前代未聞の大統領選で“内戦状態”のアメリカ

写真:ロイター/アフロ

社会

前代未聞の大統領選で“内戦状態”のアメリカ

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トランプ大統領は10月5日、新型コロナウイルスの治療のため滞在していた病院から退院した。「もう私は大丈夫だ、選挙戦に戻って勝利する」と元気な顔を見せ、ツイッター上では「コロナに恐れるな」とツイートするほどだ 。しかし、新型コロナウイルスへの感染が発覚して以降も車に乗って外に出るなど、他者への感染リスクを気にしない姿勢に国民の間では憤りの声が上がっている。トランプ大統領本人のほかにも、メラニア夫人やマクナニー報道官などホワイトハウス関係者の感染が相次いでおり、米メディアのよると、先月下旬の保守派裁判官の最高裁判事への任命式で感染クラスターが発生したのではないかと報じられている。果たしてあと一ヶ月を切った本選の行方はどうなるのだろうか。

トランプ大統領と新型コロナウイルスの関係

今となっては、トランプ大統領と新型コロナウイルスの関係は非常に複雑だ。今年1月以降、中国・武漢を初めとして新型コロナウイルスが世界中に広がり、アメリカは感染者数と死亡者数でその最大被害国となっている。新型コロナウイルスはこれまでの米中対立にさらなる拍車を掛けているが、トランプ大統領は新型コロナウイルスを“中国ウイルス”と呼んで中国への非難を強化した。現在でも中国は発生源の特定などで国際社会が納得する行動を取っておらず、トランプ大統領が中国への不信感を積もらせるのは当然だが、その当時、新型コロナウイルスは大統領選挙で再選を狙うトランプ大統領にとって、支持を維持・拡大させる上で一つのチャンスだった。近年、米国内で高まる中国脅威論のなか、新型コロナウイルス問題を対中批判の材料に上手く使いたいという意図はトランプ大統領の頭の中にもあったことだろう。

しかし、マスク着用を軽視する姿勢などに批判の声が高まるなか、トランプ大統領自身が新型コロナウイルスに感染したことが判明し、トランプ大統領にとって、新型コロナウイルスは支持率上昇どころか支持率低下を招く厄介なものに変化している。正に、中国発祥とされる新型コロナウイルスは、中国を最も非難してきた相手の政治生命に終止符を打とうとしているのである。

大統領選の行方はどうなるか

さて、トランプ大統領の新型コロナ感染が判明し、一ヶ月を切った本選の行方はどうなるのだろうか。まず、トランプ大統領としては、「まさか自分が感染するとは!」と思っていたに違いない。十分な治療を受けたかも分からないなか職場復帰するということからは、かなりの焦りを感じていることだろう。だが、本選まで一ヶ月を切るなか、できることには限りがあるというのが大方の見方だ。ホワイトハウスにも近い米国人研究者に聞いても、今回の感染判明によって、トランプ大統領もこれまでの新型コロナを軽視する発言や行動はできなくなり、仮にコロナ軽視を続ければさらなる支持率低下を招くという。

また、トランプ大統領支持者の中には白人至上主義を掲げるグループや個人も多くいるが、そういった白人至上主義者たちはトランプ大統領を同主義のシンボルと位置づけており、新型コロナに感染したからといって支持を止めるわけではない。それどころか、トランプ大統領の劣勢が今後さらに明らかになると、テロや暴力など過激な活動をエスカレートさせる恐れがある。

一方、トランプ大統領のコロナ感染によって、バイデン候補はさらに有利になった。最新の支持率では、バイデン候補が53となっているが、ここまで支持率で開きが出るのは初めてだ。第1討論会でのトランプ大統領の態度が酷かったことが影響したのだろうが、今回のコロナ感染でさらに開きが出る可能性もある。第2回討論会が15日、第3回討論会が22日にそれぞれ実施されるが、そもそもトランプ大統領が参加するのか分からないが、バイデン候補の対応はもっと“余裕じみた”ものになってくるだろう。

前代未聞の大統領選挙

現状はバイデン候補有利の展開で進んでいるが、ここまで候補者同士の話が噛み合ない大統領選挙を見るのは初めてだ。これまでも討論会で荒れることはあったが、理念やイデオロギーがなく、政策論争がここまで目立たない討論会はなかった。現在の大統領選挙から見えるのは、“米国の分断”である。トランプ大統領支持者の大多数は白人で、そういった白人は黒人やイスラム教徒など移民・難民を排除する姿勢を露骨に示し、外に出てはトランプ大統領を支持する集会を行っている。また、黒人男性の殺害などをめぐっては多文化主義を訴える非白人層を中心とするグループの抗議活動も活発になり、正に今のアメリカは“一種の内戦”状態にあるといえる。

また、今回の大統領選挙からは、世界のリーダーとしてのアメリカの姿はあまり見えてこない。これまでの選挙であると、“国際社会をリードするアメリカ”の姿が滲み出ていたが、特に、今のトランプ大統領からは“一国のリーダー”以前に、“トランプ支持者たちの中でのリーダー”しか見えてこない。まさに、前代未聞の大統領選挙だ。