脱炭素に向けて、CO2を活用する「親炭素」時代へ

2021.1.28

社会

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脱炭素に向けて、CO2を活用する「親炭素」時代へ

「脱炭素」、「カーボンニュートラル」、「カーボンゼロ」の潮流が世界を駆けめぐり、各国はその成果を競い合っています。我が国も、やっと菅首相が昨年10月末、「温室効果ガス2050年実質ゼロ」を宣言(本当は「完全ゼロ」を目指すべきですが)、欧州連合(EU)と足並みを揃える決断をしました。それ以降、にわかに脱炭素に向けての官民の動きが加速しています。本稿では、脱炭素に向け、現実的に何ができるのかを探りたいと思います。

非循環的な二酸化炭素排出による地球温暖化

地球温暖化の原因物質としては、二酸化炭素(CO2)よりも強い温室効果を示すメタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O、麻酔に使われる笑気ガス)、フロンガスなどがありますが、一般的によく知られているのは、大気中の絶対量が多いCO2です。CO2が増加すると、なぜ地球温暖化になるのかは、単純に温室のようにCO2の屋根ができるからではなく、CO2の分子運動と赤外線の吸収に密接に関係していますが、それについては割愛します。

人類が化石燃料を使う前、地球上においてCO2は基本的に水や酸素と同様に、増えもせず減りもせず、うまく循環していました。地球化学的循環は数百万年単位の変動で、大気中のCO2は水に溶け、やがて炭酸カルシウム(CaCO3、石)となって固体になり、火山の爆発により、CO2が大気中に出て、また水に吸収されます。生物学的循環は数万年単位の変動で、植物は大気中のCO2と水から、光合成によりデンプンやセルロースを作り、この時、酸素が発生、動物は酸素を吸ってCO2を吐いています。このように、CO2や酸素は、バランスよく循環しており、これが自然の摂理です。

しかし、人類はエネルギー獲得のため化石燃料を燃やし、地球化学的や生物学的二酸化炭素循環に比べて微々たる短期間、過去200年の間に、一方的にCO2を排出してしまいました。この人為的に排出されたCO2をリサイクルする術(人工光合成など)を人類は不幸にも未だに持ち合わせていないので、CO2は大気中に溜まる一方になっています。それではCO2削減をどう達成すればいいのか考えてみましょう。

二酸化炭素をどう減らせばいいのか

「温室効果ガス2050年実質ゼロ」の実現には、飛躍的な技術革新が欠かせませんが、まず当面できるものから始めるべきでしょう。我が国のCO2の4割は発電部門から排出されます。そこで家庭の電気消費量を削減すること、そして自家用車を控えて公共交通機関を利用すること、ごみを削減することなどは個人でもできることです。その上で、工場の電気消費量を削減すること、大量にCO2を排出する工場の規制(カーボンプライシングなど)が必要であり、太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギーの量を増やすことが求められます。

政府は、欧米や中国の発表に遅れて、2030年半ばに新車販売からガソリン車をなくすと宣言し、自動車メーカー各社は、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の開発を加速させています。さらに、新型EV電池・全固体電池の実用化、電力会社に温暖化ガスの排出枠取引制度導入、政府の脱炭素支援基金(2兆円、水素エネルギーや蓄電池)などなど、CO2削減に向けた取り組みが毎日のようにメディアをにぎわしています。できることは何でも実行に移すべきでしょう。

排出されるCO2を回収・利用・貯留するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の試みは経済産業省や資源エネルギー庁が中心になって進められており、その早期の実用化が望まれます。

一例として、現在日本のCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)調査株式会社が、苫小牧沖の海底1000m以上深くにあるすき間の多い砂岩などからできている貯留層に、製油所から排出されるCO2を大気放出前に回収して貯留する実証プラントを稼働しています。かなり大掛かりな施設で、大量のCO2を削減することが可能なため、実用化を期待しましょう。

CO2削減に向けてはいろいろなアプローチがありますが、次に排出されるCO2を利用する試みを紹介します。

「親炭素」とは排出される二酸化炭素の化学的有効変換・利用

化石燃料はCO2排出の元凶とはいえ、エネルギー獲得そして社会生活と経済を維持するためには、それでも当分の間、化石燃料を使わざるを得ません。CO2排出をどう制御、あるいは排出されたCO2をどう変換・利用するか、「脱炭素」や「低炭素」が叫ばれていますが、CO2を悪玉にしないで、その有効変換・利用を考える意味から、「新炭素」という言葉も生まれています。

CO2の有効変換・利用を考えれば、CO2と親しくする意味から、筆者は「親炭素」と標榜したいところです。

化学的には、排出されるCO2を原料にして、種々の炭化水素(メタン、エタン、エチレンなど)、アルコール(メタノール、エタノールなど)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、炭素数の多い脂肪酸など)、ポリカーボネート類のポリマーなどの有用化学物質の合成が可能です。これは既存の化学、特に「有機合成化学」という分野の力を駆使しなければなりません。

これは、“現代錬金術”といえる手法ですが、“錬炭素術”、“親炭素術”といってもいいでしょう。火力発電所などから排出されるCO2を即、有用化学物質に変換できればCO2削減に寄与することは間違いありません。研究レベルではいろいろなことが可能ですが、用途や需要、コストなどで実用化に至っているケースは多くありません。

そんななか、東芝は太陽光発電による水電解から製造した水素と火力発電所の排ガスからのCO2でメタノールを製造する「人工光合成」の実証事業を2018年より開始しています。また、三菱系各社は、前述の苫小牧にあるCO2回収設備からのCO2と、製油所から発生する副生水素と水電解により発生させた水素を原料として、メタノールを合成するプラント設置を想定した調査事業を2020年3月より始めています。

一方、アイスランドのCarbon Recycling International(CRI)は、世界初のCO2からのメタノール生産プラントを2012年から稼働しています。同企業が運転しているプラントは、地熱発電由来の電力で水を電気分解した水素と、地熱発電の随伴ガスであるCO2から、メタノールを製造して「Vulcanol」(火山volcanoとアルコールalcoholからの複合名詞)という商品名で売り出しているのです。

このように、化学には二つの側面があります。化学の発展に人類はより便利で豊かな生活を享受するというプラス面の一方、地球温暖化など環境問題が引き起こされたのは化学のマイナスの面が原因です。しかし、その地球を救うのも化学の力、上記のメタノールの製造は、化学のプラス面となる一つの手法となるでしょう。「化学は地球を救う」といえます。

日本は脱炭素の主役になれるか

以上、CO2削減の視点から、CO2そのものの回収・貯留そして利用について考えてきました。知的財産分析をしている会社・アスタミューゼによると、我が国の2018年のCO2削減の国外特許申請件数は約15000件で、その数は2位アメリカの1.7倍もの多さ。日本が脱炭素社会を牽引する主役になれると期待できそうです。

上述のメタノール生産では水素が重要な働きをしています。水素は次世代のエネルギーとして注目を浴びており、「人工光合成」と密接に関係しているものです。これについては稿を改めたいと思います。