国際金融都市、東京へ! 外国企業のヘッドクォーターを誘致せよ

2020.12.15

社会

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国際金融都市、東京へ! 外国企業のヘッドクォーターを誘致せよ

「ビジネスコンシェルジュ東京」香港窓口の様子。窓からは対岸にある香港島を望む

東京都は、東京進出に関心のある海外企業の誘致や人材に対応するため「ビジネスコンシュルジュ東京」を設けている。2020年10月からは、海外初となる窓口を香港に開設した。世界で繰り広げられている企業誘致や、優秀な人材獲得競争に東京はどのような取り組みをしているのか?

「ビジネスコンシェルジュ東京」とは

「ビジネスコンシェルジュ東京」は、東京で起業や事業展開を考えている海外企業を対象に、ビジネス面から生活面までのトータルな支援を提供することを目的に東京都が設置する窓口で、2012年から始まっており、丸の内と赤坂に事務所を構えている。

香港やシンガポールなどは、外国企業のアジアにおける「地域統括本部」を誘致しようとしのぎを削っているが、東京都も都内の「アジアヘッドクォーター特区」に進出を計画している外国企業に、ビジネス交流支援や専門的なコンサルティングサービスを提供している。

アジアヘッドクォーター特区

国際戦略特区の一つとして2011年に国から指定。対象は、東京都心・臨海地域、新宿駅周辺地域、渋谷駅周辺地域、品川駅・田町駅周辺地域、羽田空港跡地、池袋駅周辺地域の6エリア。東京の国際競争力を向上させ成長へと導くため、特区内に、外国企業のアジア地域における拠点の集積を目指している。

日本企業に勤める会社員には想像しづらいかもしれないが、あなたが、自分の企業が外国に進出するプロジェクトを任されたと想像するとわかりやすいかもしれない。当該国・地域に進出し登記するときの行政手続、法律、金融制度、人材獲得、オフィス探しといったビジネスに直結するものから、住居、学校、医療制度などの生活環境まで何をどうすればいいかネットで調べるだろう。しかしすぐに途方に暮れることになるはずだ。

「ビジネスコンシェルジュ東京」は、これらの懸念事項のサポートについて、東京進出を考えている外国人、外国企業に一括で提供しようとする制度なのだ。

金融分野に注力、香港・シンガポールのようなハブに

そこで、このプロジェクトを手掛ける東京都戦略政策情報推進本部戦略事業部国際金融都市担当課長の朱宮譲氏に話を聞いた。

「東京都としては『アジアヘッドクォーター特区』を進めようという活動のなかで、まずは東京を知ってもらうということで窓口を作りました。続いて2017年に国際金融に力を入れて誘致していこうということで『金融ワンストップ支援サービス』というのを金融庁と連携して始めました。3つ目のステップとして、海外初の窓口を香港に開設しました。これはアジアを強化するという意味があります」(朱宮氏、以下同)

香港窓口は尖沙咀(Tsim Sha Tsui)という香港の一等地に構える

特区へ誘致するというなかで日本が得意とする製造の分野があるが、金融に力を入れようと考えた理由は何だろうか。

「製造業を誘致するとなると“土地”の課題が出てきますが、東京の不動産価格などを勘案すると製造業の誘致は難しいだろうと思っています。また、東京都は歴史的に中小企業が多く、大企業よりもそちらを支援している立場もあります。金融は日本国内においては競争が少ないのですが、海外においては競争が激しく、新しい企業も生まれています。そこに着目しようというところです」

では、東京都として、東京の金融機能を世界と比較してどう評価しているのか。担当者の現状分析は冷静だ。

「アジアというリージョナル(地域)で見た場合は確かに外資系投資銀行が集まっているとは思います。ただ、香港、シンガポールなどと比べて、アジアのハブになれているかと言われると、重厚長大的な銀行は香港にあり、フィンテックなどのサービス的なところはシンガポールにあります。

