写真:芹澤裕介

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ウェルネスカンパニーを目指すアデランスの光触媒事業【アデランス津村社長×プロラボ佐々木会長】

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毛髪事業を展開するアデランスは、2018年の50周年を機に、“美容と健康”へと事業領域を広げている。昨今の衛生管理に対する意識の高まりのなかで衛生事業を強化し、2020年9月には光触媒技術を用いた事業を開始し、「Hikarium(ヒカリウム)」ブランドとして始動。毛髪事業を主軸としてきたアデランスが今、衛生事業に取り組む意義とは何だろうか。アデランスの美容・健康商品を自社サロンで扱うなど、協業や交流を重ねてきたプロラボ ホールディングスの佐々木広行会長が、アデランスの津村佳宏社長に話を聞いた。

株式会社アデランス 代表取締役社長 グループCEO

津村佳宏 つむら よしひろ

広島県出身。早稲田大学卒。1982年、アデランス入社。東北営業部長、営業本部長、代表取締役専務、同副社長を経て、2017年に代表取締役社長に就任。一般財団法人 日本化粧療法医学会 副理事長、看護理工学会 評議員、一般社団法人 日本ヘルスケアサービス産業協会 参与、日本経営倫理学会所属、一般社団法人経営倫理実践研究センター企業BEO、金沢工業大学 客員研究員。

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株式会社プロラボ ホールディングス 代表取締役会長・グループ代表兼CEO

佐々木 広行 ささき ひろゆき

神奈川県出身。早稲田大学卒。一部上場企業を経て、1998年、フリーペーパー発行会社、株式会社ウィズダム教育通信社を設立。2002年、株式会社プロラボホールディングス設立。一般財団法人 内面美容医学財団(IBMF) 主幹、一般社団法人日本ヘルスケアサービス産業協会 理事。

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創業50周年を機に“美容と健康”の分野まで展開

佐々木 アデランスさんには3年ほど前から直営のセレクトショップやサロンでプロラボの商品を取り扱っていただいています。弊社が認定するサロンの功績や取り組みに賞賛を贈るイベント「プロラボアワード」では2年連続で、2位という好成績を出されました。

津村 なかなか1位にはなれないものですね(笑)。アデランスは1968年の創業以来、長年にわたり毛髪事業を手がけており、主にヘアウィッグが売上の大半を占めています。ほかにも育毛、増毛、ヘアケア商品、スカルプケアなどを展開し、国内だけでなくアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど海外にも計19の国と地域に拠点を置いています。毛髪研究は産学連携も盛んで、今では毛髪や皮膚などに関連したものやウィッグなど商品に関連したものと合わせると約300件の特許を保持しています。出願中のものも含めると約400件となります。

そんななかで、毛髪の周辺分野である“美容と健康”に取り組み始めたのは創業50周年がきっかけでした。

佐々木 すごい特許の数ですね。新しい取り組みを始めようとされたのは何が理由だったのでしょうか。

津村 次の100年は、グローバルなウェルネスカンパニーを目指そうと思いました。そのために、パートナー企業とスキンケア商品などを開発しました。また、インナービューティ、つまり“体の内側から整える美”にも取り組む必要性を感じまして、インナービューティのパイオニアであるプロラボさんとタッグを組みたいと思いました。スタートはプロラボさんのオリジナル商品を活用させてもらいましたが、最近ではアジア向けに毛髪に良いというサプリも共同開発させてもらいました。

佐々木 そうですね。今後は共同開発の方も深めていきたいです。

ウェルネス

1961年にアメリカのハルバート・ダン博士が「輝くように生き生きしている状態」と定義した、より良く生きようとする生活態度。病気ではない状態であるヘルス(健康)を基盤として、熱中するものや生きがいがあるなど、より自発的な健康促進に重きを置く概念。

コロナ禍による創業史上初の打撃

佐々木 ウェルネスカンパニーを目指すとおっしゃいましたが、その未来図はコロナ禍で軌道修正を迫られる部分はありませんでしたか?

津村 2018年度の売上は802億円、2019年度は過去最高の818億円を記録しましたが、コロナ禍で一変しました。まず百貨店の休館日の増加により、百貨店で展開していた女性向けウィッグ「フォンテーヌ」に強い影響を及ぼしました。お客様は高齢の方が多いので、「店に来るのが怖い」という声もありました。

さらに海外でも展開していたショップが各国の事情によりストップ。ウィッグ工場はフィリピン、タイ、ラオスにあるのですが、フィリピンとラオスはロックダウンが実施され、製造が止まり、納品がすべて遅れました。広告も止めましたし、非情に厳しい状況が続きました。

弊社は2月決算ですが、第一四半期、つまり2020年の3~5月は本当に大変な状態でした。これまでバブル崩壊をはじめ、いくつかの大きな金融危機や自然災害を経験してきましたが、これほど影響が出たのは今回が初めてです。

佐々木 エステプロ・ラボも2020年4月の緊急事態宣言ではほとんどのサロンを休業することになり、講習会やイベントなども自粛せざるを得ませんでした。そのような状況で、アデランスさんではどのようなことをされたのでしょうか。

