菅内閣の目玉政策、「デジタル庁」新設で暮らしは変わるか

2020.10.9

社会

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菅内閣の目玉政策、「デジタル庁」新設で暮らしは変わるか

9月に就任した菅義偉首相が打ち出した目玉政策の一つが「デジタル庁」だ。行政のデジタル化をけん引する組織として、2021年中に発足させる方針を明言した。コロナ禍で行政分野でのIT化の遅れが浮き彫りとなった日本。デジタル庁ができれば私たちの暮らしはどう変わるのだろうか。

菅政権の目玉施策「デジタル庁」の創設へ

「新しい成長戦略の柱として、我が国の経済活動を大転換する改革だ」。9月30日、デジタル庁創設に向けた「法案準備室」の立ち上げに際し、菅義偉首相は職員にこう訓示した。

デジタル庁創設の司令塔となるのは平井卓也デジタル改革担当相。大手広告代理店への勤務経験があり、自民党内ではITやデジタルへの造詣が深い議員として知られる。選挙活動でのインターネット利用の解禁でも党内で主導的な役割を果たした。2018年10月から約1年間は安倍内閣の内閣府特命担当大臣としてIT政策も担当した経験もある。

IT関連といえばサイバーセキュリティ担当にも関わらず「パソコンを自分で使ったことがない」などと発言し、世間の失笑を買った閣僚もいたが、平井氏にはその仕事ぶりに期待が集まる。平井氏は就任会見で「デジタル庁の設置法などを一気にやらなければならない。時間はタイトだが、スピード感をもって臨みたい」と意欲を示した。

準備室の職員は経済産業省総務省、厚生労働省の職員ら約50人に加え、民間人を10人ほど追加する方針。準備室では年内に基本方針をまとめ、2021年1月に召集する通常国会に関連法案を提出する。より強い権限を持たせるために他省庁と横並びにするのではなく、首相の直轄組織とする案も検討するという。

デジタル庁構想の背景にあるのは新型コロナウイルスの感染拡大を機に、行政分野でのIT化の遅れが次々と明らかになったことだ。各国政府が収入減で苦しむ国民向けに早々と現金給付を進めるなか、日本ではマイナンバーカードの普及が遅れていることや、行政手続きのIT化が進んでいないことから給付の実現に多大なる時間とコストがかかった。

政府が経済対策の一環として全国民に配布した一人一律10万円の特別定額給付金の支給を決定したのは4月だが、自治体が振込口座を確認する作業などに手間取り、8月になっても届かないという声が全国で相次いだ。

平井氏は支給の事務作業に約1500億円を要したとして「デジタルの世界で考えるとありえないコスト」と指摘。菅首相からデジタルを前提として法律や規制など、あらゆる面での改革を行うよう指示されたことを明かしている。

省庁間の縦割り排除も大きな課題だ。中央省庁では省庁間ごとにシステムの調達をしており、データのやりとりがうまくいかないという現実がある。国の出先機関や地方自治体、各行政機関との間ではなおさらだ。デジタル庁が各省庁のシステムの一括調達を進めることができれば、データ様式を統一していくことが可能。中央省庁だけでなく、出先機関や地方自治体、各行政機関とのデータのやりとりをスムーズにし、行政の手続きを迅速化することが可能となる。

デジタル化による具体的なメリットは?

例えば会社を設立し、税金を納めようとすると国と都道府県、市町村にそれぞれ設立届けなどを出さなければならない。内容はほとんど同じだが、様式が微妙に異なる。しかも現状は紙の提出が基本で、いちいち書いて提出するのは非常に面倒で生産性が低い。

しかし、各省庁や自治体のデータ連携が進めばオンライン上で一括申請すれば国にも都道府県にも同じ情報が瞬時に届くことになる。紙でなく、データで受け取る方が行政側も処理が楽だし、わざわざ役所に出向く機会が減れば行政側の仕事もはかどるし、感染症が拡大するリスクも減る。引っ越しや社会保障の手続きなど、私たちの暮らしのあらゆる行政手続きにおいて同じことが言える。

行政手続きのオンライン化のカギを握るのがマイナンバーカードの普及だ。社会保障と税の手続きに活用する目的で、2016年に開始した12桁のマイナンバー。個人を認証し、あらゆる行政手続きなどに活用してもらうためにマイナンバーカードを無料で発行できるが、現時点での普及率は全国民の2割弱。政府は2022年までに大半の国民がカードを保有する目標を掲げるが、現時点では達成は見通せない。

政府はマイナンバーカードを発行し、キャッシュレス決済と紐づけた人に「マイナポイント」という特典を付与するキャンペーンで普及率の引き上げを図っているが、あらゆる年齢層の国民に浸透しているとはいえない。デジタル庁が音頭をとって行政のオンライン化を進め、マイナンバーカードを使えばどれだけ暮らしが便利になるか、具体的にメリットを示すことができればマイナンバーカードの普及にも寄与するだろう。

コロナ禍で働き方を見直す動きが一気に加速したが、行政分野のIT化の遅れは在宅ワークやリモートワークの普及の壁にもなっている。自宅にいながらパソコンやスマホを使ってあらゆる行政手続きを済ますことができ、民間の仕事も行政の仕事も生産性が上がる。そんな大改革につながるか、またもや省庁間の綱引きによって小粒な改革に終わるか。鍵を握るのは菅首相の本気度に他ならない。