東京は、レーダーチャートでいえば、英語の部分が凹んでいる以外は総合力では高いと思います。しかし、どれにおいてもトップになり切れていません。ハブになれるものが育ち切っていない感じです。フィンテック企業しろ、資産運用を行う企業しろ、数が少ないこともそこに表れていると思います」

香港であれば中国市場、シンガポールであれば東南アジア市場が視野に入るが、大陸から海を隔てた東京は場所的にもアジアを狙いにくい。とはいえ、今でも日本は世界第3位のGDPを誇り、国内だけでもかなりの市場規模を持つ。

「例えば、1900兆円ともいわれる巨大な個人金融資産がありますし、日本人は保険好きな国民性で、そこを視野に入れた企業が多いです」

金融以外で視野に入れている産業はあるのか。

「土地の課題がある第2次産業的なものは、基本的には視野には入れていません。IoT、AIなどデジタルの分野に資するものになります」

新型コロナウイルスで日本のデジタル化の遅れが顕著になったが、そういう意味においてこれまで取り組んできたことがマッチした形になった。

東京を選択肢に加えてもらう

金融の世界ではやはり英語が幅を利かせる。日本はその点で金融関係者が進出するのに二の足を踏みかねない。一方、英語は重要だが、かといって日本が英語を公用語にするのも違和感がある。

「外国の方に相談を受けるなかで、『自分自身は東京に行くのはいいのだけど、子どもを行かせる学校がない』という話を聞きます。例えば、インターナショナルスクールを増やすなど、都としてやれることがあるはずで、一つひとつ環境を整えたいです」

サポート内容が書かれたリーフレット(英語版)

アジアの金融のハブである香港は、金融関係者にとってキャリアアップの場所にもなっており、香港で経験を積んでから、ニューヨークのウォール街やロンドンのシティに就職……という人も少なくない。そういったなか、2019年からの政治的な混乱で人材の流出が一部で始まっており、彼らを呼び込めれば東京都として、ひいては日本にも好影響になるはずだ。

「都としてはそういう流れではなく、外国で働くなかでの選択肢の一つとして、または、新しい拠点として東京を選んでもらうようにしていきたいと考えています」

香港には「インベスト香港」という海外企業を誘致する組織があり、そのほかシンガポール、上海なども誘致に積極的で、香港の人材を呼び込もうとしたらそういった都市との競争になる。

「都としてはそういったところの取り組みを研究し、彼らがまだ取り組んでいないこと、東京の強みを生かした誘致を行っています」

と、治安の良さ、豊富な人材、経済力、社会的な安定など、総合力の高さで勝負する考えだ。実際、どのくらいの企業から引き合いがあるのか。

「年間100社ぐらいあります。この3年間ですと35社を世界から誘致することに成功しました」

実際、ビジネスコンシュルジュのホームページには、オーストラリアの化学データベース開発会社、カナダのIT関係、香港のデジタルマーケティング企業など多彩な企業が事例として紹介されている。

アフターコロナ、手厚い支援の先にあるもの

「例えば金融ですと、税制や英語の通用度みたいなのはある程度把握されているようで、相談内容としては、どういった登録が必要なのか?とか、金融庁との関係など実務的な話が多いです」

誘致する側としては手厚いサービスを提供していくだけだが、どの段階まで東京都は関与するのか。

「企業によりますが、小さな企業であれば、オフィスの紹介もしますし、会社が立ち上がるところまで行うこともあります。都としては補助金なども用意して、進出しやすい環境を整えるようにしています。ビザなどの関係もこちらで相談できます」

まだ、香港での窓口は始まったばかりであり、日本進出が決まった案件はないそうだが、すでにいくつかの引き合いはあるそうだ。

この一年、新型コロナウイルス感染症の拡大によって人の流れは止まってしまった。日本は総じて世界の潮流から遅れる傾向にあるが、世界の活動が滞り気味の今のうちに香港窓口を開設するという“種をまく活動”は、いずれ人の往来が再開したときに、世界に先んじて身を結ぶかもしれない。