津村 ステイホーム期間中は、お客様から「ウィッグの手入れができない」という声が届くようになりました。国内にはショップやサロンが約420店舗(アデランスグループでは国内に約500店舗)ありますが、ほとんどが対面販売を行っています。対面でカウンセリングを行うことで、お客様とウィッグを通じて一生のお付き合いになっていきます。これはわれわれの長所でもあるのですが、コロナ禍のような状況では一気にそれが難しくなってしまいました。

そこで、ウィッグを送っていただいたら無料でメンテナンスを承るというサービスを行いました。さらに自社のお客様だけでなく、他社のウィッグも引き受けることにしました。ウィッグのお手入れをするスタジオには、想定をはるかに上回る数のウィッグをお寄せいただきました。6月から開始し、翌月には前月比約4倍の件数をご依頼いただき、感謝の声がたくさん寄せられました。

次に手を打ったのがECの強化です。具体的には国内外でオンライン販売を開始し、海外を含むほぼすべての地域で対応可能にしました。反応は良好で、こういったデジタルシフトは重要だと認識しましたね。

光触媒を使った衛生事業参入へ

佐々木 美容・健康事業のほかに2020年からは光触媒技術を使った衛生事業にも参入されましたよね。弊社のサロン「エステプロ・ラボ青山」にも光触媒コーティングの施工サービス「Hikarium Air iShelter(ヒカリウム エア アイシェルター)」を施工していただきました。

光触媒

酸化チタンが持つ光触媒反応を応用した技術。太陽光や室内灯などの光が当たることで、その表面で化学反応を起こし、有機物などを分解する特徴があるとされている。それによって光触媒自体に付着する菌やウイルスの増殖抑制や悪臭の緩和が期待できる。

津村 衛生事業についてはコロナ禍以前から少しずつ取り組んでいました。最初に開発したのが手指用消毒ジェル「RiBiJo(リビジョ)」で、2020年4月から販売。これは、われわれとかかわりが深い理美容業界の一助となるように作ったもので、商品名も“理美助”から来ています。

スタイリストさんはシャンプーやパーマ液などで手が荒れる人が多いんです。そこで保湿成分をたっぷり入れて、アルコールを低くする代わりに新型コロナウイルスにも有効(参考:独立行政法人製品評価技術基盤機構 消毒手法タスクフォース)とされている塩化ベンザルコニウムを配合しました。

光触媒技術については、世間の衛生管理への意識の高まりを感じるなかでその存在を知り、光触媒研究の第一人者である藤嶋昭先生(東京理科大学栄誉教授)とお会いして素晴らしいものだと思ったんです。

光触媒反応は54年前の1967年に藤嶋先生と故本多健一先生が発見されたものなのですが、昨今のESGの高まりを受けて韓国やドイツ、特に中国がすごく力を入れている分野になります。2020年9月に光触媒ブランド「Hikarium(ヒカリウム)」を立ち上げ、現在は藤嶋先生には顧問としてアドバイスいただいております。

ESG

企業が長期的に成長するために必要とされる3つの観点、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの。投資家が投資をする際の基準ともされ、経営においては消費者、従業員、株主といったステークホルダーからの要請に従って3つの観点のバランスを取ることが求められる。

理美容室やエステサロン、飲食店、コールセンター、老人ホームなどに向けて、光触媒コーティングの施工サービス「Hikarium Air iShelter(ヒカリウム エア アイシェルター)」を提供し、光触媒コーティングスプレー「Hikarium Air iProtector(ヒカリウム エア アイプロテクター)」の販売などを行っています。場所や素材にもよりますが、一定効果が持続します。

一般的な光触媒溶剤と異なるところは、銀イオンを配合していること。それによって光が届かない場所や夜消灯した場合でも銀イオンの働きにより一定効果を発揮します。すでにアデランスのサロンは全店コーティングしており、ほかにはプロラボさんのサロンをはじめとした理美容関係、あとは飲食店などに施工させていただきました。

光触媒コーティングスプレー「Hikarium Air iProtector」

佐々木 「Hikarium」の開発に注力されたのはコロナ禍が大きかったのでしょうか。

津村 そうですね。事業というより“衛生管理”という面が強いかもしれません。ニューノーマルに対応できるものとして必要だと思いました。「Hikarium」については、今も研究を続けていますし、今後も大学や企業との共同研究を進めてまいります。

ウェルネスカンパニーを目指すための4つのキーワード

佐々木 創業50周年を経て、これからのアデランスさんに必要なものとはなんでしょうか。

津村 私の考えではこれからはパーソナライズ、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ヘルスケア、ESGの4つが弊社にとって必須のものだと考えています。

「パーソナライズ」はウィッグの販売などですでに行っていますが、顧客一人ひとりに合わせた最適なサービスの提供です。それはオンライン販売の導入による「DX」によってより強化されました。「ヘルスケア」は美容・健康・衛生にとどまらず、光触媒を研究していけば公害や地球温暖化といった課題にも寄与できるかもしれません。それは「ESG」ひいてはSDGsにつながります。この4つは徹底的にやらなければいけませんね。

佐々木 グローバルなウェルネスカンパニーを目指すためのキーワードですね。本日はどうもありがとうございました。