データヘルスで国民皆保険を守れ

2014.7.10

社会

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高齢化が進み、今後医療費だけで国の税収を超えるのは時間の問題。このままでは国民皆保険の制度が維持できなくなる。集団的自衛権もいいのだが、今から真剣に取り組まなければ、最低限の医療しか受けられなくなる可能性もないわけではない。真剣に考えてほしい。

増加の一途をたどる医療費が足りない!

厚生労働省の発表によると、2011年度に全国の医療機関に支払われた医療費の総額は、前年度比1兆1648億円増の38兆5850億円で、過去最高を更新した。高齢化の進行に加え、医療技術の進歩により治療費が膨らんだのが主な原因と考えられる。

年齢別では、65歳以上が21兆4497億円で全体の55.6%となっており、今後も高齢化がさらに進む中で医療費に歯止めがかからない形だ。厚生労働省の試算によると、2025年には医療費総額は60兆円を超える規模となる見通し。

そのようななか、公的医療保険財政が逼迫(ひっぱく)している。健康保険組合連合会の公表によると、2013年度は全健康保険組合中の8割が、2012年度は9割が経常赤字となっている。経常収支差引額が赤字になるのは2013年度時点で6年連続である。

各組合とも、これまで積立金を切り崩して運営を続けてきたものの、今後も支出圧力が続けば多くの組合の存続が危ぶまれるという。実際、2008年には大手企業の西濃運輸および京樽の健康保険組合が解散に追い込まれ、話題となった。このほかにも毎年数10程度の組合が解散している現状がある。

組合解散の要因は高齢者の医療費負担

こうした健康保険組合財政の窮状は、実は医療費総額の増加だけが原因ではない。現行制度上、75歳以上の後期高齢者については、医療給付に対する自己負担割合は原則1割となっている。残りの9割のうち、5割は公費、4割は現役世代が加入する医療保険により負担されている。

また、65歳から74歳までの前期高齢者の医療費については、自己負担及び公費負担を除いた部分は保険者間で財政調整が行われることとなっており、健康保険組合にとっては大きな負担となっている。

これらの後期高齢者支援金、前期高齢者納付金支出を合わせると、2013年度は健康保険組合の保険料収入の46.25%となっている。つまり、収入の約半分が自らの組合の被保険者以外の医療費のために支出されているのだ。このままでは、健康保険組合は医療保険制度によって潰されかねない状況だ。

国民を健康にして医療費を下げたい政府

政府も黙って手をこまねいているわけではない。日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)では、「健康保険法等に基づく厚生労働大臣指針(告示)を今年度中に改正し、全ての健康保険組合に対し、レセプト等のデータの分析、それに基づく加入者の健康保持増進のための事業計画として「データヘルス計画(仮称)」の作成・公表、事業実施、評価等の取組を求めるとともに、市町村国保が同様の取組を行うことを推進する」こととしている。これはつまり、保険者が被保険者に対する保健指導等の事業を実施し、一人ひとりの健康状態の改善を図ることを通じ、医療費総額を適正化し、医療保険財政の改善を図ろうとする取り組みである。

厚生労働省では、「データヘルス計画」の平成27年度からの全国的実施に向け、平成25年度から26年度にかけてモデル計画策定等の事業を実施しているところだ。

このような、真に意味のある取り組みにはぜひ期待したい。しかし、制度的な踏み込みの観点からは、まだまだ不足と言わざるを得ない。

現在の医療保険制度では、定年退職後の各個人の医療費の多寡は個別の健康保険組合財政に大きなインパクトを与えないからだ。せっかく「データヘルス計画」のような仕組みを導入するのであれば、後期高齢者医療制度の対象となる74歳までは、その医療費は引き続き健康保険組合が負担する制度を同時に導入すべきだ。

理由は簡単。65歳以上の高齢者の莫大な医療費を負担することとなれば、組合は本気で生活習慣病対策等の保健事業に取り組まざるを得なくなるからだ。

年金と同じで、若者の保険料が医療費を支えているという構図は、成熟社会の少子化には重くのしかかる。国民皆保険制度が今のままでは持たないことは、誰が考えてもわかる。医師会も自分たちの利益ばかりを守ろうとしていると、保険制度が崩壊して自らの首を絞めかねないことを自覚するべきだ。安心して長生きできないような社会にしてはいけない。みんなで痛みを分担して、医療費を削減する(予防医療など)方向を真剣に考えないと。