。しかし、近年、北極は国際政治の世界でも大変注目を集めている。その背景にあるのは、北極海の海底に眠る天然資源であり、現在世界で採取されていない石油の13%、天然ガスの30%が眠っているといわれ、国家間の資源獲得競争の新たな場所になっているのだ。

国際政治的には北極海はいつでも凍っていたが…

アメリカのNASA(航空宇宙局)は9月21日、2020年の北極海の海氷面積が観測至上2番目の狭さになったと発表した。NASAによると、9月15日時点の総面積が374平方キロメートルで、2012年9月17日の約339平方キロメートルに次ぐ狭さとなり、地球温暖化の影響で今後さらに海氷面積が最小を記録する可能性があるという。多くの人がイメージするように、冬の北極海はほぼ全域が氷に覆われるが、夏から秋にかけての9月中旬に最も氷の面積が小さくなる。

北極海の氷が解けるということは、要はそこが水となって船が航行することが可能となり、その下に眠る海底資源へのアクセスが可能になるということだ。その可能性を秘めた北極海が、エネルギー安全保障上も大国を中心とした各国にとって魅力的な市場であることは言うまでもない。そのため、これまでの国際政治は“北極海はいつでも凍っている”という前提で発展してきた。

北極海に領海や排他的経済水域(EEZ)を持つ国は、アメリカとロシア、カナダ、ノルウェー、デンマークの5カ国で、この5カ国が中心となる北極評議会が北極海の行方について話し合うが、中国はオブザーバー国として長年参加し、北極開発のルール作りで影響力を高めようとしている。

アメリカのポンペオ国務長官は2019年5月、訪問先のフィンランドで北極海をめぐる情勢について演説し、「北極海は新たな戦略空間となっているが、関係各国は共通のルールに基づいて行動するべきだ」との認識を示し、また、「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と中国を強くけん制した。

中国が掲げる「氷上のシルクロード」構想

中国は2018年1月、北極開拓についての戦略を掲げた「北極白書」を初めて発表し、ロシア側の北極海沿岸を通ってアジアと欧州を結ぶ第3の一帯一路、「氷上のシルクロード」構想を打ち出した。また、ロシアやノルウェー沿岸、アイスランドやデンマーク領グリーンランドへ投資を拡大したり、独自の砕氷船「雪竜」で北極海横断を成功させたりするなど、積極的な関与を見せている。

近年、一帯一路の恩恵を受ける国々の中には、スリランカやパキスタンのように深刻な債務の罠にかかっている国もあるが、中国としては莫大な資金を利用し、カナダやノルウェー、アイスランドやデンマーク(グリーンランド)へ同様のアプローチを仕掛け、影響力を高めようとしていることは想像に難くない。

中国が北極海航路を好む理由は他にもある。それは東アジアと欧州を結ぶ海上貿易路を考えた場合、例えば、東京ロンドン間ではスエズ運河経由では約2万1000キロ、パナマ運河経由では2万3000キロだが、北極海航路では16000キロになり大幅なショートカットになるのだ。

もちろんブリザードなど北極の厳しい気象条件を考えると決して簡単な道のりではないが、かかる日数や輸送燃料費などからすると北極海航路が魅力的であるのは事実だ。日本からロンドンやパリに向かう飛行機はロシア上空を、弧を描くように飛行するが、それと同じだ。

ちなみに、最大沿岸国であるロシアも、9月下旬に最新型の原子力砕氷船を新たに完成させ、港湾都市サンクトペテルブルクから運用拠点となっている北極圏の町ムルマンスクに向けて出航したという。ロシアとしては自らのお庭といっていい北極海で中国やアメリカに自由にさせたくないと考えており、まさに北極海をめぐる大国間の覇権争いが生じている状態だ。

中国が本腰を入れると日本海が覇権海域に

しかし、中国が氷上のシルクロード構築に向けて本腰を入れるということは、それは必然的に日本近海を通過することになる。具体的には、九州の北にある対馬海峡から日本海に出て、宗谷海峡や津軽海峡を抜けベーリング海に抜けるルートだ。

また、中国吉林省の最東端に琿春(こんしゅん)という都市があるが、ここは中国とロシア、北朝鮮の3カ国の国境地帯で、中国国境の先から日本海までは約15キロの距離にあり、現在北朝鮮とロシアが日本海に面し、中国国境の延伸を防ぐ形となっている。だが、中国が北極戦略を重視するようなれば、そこが戦略的要衝となり、港の使用権などで北朝鮮へ積極的に根回しをしてくる可能性もある。

いずれにせよ日本海が新たな覇権海域になるのであり、日本の海洋安全保障環境を大きく変える恐れがあるということだ。中長期的には、中国が軍を交えて氷上のシルクロード構築に乗り出している可能性も否定できず、日本の国防上も重大な問題である。

近年、日本企業も北極開発に積極的な活動を見せているが、北極は生態系や経済上の問題だけではなくなっている。国際政治、安全保障上の問題にもなっており、多角的な視点から北極問題を考えて行く必要があるだろう。