DXのすすめを語る“日本のインターネットの父”、村井純教授 写真:武田信晃

社会

DX推進は、誰もおいてけぼりにしないことが大事【東京DXシンポジウム】

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政府は「デジタル庁」の新設など国家レベルでデジタル化を進めていく方針を示している。そんななか、東京都は2020年10月12日に「ポスト・コロナを見据えた東京のDXの推進に向けたオンラインシンポジウム」を開催。小池百合子都知事のほか、アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長、“日本のインターネットの父”と呼ばれる慶応大学の村井純教授らが参加。これからのデジタルトランスフォーメーション(DX)について議論した。

デジタル化で後塵を拝する日本がすべきこと

新型コロナウイルスの感染拡大で露見した、世界と比べて日本のデジタル化が遅れているという事実。9月に発足した菅政権はデジタル改革担当大臣を新設し、行政のデジタル化を推進している。その動きに倣うように、東京都議会は10月に改正東京デジタルファースト条例を可決、行政手続きのデジタル化やワンストップ化を基本原則とし、「ペーパーレス」、「FAXレス」、「タッチレス」、「はんこレス」、「キャッシュレス」の5つのレスを行うとしている。

シンポジウムの開催に当たり小池知事は、「コロナ禍で日本のデジタル化は各国の後塵を拝していることが浮き彫りになった。これをチャンスとして世界から選ばれる都市として東京都がDXを徹底していく」と表明した。

シンポジウムはオンラインで行われた

参加者が基調講演を行うなか、村井教授は「DXとは何か?~デジタル技術が東京をどのように変えていくのか~」をテーマに登壇。「自宅ですべてのことをやる」「オフィスに行かなくても仕事をする」「3食家族全員が自宅で食事」などが新型コロナウイルスで経験した出来事とし、DXを進めていく上で「一人も置いてきぼりにしないことが大事」ということを挙げた。「今までは、ついてこられない人がいるかもしれないから気を使って“やらない”という感じで何度も繰り返されてきた。これからは置いてきぼりをさせない方法を頑張って考えて、完全デジタル化する」とした。

アマゾンジャパンのチャン社長は、「アマゾンのビジネスモデルそのものがDXといえる。これから大事なのはオンライン、オフラインの選択肢が消費者にあること。アマゾンのオフィスで働く社員の多くがコアタイムの無いフレックス勤務。在宅はコロナ前から行っていたが、感染拡大で2021年1月8日まで行うことを決め、実際9割近くが在宅勤務となっている」と実情を語った。「倉庫内ではAIを駆使して可視化する仕組みをつくり、倉庫内の安全対策も行った」とも述べた。

アマゾンのクラウドコンピューティングサービス「AWSクラウド」は大阪のコロナ追跡システムで使われており、教育分野では遠隔授業や講義が可能なコミュニケーションツール「Amazon Chime(アマゾンチャイム)」が利用されている。また、医療分野では規制が緩和されたことによりオンライン診療が広がったが、医療機関等の情報インフラやヘルスケアデータの連携基盤としてAWSクラウドのサービスを活用する例も増えている。

目的と意義を見える化できるかどうか

パネルディスカッションでは、各参加者から多数の有意義な提案・発言が。

ネットイヤーグループの石黒不二代社長は、DXにも種類があり、「働き方改革、ペーパーレスなど企業内部のことを行う“守りのDX”と、デジタルを使って企業の新しいビジネスモデルを作り出していくなど企業の成長に寄与するのが“攻めのDX”」と話す。

一方チャン社長は、「重要なのは人材の育成で、企業も行政もDXはITや開発部門に任せるだけでは成功できないと考える。経営者、政治家などいろんな分野の人たちが、DXを自分の世界の中でどうやって発揮できるのか? データを理解した上で自分の中でどう展開していくのか?というようなことを考えられる人材がすごく大事」とテクノロジーを生かせる人材の重要性を説いた。

オンラインで参加したアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長

シナモンの平野未来社長は、「AIの観点から言うと、政府の方々はコスト削減の手段と取られているがそれは違っている。競争戦略という視点から見ると、アメリカのレモネードという急成長している保険会社は90秒で保険に加入でき、事故に遭ったら数分でお金が返って来るというユーザーエクスペリエンスをAIによって実現している。これは人間では無理で、AIだからこそ可能なこと。こういった視点が欠けている」とコストが先に出てしまう風潮に異議を唱えた。

慶応大学医学部の宮田裕章教授は、「デジタルを導入するのが目的ではなく、どう生活を変えるのかという価値からのデザインが重要だ。給付金でみても、今までは個別化はコストがかかり過ぎる状況だったが、データとAIを使えば個別でサポートして誰も取り残さないことを、コストをかけなくても実現できるようになる」と語った。

デジタルに弱い人の中は、DXによる大きな変化について「変わりたくない」という防衛本能が働く人も少なくないだけに、DXをすれば何が良くなるのかというのを実感できる、目に見えるようにしないと進めることは難しい。そのためにも、どれだけ大勢の意志の人たちを巻き込めるのかが重要となりそうだ。