「集団的自衛権」論議の意外な盲点~「駆け付け警護」「島嶼(とうしょ)防衛」はごもっともだが…

2014.7.10

政治

0コメント

7月1日、集団的自衛権をついに押し通した安倍首相は島嶼防衛にも意欲的。「でも実際に使える武器を自衛隊は持ってるの?」との声に応えるかのように、実は昨年、三菱重工業は日本初の”秘密兵器”を完成させている。人呼んで「タイヤ型戦車」。だが本当にお役に立てるのかどうか。

有事に必要なのは国土を守る装甲車

永田町では「集団的自衛権」「島嶼防衛」(日本の周りの海に浮かぶ島々を守ること)の論議がけたたましい。だが、この任務の矢面に立つと思われる国産の最新型装甲車が、どうやら”使えないアイテム”となりそうだ。装甲車の名は「機動戦闘車」。「機敏に動く」の意味が込められているという。

製造したのは戦車メーカーとしても名高い三菱重工業。昨年10月に試作車が完成し公開された。出来立てのホヤホヤだ。TVや新聞で「タイヤ型戦車」と大々的に報じられたので、ご存知の方も多いだろう。

戦車に付き物のキャタピラはなく、足周りには片側に4つ、計8輪のタイヤを装備。戦車に比べて装甲は薄いが、その分、重量は軽く、時速100kmの俊足で戦場に駆け付けられる韋駄天ぶりがウリだ。

さてこの装甲車、もともと陸上自衛隊が進める戦車大幅削減計画(現在の約750台から400台に)で生じる戦力の空白を埋めるための苦肉の策として誕生した。数少ない戦車は北海道と九州に集中配備されるため、近い将来、本州と四国から戦車部隊がいなくなる。このため、「万が一敵が攻めて来たら」という心配を払拭するため、コスト安のタイヤ型戦車=機動戦闘車の出現となった。

機動戦闘車の思わぬ落とし穴

陸自には間もなく正式に配備され、最終的には数百台がお目見え。そしてその手軽さから、前述した集団的自衛権や島嶼防衛における尖兵として、獅子奮迅の活躍が期待されているのだ。

だが、ここに深刻な”落とし穴”が存在する。まず、集団的自衛権の個別的具体例として掲げられた「駆け付け警護」。PKOで海外に派遣された陸自部隊の主力装備として、機動戦闘車も赴く公算が高い。そして、駆け付け警護の場面が実際に起こったとしよう。

大きな大砲を備える機動戦闘車は、一見強そうだが、そもそも国内使用を前提に開発したため、充分な地雷対策が施されている様子がなく、戦車よりも装甲も薄い。このままでは、テロリストやゲリラが多用する地雷やロケット弾、IED(飛行機から投下した大きな爆弾を改造した即製爆弾)の攻撃にはひとたまりもない。

一方、島嶼防衛での出撃となると、さらに厄介なことになる。まず、そもそも機動戦闘車を空輸できる大型輸送機が存在しないのである。現在、川崎重工業がXC-2という国産輸送機を開発しているのだが、これが遅れに遅れているのである。機動戦闘車1台を余裕で運べる能力があり、当初計画では2011年度から航空自衛隊への配備が始まるはずだったのだが、数々の不具合が見つかり、2016年度まで完成は先送り、というのが実情だ。しかも、不具合を修正するための補強を繰り返した結果、今度は機体自体の重量がかさみ、このままでは機動戦闘車が運べなくなってしまうという。

つまり、離島に侵攻した敵部隊を即座に撃退するため、機動力が自慢の機動戦闘車を空輸しようとしても、運べる輸送機がないという、笑うに笑えない状況がしばらく続くわけである。

議論の先にある”装備”

もちろん、船で運ぶという選択肢もあるが、それならば、初めから戦車を出撃させれば事足りるという話となり、さらに、機動戦闘車は一体どういう場面で必要なのか、という根本的な疑問に至ってしまう。また、それ以前に「敵が占領する島の飛行場に、一体どうやって着陸するのか」という、素朴な疑問もよぎる。

また、こうした作戦には、浮航性能(水に浮かんで進める能力)を持つ装甲車が投入されるのが常識だが、機動戦闘車にはそんな能力などない。「揚陸艦で沖合まで運び、そこから上陸専用のホバークラフトに載せて強行突入すればいいでは」との声も出そうだが、それなら、前述と同様、戦車で事足りる。

何となくすっきりしない、ちぐはぐだらけの機動戦闘車開発。先日フランスで開催された世界的名武器展示会に、三菱重はこの車両をベースにしたと思われるMAVなる装甲車の模型を初めて展示。こちらは地雷対策や装甲のパワーアップなどもバッチリ施されていることから、おそらく機動戦闘車の量産型にもこれらが装備されるのだろう。だがそうなれば、やはりコストと重量のアップという呪縛から逃れられなくなる。

1台7億円といわれる世界一高価な装甲車、機動戦闘車。「集団的自衛権」「島嶼防衛」の論議もいいが、そこで使われる装備にも、もっと納税者は注意を払うべきではないだろうか。

昔の零戦は、当初非常に優れた戦闘機だった。B-29が登場して、どんどん差が広がってしまったが、日本の技術力は当時から優位性があったことがうかがえる。しかし、現在の日本は基本的には武器輸出ができない(しない)ので、技術力の維持・向上は国内向けの開発でしかできない。当然、アメリカのように大きな軍需産業はないので、三菱重工を筆頭に、かつての軍需企業がなんとか開発を行っている程度に過ぎない。

ということで、集団的自衛権の議論が熱を帯びているが、実際の装備はどうなっているのかというと、この記事のような有様だ。宝の持ち腐れ、というか、そもそも宝でもないかもしれない戦車を用意しても、まったく使い物にならない、ということになりかねない。以前は軍事費が問題になっていたが、最近は中国の台頭もあり、あまり問題になっていない。日本では約6兆円もの軍事費が使われているのだから、有権者(納税者)がきちんとチェックをしなければならない。